#156_金賢姫(キム・ヒョンヒ)全告白「いま、女として」⑤
本日は表題書籍の感想続き第五段となります(全体の約7分の5:下巻p61〜168)。
■1. 競争をたきつけ、恥をかかせる教育
北の学校教育は、競争をたきつけ、怠けると恥をかかせるというスタイルである。
<社労青への加入>
例えば、北では中学は4年制なのだが、中学4年生になると、社労青(朝鮮社会主義労働青年同盟。現在は「社会主義愛国青年同盟」に改称(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E6%84%9B%E5%9B%BD%E9%9D%92%E5%B9%B4%E5%90%8C%E7%9B%9F)
というものに加盟が必須となるそう。
この社労青に加盟しないと、労働もできず軍隊にも入れない為大変なことになるそう。
敢えて全員を一気に加盟させるのではなく、競争心理を誘発させるために、段階的に分けて加盟させるとのこと。
社労青委員会が学生と面談をし、金日成の革命歴史についての質問に答えさせて、加盟を許可するそう。
加盟が許可されると、左胸に社労青のバッジをつけてもらい、「私ももう大人になったんだなあ」という気分になり、胸がいっぱいになった、と金賢姫は述べている。
<農村支援での競争>
また、農村支援に1年の内2ヶ月間動員されるとのことで、素足で田んぼには入り、稲を刈ったり、田植えをしたりするとのこと。
その際、割当量が決まっており(公収:コンスーと呼ぶ)、学校内の生徒組織は他の生徒組織と競争をさせられ、学校は他の学校と競争をさせられるそう。
人の出入りの激しいところには、誰々が1日の計画300パーセント達成!といった速報が貼り出され、競争をけしかけられたとのこと。
誠実に仕事を良くする人は、写真を撮り「模範戦闘員」「英雄」「二重英雄」という称号と一緒に壁の報告板に貼り付けるそう。
時々スピーカーをつけて回る宣伝隊の車が、功労者の名前を呼び歌を歌うと、名前を呼ばれた人は涙を流して喜ぶとのこと。
<軍事訓練での批判>
大学生になると、教導隊訓練と呼ばれる軍事訓練を必須で受けることになるそうで、金賢姫は偵察分隊というところに配属されたとのこと。
寝具の整理をするそうだが、毛布を畳み、四角がきちんと方形になるよう整頓し、枕も四角に整えなければならないそう。
もしきちんとできていなければ、全員の前で立たされ批判をされるとのこと。
また、予告なしで石けん箱を開けさせ水気の検査をするそう。
そこで、水気が残っていたら、「石けん箱を清潔に保てないということは、自分の身体も衛生上きれいにできないことがわかる」と手厳しく批判し、全員の前で恥をかかせるそう。
また、非常勤務期間中は軍服を着て、地下足袋を履いたまま就寝をし、敵機襲来の鐘信号がなると山に駆け登っていくそう。
一名でも遅れて報告が遅れると、訓練が良くないと批判を受け、再び自分の位置に配置するのを繰り返す「反復訓練」という名の「体罰」を受け続けたそう。
<外国語大学での競争と批判>
また、金賢姫が平壌外国語大学在学中は、月に一回各種の外国語競演会が催され、競争心を煽ったそう。
・金日成の新年の辞を日本語で暗譜する大会
・金日成が中国訪問中に演説した内容を日本語で聞き取る大会
・知っている単語を制限された時間内に多く書く競争
・絵を見て5分以上日本語で説明する競争
・映画のセリフを覚えて日本語で話す競争
全学生の名前と等級、点数、本人の気づかない欠点を具体的に書いて、学校の廊下の壁に貼り出すそう。
大学では毎週木曜の午後5時半から強制的に開かれる政治思想教養の講演会に参加させられるそう。
出席のはんこを押してもらわないと帰ることができず、欠席が発覚すれば批判され、批判速報が学校の掲示板に貼られるとのこと。
このように、好む好まざるに関わらず、教育の中で競争に巻き込まれ、実施できないと大勢の面前で批判をされ恥をかかされる、という方式が取られ続けている。
このような教育が続けられると、批判を恐れて実行せざるを得なくなってしまい、自分の頭で考える間も無く、考えが固定化されてしまうのだと感じた。
うまい洗脳の方法だと考える。
■2. 男女の関係は、取り締まっても取り締まりきれない
北朝鮮では、大学生の間は恋愛禁止であり、見つかると退学処分になるそう。
にも関わらず、統制してもしきれないのが男女の関係とのことであった。
例えば大学生になり、教導隊訓練(=軍事訓練)で6ヶ月間生活を共にすると、互いに冗談を言い合うほど気安くなるそう。
好きな女子学生が歩哨(=ある場所に武装して立ち、敵または軍用品などを見張る兵)として立っていると、男子学生がこっそり訪ねて話しかけ、保湿クリームをあげたりしていたそう。
男子学生が洗濯ものを女子学生に預けたり、おやつが少し余ると持ってきて上げたりして、心を通わせたそう。
金賢姫曰く
「男女間の関係はどんなに取締まっても、それは自然の人間の本性である」
「軍隊や農村の仕事は辛い日々だったが、好き合う者同士の目は輝き、心が通い合い、苦しい峠を乗り越えていった」
と記述している。
