#153_金賢姫(キム・ヒョンヒ)全告白「いま、女として」②
本日は表題書籍の感想第二弾(上巻p105〜204)を共有したいと思います。
これで全体の7分の2となります。
■1. 五常県は存在するが、五常市は存在しない
筆者で大韓航空機爆破犯の金賢姫は、素性を隠すため生まれを中国と偽り、住所を黒龍江省五常「市」と捜査官へ伝えたが、実際には五常「県」しか存在しない為、嘘がバレてしまった。
金賢姫は実際に中国に行ったことがなく、北朝鮮の工作員招待所での訓練時に勉強しただけであった。
五常県の隣の県を一つでも良いから答えよ、という質問にも回答できなかった。
その他、つまびらかにされた矛盾点は以下:
<中国人でないという矛盾点>
・中国語で「トゥンス(物心がつく)」という言葉を使ったが、南方だけで使われる言葉で、黒龍江省がある北方では使われない
・孤児であったと話していたが、主食は金持ちしか食べられない「ホパン(饅頭)」を主食にしていたと言った
・とうもろこしで作った粥を南方では「ウイミ(玉米)」、北方では「パオミ(包米)」というが、北方出身なのに「ウイミ(玉米)」と話していた
・黒龍江省では新聞の街頭販売がないのに、五常にすむおばさんが新聞と饅頭を売っていたと話していた
<日本で生活していなかったという矛盾点>
・日本で1年間生活していたのに、日本人がよく食べる海苔を見て、紙を焼いたのか、どうやって食べるのか、ととぼけていた
・共犯の蜂谷慎一と東京の恵比寿に住んでいたと言っていたが、描かれた家の絵は日本家屋の構造でない
・日本の町だと言って描かれた絵も日本でなかった
・日本の首相が中曽根首相から竹下首相に変更となったのに、それを知らなかった
・日本で見ていたテレビのメーカー名を北朝鮮製の「チンダルレ(つつじ)」と答えて慌てていた
・日本のタクシーの運転手の座席を左側と言った
<その他の兆候>
・寝具を片付ける手つきは組織的な訓練を受けた物であった
・朝鮮語をわからないふりをしていたが、金賢姫が指を動かす癖があるのを見て、捜査員が朝鮮語で「不安で落ち着かないと、指遊びする」と話したら、指の動きを止めた
・中国語で尋問中、朝鮮語で「この子、嘘ついている」と話したら、わかるはずがないのに「嘘じゃない」と必死に説明しようとした
・朝鮮語で捜査員が面白い話をすると、耐えきれずにトイレへ駆け込んだ
・日本語と韓国語で「あなたはスパイだ」と書いて見せたら、両方に慌てるそぶりを見せた
・熱いコーヒーを飲んでいた時、ふうふうと息を吹いて飲むのを見て「朝鮮人に違いない」と言ったら、飲むのをやめて捨てた
これらを見ると、傾向としては
・1) 準備不足
・2) 仕掛けてボロを出した
・3) 仕掛けられてボロを出した
に分けられるかと考える。
1) 準備不足なのは、
・中国出身と言いながら、五条氏と答えてしまったり、
・南部発音で話してしまったり、
・日本に住んだと言いながら、日本家屋や町の風景を知らなかったり、
・テレビのメーカーを知らなかったりするもの
などが挙げられると思う。
これらは、実際に現地に行ったことが有ったら、ある程度は取り繕うことができたのではないか。
恐らく北朝鮮は資金の問題などで、実際に住まわせることはできなかったのでないかと推察される。
2) 仕掛けてボロを出したものは
海苔を見て、紙を焼いたと言ったこと、が挙げられる。
これは、朝鮮人だと思われないよう、中国人になりすます為仕掛けた策であったが、日本人も海苔を食べることを知らなかったようだ。
3) 仕掛けられてボロを出したものは
朝鮮語で話されたものシリーズ(指の動き、嘘をついている、面白い話、あなたはスパイだ、熱いコーヒー)が全般的にそうである
これらのミスを客観的に見ると、もう少し事前準備をしっかりし、仕掛けられてもかわす能力が身についていたならば、ひょっとすると、嘘を貫き通されてしまった可能性もあると感じた。
もちろん捜査員の忍耐力、観察力、作戦が素晴らしかったのもあるが、北朝鮮側の工作員のレベルを知ることとなったと感じる。
韓国や日本の立場からするとありがたかったのだが、諜報活動はどの国でも実施している為、そこが実施できないのであれば、このような爆破テロを画策するのは、少々無謀であったのではないか、と感じざるを得なかったです。
