#152_金賢姫(キム・ヒョンヒ)全告白「いま、女として」①
本日は表題書籍の感想を書きたいと思います。
題名:いま、女として 金賢姫全告白
著者:金賢姫
発行年月日:1994年9月10日 第一刷/1996年4月30日 第11刷
本書は上巻(377頁)、下巻(365頁)、合わせて743頁ある為、部分的に区切って紹介したいと思います。
まずは、上巻始めからp104迄となります(全体の約7分の1)
紹介の前に、本書の前提となる、大韓航空機爆破事件の基礎情報を共有したいと思います。
■大韓航空機爆破事件(wikipediaより)
大韓航空機爆破事件(だいかんこうくうきばくはじけん)は、1987年11月29日に韓国・大韓航空所属の旅客機が、北朝鮮の工作員によって飛行中に爆破されたテロ事件である。
以下、事件の経緯(抜粋)である:
<経緯>
・事件の被害に遭ったのは大韓航空に所属する大韓航空858便
・大韓航空858便は、アブダビを協定世界時日曜日の午前0時01分に離陸、
・ほぼ定刻通りにバンコク国際空港に到着するはずであった
・ラングーンから南約220km海上上空の地点で、午前11時22分に旅客機内で爆弾が炸裂し、機体は空中分解し墜落した
とのこと。この墜落で
<被害>
・機長は、遭難信号や地上の管制機関に緊急事態を宣言する間もなく、爆発の衝撃で即死したと見られる。乗客・乗員115人全員が、行方不明(12月19日に全員死亡と認定)となった
とのこと。この実行犯について
<実行犯>
事件直前、バグダードで搭乗して経由地のアブダビ空港で降機した乗客は15人いたが、その中に東アジア系の男女が1人ずついた。
この2名は、日本のパスポートを持っており、30日午後にバーレーンのバーレーン国際空港にガルフ航空機で移動し、同国の首都マナーマのホテルに宿泊した。
旅券名義は「蜂谷真一(はちや しんいち)」と「蜂谷真由美(はちや まゆみ)」であった。
2人は「父親」と「娘」の関係だとされた。
<逮捕の経緯>
韓国側も搭乗名簿から、この「日本国旅券」を持つ2人の男女が事件に関与したと疑っており、当地の韓国大使館代理大使がその日の夜に接触していた。
「蜂谷真一」と「蜂谷真由美」の2名は、バーレーンの空港でローマ行きの飛行機に乗り換えようとしていたため、日本大使館員がバーレーンの警察官とともに駆け付け、出国するのを押し留めた
空港内で事情聴取しようとした時、男は煙草を吸うふりをして、口の中に忍ばせていた青酸カリ入りのカプセルを噛み砕いて服毒自殺した
女はマールボロに隠された青酸系毒薬のアンプルを警察官から奪い取り自殺を図ったが、すぐに警察官が飛びかかり直ちに吐き出させたため、完全に噛み砕けず青酸ガスで気を失って倒れただけに留まり、意識不明ではあるが一命はとりとめたとされている
<取り調べ>
バーレーン警察による取り調べが行われた後、国籍も姓名も割り出せないまま「蜂谷真由美」名義の女の身柄は12月15日に韓国へ引き渡された
当初、彼女は日本人になりすましていたが、ソウルに移送されることだけは避けたいと考えて中国人になりすまそうとし、中国の黒竜江省出身の「百華恵」であると供述、容疑を否認し続けた
というのが、大まかな流れである。
本書の著者である金賢姫は、上記説明の蜂谷真由美(日本名)であり、百華恵(中国名)であり、金賢姫(朝鮮名)である。
北朝鮮のスパイである。
■1.北朝鮮では、朝鮮半島の祖国統一を妨害しているのは、南朝鮮(=韓国)によるものだ、という教育がされていた
筆者であり北朝鮮から工作員として派遣された金賢姫は、手記の中で、「朝鮮人の民族的使命である祖国統一を、(大韓航空機を爆破することで)私がやり遂げたという、英雄になったような気分だった」と述べている
事件の有った1987年の翌年1988年にソウル・オリンピックが開催予定であり、同テロはこの1988年ソウル・オリンピックの開催を妨害することが、目的で有った
オリンピックの開催を妨害することで、祖国を永久に分断しようとしている南朝鮮(=韓国)の策動を防ぐ、というのが北朝鮮側の大義名分であったそうだ
実際、爆破される姿も、爆破された現場も、金賢姫本人が目で見たわけでない為、実感できずにいた、と述べている。
このように、国家レベルで、事実と異なる情報を吹き込み、工作員に信じさせ、あたかも真実であるかのような大義名分を与えて、行動を起こさせる、ということをしていたそうだ。
当の本人は、自分達の行為に何の疑問も罪悪感も持ったことがなかったそうだ。
このように、外からの情報を遮断し、内側での情報のみの世界で生きていると、その情報が正しいと何の疑いもなく信じてしまうのだ。
現代ではインターネットが発達しているので、なかなか囲い込むのは難易度が上がってきてはいるものの、国家レベルで意図的に遮断しているところも存在する。
また、完全に遮断はされていないものの、いわゆるフィルターバブル(以下)