恐らく世界で1、2を争う貞操観念の厳しさであろう北朝鮮において、規制をしてもしきれないというのが、男女間の関係なんだなぁと感じた次第です。
■3. あまりにも悲惨な地方生活
金賢姫が首都平壌から、親戚(叔母の次女)が住む地方(咸鏡南道(ハンギョンナムド)の新浦というところ)へ行った際に、あまりにも悲惨と感じたそう。
<通行証>
そもそも、北では、旅行をするには通行証というものを発行してもらわないといけないそうで、この通行証の発行も非常に難しいとのこと。
例えば家族の結婚、弔い、急病、親の還暦など必ず出席しなければならない場合でないと、発行してもらえないそう。
ちなみに通行証を発行してもらった後、長期の旅行の場合、食糧支給臨時停止証明書というものに確認の判をもらわないと、旅行先で食糧の配給をもらえないそうで、訪問先の親戚から恨まれるとのこと。
<地方の悲惨さ>
金賢姫氏は列車を乗り継いで18時間以上もかけて親戚の住む地方へ到着したそうだが、その際にあまりの悲惨さに驚いたそう。
例えば
・平壌にはいなかった、ボロをきた乞食がいた
・ご飯に肝油(スケトウダラの肝臓の油)が食用油として混ぜてあり、臭いがあまりにもひどく鼻をつままないではいられない
・ご飯が黄色いとうもろこしのご飯であった
・親戚の近所の人達の肌は日焼けと栄養不足で、顔に疥癬(かいせん)(=ヒゼンダニ(疥癬虫)が皮膚の最外層である角質層に寄生し、人から人へ感染する疾患)がある人もいた
・子供たちは制服一着の着た切り雀で、学校に行く時、遊ぶ時、働く時全て同じ服で過ごしていた為、肘と膝は穴が開き、つぎはぎもボロボロ、長い間洗っておらず垢でツルツルになっていた
・寒い日に靴下を履いていないか、履いていてもつま先と踵は穴が開いていた
・商店では品物はほとんどなく、販売員だけが店番をしている(給料と配給をもらうため)
など。
これらの地方の親戚も平壌へ簡単にはいけない為、金賢姫のことを月世界から来た人のように扱い、好奇心を持って平壌の生活を聞かれたそう。
<結婚後の住居>
金賢姫曰く、韓国に来てから韓国の豊かな生活を見てから、北朝鮮の人々が可哀想だと思うようになったとのこと。
北の高級幹部は暖衣飽食をして威張っているが、韓国の中流層に劣る、とのこと。
金賢姫の友人はエリート大学である平壌外国語大学を卒業し、外国文出版社に配置され働いている間、除隊軍人として金策(キムチェク)工業大学に通っている男性と結婚したそう。
しかし結婚後2年経っても他人と同居しており、ベニヤ板どころかカーテンで仕切って住んでいる、とのことであった。
そのせいで、夫婦喧嘩も多くなり、離婚さえ考えるようになったそう。
<外国への偽りの宣伝>
このような事実にも関わらず、北朝鮮は外国に向けて、
・結婚したら行政より家をもらえる
・結婚している女性は夫より30分遅く出勤し、夫より1.5時間早く帰宅できる
・牧師の月給は170ウォンである
と宣伝しているそう。
実際は
・家はもらえるどころか、実家同居か他人と同居
・結婚している女性は男女平等の名の下で男性と同じ激しい作業をし、長時間労働(夜中の12時を超えることもしばしば)
・牧師は平壌で金賢姫氏は見たことがない(金日成以外誰も崇めることができない体制)
とのこと。
自分の悲惨な環境を隠して、金日成父子に、ひたすら服従と忠誠を誓いながら、地上の楽園だとおうむ返のようにいうしかないことが、あまりに気の毒で可哀想だ、と金賢姫氏は述べている。
このように、北の地方に住む人から見た平壌は別世界で、その平壌に住む人(金賢姫)から見た韓国はもっと別世界であった。
これはひとえに、人的交流や情報の流通を制限している為で、住民が他の豊かな暮らしを知らないでいることが、政権を維持する為に、重要なことであったのだと考える。
■本日の学び
・1. 競争をたきつけ、恥をかかせる教育
→思想を植え付ける為、食糧や防衛に対する労働力を投入させる為、他者との競争をさせるような仕組みを構築し、管理者によって運営をさせる。
勝者には勲章や労いの言葉をかけることで、涙し感動させる。
うまく動かない者は吊し上げられ、さらされ、批判をされる。
それが怖くて、自分の頭で考えず、盲目的に言われたことをやり続ける、
という仕組みが教育に組み込まれている
・2. 男女の関係は、取り締まっても取り締まりきれない
→どんなに強い規制を敷いて取り締まっても、男女の関係は取り締まれない。それは北朝鮮であっても同様である。
・3. あまりにも悲惨な地方生活
→平壌から離れた地方の生活は、あまりに悲惨であり、平壌が天国に思えるほどである。
その平壌も韓国に比べればあまりにも格差があり、その事実を北朝鮮の人民は知らない。
それは移動を厳しくし、情報を統制することで人民を無知な状態にしておくことができ、統治する側としてはありがたい状態である。
言い換えると、移動も自由で情報も得たいだけ得ることができる世の中にいる民主主義の日本では、自らこの自由を行使しなければ、北朝鮮と同じように特定の価値観に凝り固まってしまうリスクがあるのでは、と感じました。
以上となります。
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