■2. 北での投票は賛反投票
北朝鮮における選挙は、賛成と反対を投票するスタイルをとっているとのこと。
とはいえこれは建前で、実際は反対を投票する人は存在しないそう。
というのも、
・投票用紙を投票箱に入れることは賛成であり、
・投票用紙を投票箱に入れないことが反対となる
のだが、後ろで選挙委員が見ている為、投票用紙を入れないということは事実上不可能であるとのこと。
なお、北朝鮮ではすべての学生は選挙の宣伝活動に動員され、投票率100パーセント運動に駆り立てられ、小鼓(こつづみ)隊と歌唱隊を結成し地域を練り歩く
投票場では学生の小鼓隊が選挙の歌を演奏し、老人たちも鉦(かね)を打ち鳴らし、お祭りムードを盛り上げる
投票に行けない入院患者や障害者、高齢者のために「移動選挙」と呼び選挙委員が投票箱をぶら下げて直接訪ねて行って投票を済ませるのだそう
<考察>
このような茶番に多大なお金をかけて、時間を費やしているのは何の為だろう、、と考えてしまった。
全ては指導者の宣伝のためと考えればそれまでだが、そこまで回りくどい方法を取ってまで、投票をする必要があるのだろうか。
実際に投票をした人は実情を理解しているわけで、このような方式で選ばれた指導者が、真意によるものだとは、到底思っていると思えない。
とはいえ、選挙制度を秘密選挙に変更したところで、指導者の都合のよいように結果を捏造されることは火を見るより明らかなので、そこは本質でない気がする。
金賢姫も、韓国の選挙を見て、自国の指導者を選ぶのにこんなに意見がまとまらないようじゃ、何をやったってうまくいくはずがないと思った、と述べている。
言い換えると、意見が一つにまとまることが素晴らしい、という思想である。
これも指導者が優秀で、ある程度コントロールが効く規模であれば、妥当性があると思われる。
特にパンデミック時などクイックな意思決定が行われる必要がある場合など、ある程度の独断が認められている方が、スピード感は達成しやすいと考える。
一方で指導者が優秀でなく、コントロールが効かない規模になると、民衆を恐怖で支配し、関心をそらすため他国を非難し始めてしまう
こうすると基本的な生活も脅かされることとなり、悲劇の始まりとなる
これ以上は民主主義と共産主義論に議論となるので、ここまでとしたいが、どの国に生まれ育ったかで、思想がまるっきり変わってしまうのだ、ということを、まざまざと考えさせられた一件でした。
■3. 口の中に詰め込んだプラスチックを外し、手錠もはめなかった
韓国捜査官は、バーレーンから韓国へ金賢姫を移管した際、舌を噛み切って自殺するのを防止するため、プラスチックを口の中に詰め込んでいた。
韓国の取調室に到着後は、結局プラスチックを外し、手錠をはめることもせず、金賢姫を最大限に楽にして上げようとする気配りであった。
筆者曰く、
・人間の心理の中で最も脆弱なところを正確につかんで、
・ちょうど適切な時間に相手の要求を充足させることで、
・歓心を買う作戦
を取った、と述べている。
小賢しいと思う反面、一方ではありがたかったそう。
その後も浴槽にお湯を沸かして入浴したり、歯ブラシで歯磨きをさせてもらったり、とても気分爽快だったとのこと。
また下着を支給された際には、女の子を虜にしてしまうほど、デザインと肌触りが素晴らしかったそう。
このように、徹底的に快適な状況を作り上げて行った。
一方で、数々の心理戦が繰り広げられ、以下のような説得をされ、ひとつも間違えてない、と感じたそう。
<説得されたこと>
・飛行機に乗っていた105名は異国の地に出稼ぎに行っていた勤労者であり、政治や体制とは関係のない、何の罪もない人たちであった
・彼らは長年故郷を離れて、家族の為にお金を貯めて、家族に再会する為の帰国の途であった
・あなた一人が計画を練ってやったとは思わない。こんな恐ろしいことをさせた背後を明らかにして罪を悔い改めた方が正しいのではないか
・人間が人間らしさを失ったら獣だよ。過ちを悟ったら早く許しを乞うて、贖罪(しょくざい)の道を進むべきだろう
・人間性を捨てた人にどうやって人間的な待遇をしてあげられるだろう。何事にも時期がある。それを見逃したら、その価値は減るばかりだよ
・人間の生命を軽視する組織に、あなたは利用されたんだ
