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あざら子、三たびリプロ外来へ行く
さてはて、昨年12月ぶり、3度目のリプロ外来である。経緯をよく分からない人向けに端折って説明すると、がん治療で不妊になるかもしれないので妊孕性温存の相談に行き(1度目)、夫と相談の上妊孕性温存治療は一旦保留と返事をしたものの(2度目)、抗がん剤が必要になったのでやっぱり治療したいですということになり、今回の受診に至る。妊娠可能年齢のうちにがんを発症すると、やはりこの妊孕性温存をどうするか問題がどうしても出てきてしまう。
これであざら子がもう3人も4人も5人も子供を産んでいて、もうこれ以上は要りませんというなら話は簡単なのだが、何しろあざら子はこれでも新婚である(なお、乳がん確定診断は入籍後3ヶ月であった)。子供の相談も、妊活も、まだまだこれから。とはいえあざら子ももう30を過ぎ、じわじわ高齢出産へのデッドラインは近づいている。そして抗がん剤による不妊のリスク。さすがのあざら子も、夫も、こればっかりは妊孕性温存治療を受けるしかないと判断した。自費だから高いんですけどねー。
そんなわけで訪れた3度目のリプロ外来。今回は2回目と同じ先生が対応してくれた。単なる当番制だと思うので、被ったのはたまたまだろう。乳腺外科の先生が前もって手術などの詳細を郵送しておいてくれたらしく、しかも治療についてのある程度の説明はもう済んでるので、改めて「じゃあ治療を受けるってことでいいですか?」「はい」という感じ。お互いにドライである。いやウェッティな関係性を求めてないのでいいのですが。
受ける治療は、卵子採取の上、パートナー(要するに夫)の精子を受精させ、胚(要は受精卵のこと)を作り凍結保存しておく、胚凍結保存である。あざら子の場合、ホルモン感受性の乳がん(詳しくはサブタイプのところで説明……できていた自信はないがご参照ください)ということもあり、「レトロゾール」という薬を使っての排卵誘発をすることになった。この辺の薬はあざら子にもさっぱり知識がないのだが、レトロゾールというのは元々閉経後のホルモン感受性乳がんの治療薬として作られた薬らしく、現在ではこのように排卵誘発剤としても使われているが、乳がん患者の排卵誘発にはぴったりの薬である、ようだ。「閉経後の」とつけたのは、乳がんのホルモン治療は閉経前と閉経後で違うからなのだが、その辺は解説し始めると長くなるのでまた後日。多分、気が向いたら、あざら子が実際にホルモン治療を受ける頃に書くと思う。
治療のスケジュールはこんな感じ。まず、生理を待つ。生理が始まったら、医師の指示したタイミングでレトロゾールを飲み始める。また、それと同時にすぐ予約を取り、診察を受ける。その診察の後から、さらに排卵誘発の筋肉注射も毎日受ける。数日おきにエコーで卵胞(卵巣の中で、卵子が入っている袋)のサイズを確認する。サイズが程よく育ったら、採卵日を決め、排卵のタイミングを決める点鼻薬を、逆算して決められた時刻に使う。そして、自然に排卵される直前に、経膣的に針を刺し、卵胞の中にある卵子を吸い取ってくる。説明がなんとなくふわっとしているのは、このnoteを勝手に排卵誘発の教科書みたいに使って欲しくないからで、もしがんや不妊治療で排卵誘発剤を使う予定の人は、きちんと主治医の説明を聞いてね。
ちなみにその後採取された卵子は、これまた指定された時刻にパートナーに精液をもってきてもらい、体外受精させる。そして、適度に培養したところで凍結、保存となる。凍結保存は、病院にもよるのだが、何年か単位で契約更新となり、更新するたびに保存代金がかかる。更新しなかったら、その胚は破棄される。あとは、パートナーと別れたりとかね。
ここまでの一連の治療、以前も申し上げたが、保険適応ではないので全部自費。参考までにあざら子の病院が「あくまでも例ですが」と出してくれた見積もり、トータルなんと約60万。しかも、上記の通り毎日注射があったり、採卵日が急に決まったりするので、仕事のスケジューリングが難しい。少子高齢化とか言ってるけど、子供を妊娠するのってこんなに高いのだ。子供を持つって贅沢だね。そりゃあ、世の中の夫婦も、不妊治療を諦めていくわけである。無理無理。不妊治療にもっと補助金を出したり、職場への啓発活動を続けていかない限り、まあ子供は生まれないでしょうよ。
ちなみに、あざら子のように「がん治療のため、妊孕性温存目的に不妊治療を受ける」というケースは、治験に参加すると、研究に必要な情報を提供する代わりに助成金をあとからもらうことができる。これは治験の対象に入るのであれば病院側から説明と同意書をもらうことができるはずなので、「がん治療で子供を諦めたくない……!」という人は治験対象かどうか産婦人科医に尋ねてみるといいと思う。あざら子はしっかり登録する予定である。がん治療を続けながらの60万、いくらなんでも助成金なしは無理やて。
さて、スケジュールのところで書いた通り、採卵というのは針を刺して行う。つまり血が出る。血が出る処置をするには、いろいろと準備がいる。血液を介して感染する感染症を持っていないか、止血機能に異常はないか、万が一大量出血した場合のために血液型などを調べなくてはならない。また、痛みを伴うため鎮静剤を使ってくれるとのことで、鎮静剤を使っている間のモニタリングと比較するため、心電図、肺のレントゲンなども必要だ。
あとは、あざら子の場合は胚凍結保存なので、夫に精液を提供してもらう。こちらの精子の機能や、精液を介して感染する感染症を夫が持っていないかも、検査が必要になる。病院によっては「全部うちで検査を取り直します」というところもあると思うが、あざら子の病院は「手術したところのデータを持ってきてくれればそれでいいですよ〜、旦那さんも近くの泌尿器科で検査を受けて結果を持ってきてくれればそれでいいですよ〜」というスタンスだったので、あざら子は大量のデータと書類を運ぶことになってしまった。ただ運ぶだけですけども。あと夫、わざわざ泌尿器科受診させてごめんね。頼んだよ。
ちなみに、乳腺外科の燻し銀先生はこういう不妊治療はもちろん専門外なのだが、あざら子が初期から「妊孕性温存治療はできますか!?」とか聞いちゃったからか、すごく心配してくれて、「一回の採卵で十分取れなかったら、次の月とかもやるとか、そこまでは待てるからね!」と言ってくれた。のだが、その話を産婦人科の先生にしたら「二ヶ月連続は卵巣に負担がかかりすぎるので絶対にやりません」と一蹴された。当然すぎる。すみません。なので、あざら子の卵子が十分取れるかは今回の治療にかかっている。無事に育ってくれよ〜卵胞ちゃん。