Design with Precision and Flexibility、ちょっとした造形が雰囲気や行動を変える
今回は、数々の優れたインテリア用品から高級品、そして建設事業のデザインなど多岐にわたるデザインをされてきた、インダストリアルデザイナーの 川上元美氏にお話を伺った。
1)川上氏が手掛けてきたデザインの数々
デザイン性の優れた、気の利いた、日常生活の用品。
ソファやチェアから、テーブル、ベッド、ナイフ、などなど多数。詳しくは下記から参照されたい。
2)時代を超えて愛されるシンプルかつモダンな佇まい
川上氏は、新ヤマハホールで使用されるホールチェアの依頼がきて、機能を最大限に生かした美を追求したホールチェアをデザインした。依頼主は、川上氏の “流行にとらわれない、今後100年経っても古さを感じさせない” という考え方を大切にしていることに、深く共感したためだ。
川上氏は、「座り心地がどのホールよりも素晴らしいものを。そしてデザイン的にモダンな部分に、ヤマハらしさを入れてほしい」という依頼に対し、「ヤマハらしさとは、日本の特徴でもある“和”を体現していることだ」と捉えたそう。従来の伝承するものを引き継ぎながら、絶えず異質なものを取り込み、新しくクリエイトすること。つまり、「ハイブリッド」するデザインこそが日本文化の「和」であるという考え。
3)景観と人の動きに合わせたレセプション・チェア
デザインとは、座り心地といったUXを重視することだけではない。市民ホール、ホテル、銀行、美術館、或いは病院のレセプションにおくチェアを、景観と人の動きに合わせることを追求して、デザイン。人の行動をみると、レセプションでは、長時間滞在することはなく、むしろ流動的なので、心地よさより景観としての美しさ、気軽に腰をかけられることを重視した。
4)日常から利用できる高齢者用のベッド
高齢者用のベッドというと、かなりガッチリした作りで、いかにも病院においてありそうな印象を抱く。だが、川上氏は、極力シンプルな設計にし、利用者の必要に応じて、必要な動作をオプションで追加できるベッドをデザインした。これは、コンセプトと機能性の素晴らしさから2007年にグッドデザイン賞を受賞した。
5)グローバリズムの中のリジョナリズム
近年は、「グローバリズムの中のリジョナリズム」を大切にしようと、食物、家、および環境に関連した伝統的な文化の再考をテーマにしたデザインを試みていらっしゃる。
例えば、組み立てが可能なシンプルで特徴的な椅子や、引き算の椅子と言って、余分なものを外すことで、空間を広く感じさせるようなデザインのもの、有田焼とのコラボレーション、ステンレスでデザインした茶杓(裏千家のあるお茶会で利用されたそう)、同級生と協働したBlendyのロゴとボトル(同級生がロゴ、川上先生がボトルをデザイン)
6)ちょっとした造形が雰囲気や行動を変える
ある時、橋のデザインをされたそうだ。川上氏曰く、建設事業はデザイン性を重視しないが、デザインが入ることで変わると言う。確かに、建築であれば話は別のように思うが、橋など公共施設の建設業では、デザイン性よりも、安全性や機能性にフォーカスが当たることが多いように感じられる。同じ価値を提供するにも、見た目が異なるだけで、受ける印象はだいぶ変わる。
ちょっとした造形が、雰囲気や行動を変える
7)人工の美、自然の美を使い分ける
川上氏は、"「火の手」「人の手」により現れるテクスチャーの壁”というコンセプトで、『不揃いの花筒』をデザインした。
川上氏のサイトから、説明を以下に引用する。
「火の手」
いま国内の杉が伐採の時期を迎えている。間伐を怠ると山が荒廃していく。杉問題への気づきを期待して古くから街路の景観を形作ってきた焼杉の下見板塀、あの焦げた木肌の表情をガラスに移し留めてみようと思った。杉材の木型に直接溶解したガラスを吹き込むと徐々に焼きが進んで、十本十色。
「人の手」
筒ガラスのプレーンな表面に、大工の削るざっくりしたデコボコのなぐり加工のような力強い表情を施す、これ「名栗切子」と命名す。
デコボコな形をした透明なガラス花瓶、黒ガラスはまさに墨衣、内側にチタンや銀鍍金を施して燻したような朧銀の表情が虚ろだ。
8)会場から川上氏への質問
ーどういう瞬間にデザインの発想が生まれるのか?
パッと生まれる時もあれば、会議中に落書きするようにして浮かぶものもあったり、何時間考えても出ない時も、色々ある。
その時、こんなテーマ、と言われると、すっと浮かんだりする。引き出しを持ち、普段から興味を蓄えておくことが大事。
ー様々なマテリアルに関する知識が身についたプロセスの中で特に印象のある経験、学びはどんなことですか?
学生時代の経験が大きい。自分がいた前後トータル10年間は、色々チャレンジできた。
ー川上氏が一番思い出深いデザインはどれですか?
折りたたみ椅子
小さな分野の世界的な革新を起こしていらっしゃる川上さん。
学生時代に興味を持っていたことが、いまだに続き絶えないそう。
わたしもそうして、一つ一つ関心事に向き合い、形にしていきたいと思う。
情報元:
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第4回 川上元美氏 2020/06/08