・いいことに利用されるなら苦労の甲斐があるけど、罪のない人を殺すことで利用されるのは愚かなこと。それを悟らないのはもっと愚かだと思う
・正義の為に働いていた人が不義に向かうと裏切り者だが、不義から正義へ向かう人は正義の闘士になる
・あなたのような若い女性を罪のない人を殺める殺人者にするのは不義であり悪だということを、悟らせる人間的責任が私たちにはある
これらの話をされ、ひとつも間違えてない、と感じたそう。
結果、以下のような疑問が湧いてきたとのこと
<湧いてきた疑問>
・飛行機を爆破して多くの勤労者を犠牲にしたその行為が、はたして祖国統一を早めるのか
・オリンピックがソウルで開催されると、2つの朝鮮が固定化されるのか
・南朝鮮の飛行機を爆破すると、オリンピックがソウルで開催されなくなるのか
そして北側と南側のどちらの話が本当なのか、判断をし、全てを自白することにした、とのことでした
■本日の学び
・1.五常県は存在するが、五常市は存在しない
→行ったことのない地域は、詳細を聞かれてもわからない
詳細が聞かれても良いように、事前に現地に行き、情報収集しておいたら、歴史は変わっていたかもしれない
転じて、現代においても、しっかりとした事前の情報収集(なるべく目で見て、音で聞いて、肌で感じられる経験)をしておくことが、細かい内容を詰める際に、生きてくると考える
不動産においても、リアルに物件を見にいくのとネットのみで見るのとでは、得られる情報量は雲泥の差である。
特に訪れたことのない地域である場合、その場所の雰囲気、住んでる人が使う言葉(方言)、生活の動線、周辺の都市との距離感、など多くの情報を手に入れることができる。
これらは聞かれて問いただされるものではないものの、知識・体験としてストックすることができ、いざ引き出そうと思った時点では、湯水のように湧き出てくる情報となると思われる。
この情報は入居者募集時や家賃設定時に活かされるし、今後別の地域を検討する際の、比較対象のベースとなる重要な情報となるのではないかと、感じました。
・2. 北での投票は賛反投票
→形式上選挙の体裁をとっていても、反対票を入れないことが選挙管理人に見られてしまう状態では、賛成票を投じないわけに行かない状況である
支配する側にとってみると、うまく作った制度であり、支配される側からすると、恐怖に支配された状態である
ここでいう恐怖は、本当に命を取られることや、家族に危害が及ぶことなど、人間としての基本的人権を脅かされることや、社会的制裁を受けることと思われ、なかなか対処するのが難しいと考える。
そう考えると、民主主義(資本主義)経済の上では、何かしら制度に意を唱えたところで、命まで取られる心配はないし、家族に迷惑が及ぶことも考えられない。
一定の社会規範や法を遵守していさえすれば、ある程度のことは自由に発言や行動ができる
この自由があることを改めて実感したとともに、せっかくそのような民主主義(資本主義)経済に生きているならば、思う存分享受しないと、この制度を勝ち取った先人たちに申し訳がないと考えた次第でした。。
・3. 口の中に詰め込んだプラスチックを外し、手錠もはめなかった
→相手と交渉をする際は、相手の望むものを然るべきタイミングで与え、信頼を得る、というのが印象的であった。
やられた方も、そのような作戦と分かっていながら、ありがたいと感じてしまうとのこと。
やはり心理的安全性が担保され、相手との人間的な信頼関係ができて初めて、本心を引き出すことができる、ということであろう。
そしてそのタイミング、というのが重要だ、ということであった。
現代でも交渉をすることがあり、その内容もさることながら、タイミングというのが非常に大事なのだと感じた。
例えば不動産賃貸で入居者からの要望があった際、できることとできないことが存在するが、きちんと会話を重ねた上で、できることはタイミングよく提供してあげることで、大きな満足感を得られる、ということがあると考える。
結果、入居期間の延長に繋がり、自分自身にもメリットがある。
タイミングを逃すと、受け取る側も喜びの度合いが減ってしまい、せっかく何かを提供したとしても、お互いに残念な結果になってしまうのであろうと感じました。。
以上です
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