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#28 素の宝石たちに会いに

こうして宝石について語るうえで、本当はわかりやすく毎回写真や画像などを添付した方がいいと分かっていながら、とても苦手で、プライベートではほとんど撮影はしません。
でも、今回は別。
下手ですが、ご容赦ください。

毎日宝石に触れる仕事をしていても、たまに"石不足”で自由に息ができなくなる気がします。
これは、きちんと自分が「宝石」と向き合っていない証拠だと感じる。
そこで今回は、国立科学博物館の「櫻井鉱物コレクション」を観てきました。
これは、上野の国立科学博物館の常設展で、"地球館”と"日本館”の二種類の展示があるうちの、"日本館”の3階の一角にある展示です。
櫻井欽一博士の、生前にご自身で集められた個人コレクションです。

石英(日本式双晶)

この展示室に入ると、不思議と温度が3度くらい低く感じます。
まるで、洞窟に迷い込んだような不思議な空気感。
保存のためにちょっと温度が低めなのかもしれませんが、ちょっと暗めの明かりとあいまって、とても良い雰囲気。
いつもと変わらず、静かな光に照らされた鉱物たちが、ひっそりと私を迎えてくれました。

柘榴石(ガーネット)

普段、綺麗に整ったカットが施された宝石ばかりを見ていると、どうしても初心を忘れてしまう気がします。
人間に例えると、毎日パーティー会場で着飾っている人達と一緒にいるみたい。
でも、その本質の姿を見ることで、色々なことにがんじがらめになっている自分自身も、解きほぐされる気持ちになるのかもしれません。

ガーネット(柘榴石)やアクアマリン(藍玉)、サファイア(コランダム)、アンダリュサイト(紅柱石)、シナバー(辰砂)などなど・・・
※(括弧内は展示の際の名前)

普段私たちがジュエリー上でキラキラと楽しんでいる宝石たちの、原石が生まれたままの姿でこちらをにこにこ見てきます。
「いらっしゃい」
そんな声が聞こえるような、とても幸せな空間です。
やっと、久々に呼吸ができた・・・
そんな気持ちになりました。
なかでも、もし行かれる方がいらっしゃったら是非見ていただきたいのが
「パイロクスマンガン石(Pyroxmangite・パイロクスマンジャイト)」
という、オレンジ味をかんだ夕焼け色の赤い結晶の原石です。
この石はレアストーンなので大きな結晶がなかなか市場には出回らず、私もかつて1度だけルース(裸石・カット石)で扱ったことがあるだけでした。それが2点ほど、母岩に付いた原石の状態で展示されています。
原石の状態でも、鮮やかなオレンジッシュ・レッドの色が分かるくらいの鮮やかな「自色性」の鉱物です。これは、一見の価値あり。
※感動しすぎて写真撮るの忘れました。すいません。

今回はちょっと展示の説明を見ずに、一心不乱に石ばかりを眺めていたので記憶になってしまうのですが、この一角のコレクションは確かすべて日本列島から採掘された物だったと思います。こんなにも多彩な鉱物が日本でも採れるのかと、とても驚かされます。

私は宝石が好きで宝飾業界に入りましたが、元々は化石や石が好きなことが発端でした。
鉱物は、それぞれで「結晶する形」が決まっています。地中でもし何の制約もなく成長できる環境だった場合、イチョウの葉がその形であるように、どんぐりの形がその形であるように、「それぞれ結晶の形が決まっている」のです。それはそれぞれの鉱物(宝石)特有のものなので、カットしてしまうと見分けがつかない色や輝きの物であっても、原石の状態で見るとすぐに見分けがつくほど個性的です。
今回は、その一つ一つの原石の標本を眺めながら、
「そうそう、君はこんな感じだったよね」
「カットしなくても独特の色つやが美しいよね」
と心で語りかけながら、楽しい時間を過ごしました。

石英(日本式双晶)

そして帰りがけは、その展示の向かいの部屋にある「フタバスズキリュウ」もちらっと再会してきました。フタバスズキリュウは、私の故郷で見つかった唯一大型の(?)化石です。
何故か、本体は地元ではなく国立科学博物館にあるということで・・・再会してきました。(本当は、全国何カ所かに分散して展示されているらしい)

今回は、平日だったからか中学生くらいの子たちの校外学習と重なってしまい、静かに見たかった私としては、「あ~、しまったな」と心の中で思っていました。いやあ、賑やかだった(笑)
でも、見ている子たちの、
「私、紫水晶好きなの!!」
「砂金があるじゃん、スゲー!」
「これを削ると、宝石になるの?」
「めっちゃ綺麗じゃん!!」
などの元気いっぱいの会話を聞いていて、
「ああ、この子たちの中から、きっとまた、未来の宝石業界を背負っていく人達が育っていくのだな」
と、なんだか胸が熱くなりました。

きっと、今日のあの校外学習のあのひととき、みんなと同じようにワイワイとショーケースの前を通り過ぎるなかで、きっと何人かの心の中に「ポッ」と"宝石の火”が灯ったに違いない。
熱心にショーケースを覗いていたあの少年の背中に、
タブレット越しに真剣に資料画像を撮影していたあの少女の笑顔に、
そんな未来が見えてなりません。

うん、うん、
宝石業界の未来は明るいぞ!
そんな、宝石にも人間にも元気をもらえたひとときでした。
上野公園近くにお越しの際は是非、
国立科学博物館→日本館・常設展→3階・櫻井鉱物コレクションへ!!

※写真は完全に私の好みの結晶形のもので、色があるものを撮り忘れました…。もっとカラフルなものもたくさんあります。すいません。

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