ちいさくて豊かなコミュニティーの創造は、文化人類学的な探求からはじまった
今回は、小さい豊かなコミュニティーの創造について、浅草の呑める魚屋 魚草 店主の大橋磨州氏にお話を伺った。
冒頭、武蔵野美術大学 大学院の若杉教授から、江戸時代の在りようについて、コメントがあったのでそちらから紹介したい。
1)江戸時代のコミュニティー状況って?
江戸時代に「コミュニティー」という言葉は馴染むほどに使われていなかったのだろう、と察するが、令和の時代に生きる私たちが見習うべき要素が多様にある。例えを挙げるとこんなところ・・・
▶︎江戸時代のちいさくて豊かなコミュニティー
公私の境がない:縁側文化・シェア型社会
ワークシェアアリング:小商いのネットワーク
▶︎8つの資本
私たちが暮らす生活、それを構成する産業は、大きく分けると8つの資本に分かれるという。
近代的資本
身になること(実・緑):生命資本、物的資本、金融資本、知的資本
根源的資本
余計なこと(土壌):社会資本、文化資本、精神資本、経験資本
2)文化人類学の研究から辿り着いたアメ横の魚屋
大橋さんは、慶應大学文学部を卒業後、東京大学の文化人類学研究室に入った。しかし、中退し、なぜかアメ横の魚屋を手伝うようになり、2013年から「魚草」を経営している。一体何があったのだろうか。
▶︎アメ横ってこんな街
・東京の玄関口
・日本一の商店街「アメヤ横丁」
・闇市にルーツを持つ安売りの街
・たくさんの個人事業主、商売人のメッカ
・豊富な品揃え、商品知識
・ケバブ、小籠包、タイ料理・・・外国人屋台
・立ち飲み屋が軒を連ねる人情の街
・歳末大売り出し
▶︎大橋さんのお店、魚草。
1,000円のセットをいろいろ用意されている。メニューはこちらから見れる。
中でも「サメの心臓」が一番の人気メニューだろう。下は「エイの肝」。こんなものが食べられる場所があったんだ・・・
大橋さんのお店では、バイトを雇っているそうだが、バイトを卒業して会社員となった今でも、デスクワークの業務を勤めていると「疲れた〜」「働いている実感を感じたい」と、正月や休みに手伝いに戻ってくるそう。なんだか、人間らしいし、そういう関係性と体験を求めにこれる場のなのだなと言うことが伺える。
2)38歳の大橋さんがアメ横で店主をするまで
▶︎大橋さんはこんな人
高校と大学は演劇に打ち込む青春の日々を送ったそう。大学時代は、演劇にハマり、自主公演をしたとか。そこから、民俗芸能を研究した経緯からも、踊りのルーツを辿ってみたいと、秋田県の西馬音内盆踊りを実際に現地へ行き、探求することに。
▶︎秋田県の西馬音内盆踊りに衝撃が走る
目の当たりにした、「顔を出さずに踊る」という行為に人が惹きつけられることへの凄さを目の当たりにし、卒論を書いた。
しばらくして、研究者として生きるのもなんだかな…と考えあぐねているところ、年末のアルバイトでアメ横へ飛び込んだ。するとそこは、祭りのような有様だったそう。
アルバイト初日、店先に立って「マグロが千円!!!」などと怒鳴ってこいと言われた。そこで、大橋さんはいかにもこの店の3代目であるかのように店先に立って声を出してみた。すると、お客様が押し寄せるようにやってきた。この感じに、ステージと同じような感覚を覚えたそう。ある仕組みがある・・・と。
魚のことを詳しく知るわけでもなく、食べたこともなくても、「安いんだから持ってけよ」と、新参者でもステージの真ん前に立ちパフォーマンスをすると、観客が押し寄せてくるという仕組み。
3)アメ横という場所はすべてハッタリ・・・?
「 " 人間らしい仕事 " だなんて、どうか言わないでくれ!」
大橋さんは、逆説的だが・・・と思いながらも「そういう語り方に惹かれたり、トリックに騙されてはダメ。お客さんと仲良くなって一緒に飲みに行ったりする若者もいるが、それでは消耗してしまう。魚の名前を言うのも仕事、それだけでも自分を切り売りしなくて良くなる」と語る。
そして、西馬音内盆踊りの凄さを強調する。それは、「無名性」「顔を出さない」「名前も出さない」というのに15万人に観てもらえること。
大橋さんの興味は、「その人を活かすインフラや仕組み」だそうで、今後も探求しながら、魚草を切盛りされるそう。一度行ってみたい。
ちなみに大橋さんのお母さんは、本を読んだらそのソファからじっと動かないという人だそう。そんなお母さんの言葉を載せさせていただく。
「世界は知ろうとすれば、知ろうとするほど狭くなっていくのよ。」
情報元:
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第8回 大橋磨州氏 2020/07/06