インターネットの検索サイトが提供するアルゴリズムが、各ユーザーが見たくないような情報を遮断する機能」(フィルター)のせいで、まるで「泡」(バブル)の中に包まれたように、自分が見たい情報しか見えなくなること
によって、ほぼ自分が見たい情報のみに囲い込まれてしまっていることが存在しており、このような状況に自ら気がつくことは困難になっていると考えられる。
■2.北ではトレーニング・ウェアは貴重品
トレーニング・ウェアは、家でも外でも着られるので北では大人気で、一着手に入れた時は友達はもちろん、職場の同僚たちにまで見せびらかしていたほどだったそう。
なお木綿はシワになるので、ナイロンの方が人気があったとのこと。
ただ、買うためには、体育団体に所属している選手または指導員経由で、個人的にお金を出して頼むしかなかったそう。
お金があっても、店に物がないのだとか。
その為、金賢姫が拘束された後、このトレーニング・ウェアを支給された時、心の動揺があったそう。
なお、後に韓国に身柄を移送された後、韓国ではナイロン製は体に良くない為、技術革新が進んだシワにならない綿製の衣類を一般庶民が使用していることに、衝撃を受けたとのこと。
このように、北では物資が不足しているのだが、それを人民は把握しておらず、南朝鮮(=韓国)はよりひどい世界だ、と伝えているそうだ。
実際後に、金賢姫が韓国内を見て回った際に、冷蔵庫が田舎町に2つもあることに衝撃を受けたそう。
また、バーレーンから韓国へ移送される際の飛行機の中での韓国の特務部隊の会話で
「ご飯がなく、ラーメンとジュースだけで我慢できないよ」
と話していたのを聞いて、北ではラーメンもジュースも滅多に見ることもできない貴重な物である、と述べていた。
このように、明らかに物資が北では不足しているのだが、その部分に関しても、他国が豊かであることは、ひた隠しにされていたようだ。
■3. お互いに相手を監視する制度
2人以上の工作員が1組で任務に当たった場合、
・一方の工作員が三大革命規律(生活規律・組織規律・事業規律)を守っているか、
・革命性に背いた行動はしなかったか、
・任務を単に形式に過ぎないとし「自由主義」をしていないか
を相互批判する制度がある(「総括報告」と呼ぶ)
とのこと。
また、工作員でなくとも、北の人民は金日成の銅像や、金正日の肖像画を前にした際、心から敬虔(けいけん)になれるかというと、他人の視線が恐ろしくて、真心を尽くす振りをすることが多かったとのこと。
そうしないと、後の罰が怖いからだそう。
まるで第二次世界大戦中の日本が設置した隣組のようだ。
戦争に反対を唱える人を、政府に協力的な人が密告する制度で、1947年にGHQにより廃止された。
北も体制を保つためにこの制度を活用しているようだ。
■本日の学び
・1. 1987年に発生した大韓航空機爆破事件は、北朝鮮に送られた工作員によるもので、南朝鮮(=韓国)が祖国統一を遮っている、という刷り込みにより、罪悪感もなく実行された
→外部からの情報を遮断した上で、一定の領域内で情報を与え続けると、是非を確かめる術がなく、信じ込んでしまうことがある(実際にあった)
現代でも一部の国家や、フィルターバブルと呼ばれる「知りたい情報のみしかアクセスしない」状態が作られることによって、同様の現象が発生し続けている。
その為、同じ轍を踏まないよう、積極的に外部の情報を取り入れるようにすべきである
・2.北ではトレーニング・ウェアやラーメン、ジュースは貴重
→金を積んでも店に物資がないとのこと。
世の中にはこのような国が存在している。
かといって、寄付をしたところで、政府に横取りされて終わりである。
根本的な解決案がなくもどかしいが、このような事実を知っておくことは重要であろう。
・3.北にはお互いを監視する制度がある
→日本の第二次世界大戦中の「隣組」のように、戦争や体勢に対する反対をする制度が、一般の人民の中にも出来上がっている
これをコントロールしているのは「恐怖」である。
これは管理する側からすると、大変楽であろう。
自分の資源(人・モノ・カネ)を使わず、人民のリソース、カネを使って、治安を維持する仕組みである。
隣組は、GHQ(連合国総司令部)によって「国家体制に組み込まれた地域社会を構成する中心組織」とみなされ、22年3月31日をもって廃止が決定された(https://www.showakan.go.jp/events/kikakuten/past/past160723.html)
隣組は人の転出入については報告が厳しく義務付けられ、スパイの入り込む余地をなくしていたそう。
北における設置理由は明示されていないが、恐らく日本の隣組の要素は含んでいるのであろうと、想定される。
以上、第一回目となります。
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