【キャリアガイド】第12部:キャリアの向上に最も効果的な方法のひとつーコミュニティに参加すること
哲学の学位を取得してすぐに、成功する費用対効果の高い慈善事業を始められる立場にある学生は多くない。しかし、トーマスが2018年にロンドンで開催された「効果的利他主義」カンファレンスに出席したとき、彼は工場畜産動物に大きなインパクトを与えることができる非営利団体を立ち上げる機会を見いだした。
そのコミュニティを通じて、彼はアドバイスと資金援助を受け、インキュベーション・プログラムに参加することになった。トーマスが立ち上げた慈善団体であるFish Welfare Initiativeは、今日までに約100万匹の人工養殖魚の苦しみを軽減してきた。年間予算は50万ドルを超えている。1
もしトーマスがLinkedInでたくさんの人と繋がるだけだったら、おそらくこのようなことは起こらなかっただろう。そしてこれは、多くの人が人脈作りについて見逃していること、つまり、優れたコミュニティに参加することの価値を示している。
適切なコミュニティを見つけることで、一度に何百人もの潜在的な仲間を得ることができる。
実際、適切なコミュニティに参加することは、友人を作り、キャリアを前進させ、より大きなインパクトを与える最良の方法のひとつとなり得る。私たちがアドバイスする多くの人たちは、「仲間を見つけること」がキャリアや人生全般において最も重要なステップのひとつだったと言う。
さらに、仲間と力を合わせれば、一人一人で働くよりも、もっと大きなインパクトを与えることができる。
この記事では、コミュニティに参加することがどのように役立つのか、またどのように参加すればいいのかを説明する。
読了時間:12分
コミュニティに参加することがなぜ役に立つのか
世の中には素晴らしいコミュニティがたくさんある。私たちはY Combinatorの起業家コミュニティの一員であることを楽しんできた。おかげで我々はより志高く、より効果的にスタートアップを経営できるようになった......はずだ。オックスフォードの哲学「シーン」や世界経済フォーラムのYoung Global Shapers、その他多くのコミュニティにも参加している。
優れたプロフェッショナル・コミュニティに参加することは、キャリアアップの大きな後押しになる。前記のとおり、仕事を見つける、最新情報を得る、モチベーションを高めるといった、人脈のメリットがすべて得られるからだ。しかし、それだけにとどまらない。
あるソフトウェアを作って売りたいとしよう。デザイン、エンジニアリング、マーケティングなど、必要なスキルをすべて自分で学ぶのもひとつの方法だろう。
もっと良い方法は、それぞれの分野に長けた人たちでチームを作り、一緒に作ることだ。利益を分け合うことになるが、その利益の規模ははるかに大きくなる。そのため、全員が得をする。
つまり、専門化することだ。一人一人が特定の技術に専念し、それを得意とすることで、より効果的な仕事ができるようになる。
もうひとつのポイントは、チームで固定費を共有できることだ。会社の登記やオペレーション手続きなどに必要なコストを共有できる。また、投資家から3倍の資金を調達するのも3倍難しいわけではない。これにより、規模の経済を実現することができる。
要するに、 「貿易の利益 」と呼ばれるものを得ることができる。3人が力を合わせれば、それぞれが個人で働いた場合の3倍以上の成果を出すことができる。
よいことを行うときも同じだ。みんながひとりで何でもやろうとするよりも、それぞれが専門性を高めて協力し合う方が効果的だ。
特に貿易の良いところは、目標を共有しない人たちとも仕事ができることだ。例えば、あなたが動物愛護の慈善団体を運営していて、グローバルヘルスの慈善団体を運営する人に出会ったとする。あなたはグローバルヘルスが差し迫った問題だとは思っていないし、相手も動物愛護が差し迫った問題だとは思っていない。でも、もしかしたらお互いに、相手の慈善団体に寄付をしそうな人を知っているかもしれない。紹介し合えば、それは小さなコストであり、お互い新しい寄付者を見つけることができ、それが大きな利益となる。
このことは、たとえコミュニティ内の人々が自分とは異なる目的を持っていたとしても、そのコミュニティに参加することに価値があることを示している。
とはいえ、自分と同じ目標を持つ人たちのコミュニティに参加する方が、またずっといい。そこで...
自分に合ったコミュニティを見つける
何を普通と感じるかは、最も長い時間を一緒に過ごす人々によって大きく左右される。気前のいい人たちのそばで過ごせば、気前がいいのが普通だと思うようになる。日頃から嘘をつく人たちと一緒にいると、それが当たり前のことのように感じられ、簡単に受け入れることができてしまうため、正直でいられなくなる可能性が高い。
だからこそ、コミュニティは慎重に選ばなければならない。
どのコミュニティにもそれぞれの文化があるので、いくつか試してみて、どれが自分にとってベストかを確かめることをお勧めする。
また、自分のアイデンティティや人脈がひとつのグループや考え方に依存しすぎて、そのグループの意見に異議を唱えにくくなったり、「エコーチェンバー現象」効果を生み出したりしないように、さまざまなコミュニティで活動することは健全なことだ。
試しに、自分が参加できそうなコミュニティをいくつかリストアップし、それぞれのコミュニティでいろいろな人に会ったりイベントに参加したりして、今の自分にとって最も支えになると思えるコミュニティ(理想的には複数)に参加してみよう。
ここで言う「コミュニティ」とは、非常に広い意味を指している。共通の関心事のある友人同士の気軽なグループから、カンファレンスやウェブサイトを持つアニマルウェルフェアのような大きな運動まで、どんなコミュニティでも構わない。
だから、参加したいコミュニティについて考えるとき、正式な組織だけを思い浮かべるのではなく、どんな人たちと一緒にいたいかを考え、それを実現するにはどうしたらいいかを考た方がいい。友達を集めたり、読書会を始めたり、Slackを始めたりして、自分自身で小さな「コミュニティ」を立ち上げるのもよいだろう。
ここで、アイデアを生み出すのに役立つカテゴリーをいくつか紹介しよう:
バイオセキュリティや工場畜産など、特定のグローバルな問題に取り組むことに関心があるなら、おそらく、その分野のコミュニティが少なくとも1つは(または複数)存在する。
研究、執筆、ジャーナリズム、起業など、よいことを行うための特定の方法に焦点を当てたいのであれば、おそらくその分野のコミュニティがあるはずだ。
社会起業家精神、進歩研究、アニマルウェルフェア、社会主義、リバタリアニズム、社会的正義など、よいことを行う幅広い方法に特化した政治的・イデオロギー的なコミュニティもある。
直接的によいことを行うことを目的としていないが、個人的な成長を支援するコミュニティに参加している読者も多い。例えば、非暴力コミュニケーション、合理性、重要な美徳を説く宗教的コミュニティなどである。
最後に、効果的利他主義のコミュニティがある。我々もその一員である。
効果的利他主義のコミュニティがキャリアをどのように後押ししてくれるのか?
効果的利他主義とは、例えば、スケールが大きく、非常に見過ごされている扱いやすい問題を探すことなどによって、ポジティブなインパクトを与えるより良い方法を見つけるプロジェクトである。
これは、世界で最も差し迫った問題とそれに対する最良の解決策を特定することを目的とした研究領域であると同時に、それらの発見を活用してよいことを行うことを目指す実践コミュニティでもある。我々は、他のいくつかのグループとともに、2011年にこのコミュニティを立ち上げることに協力した。
効果的利他主義を実践するということは、次の4つの重要な価値観を適用しようと志すことである:
他者を助けるより効果的な方法を優先し、より多くのことを行う。
他者をより平等に扱うよう努める。
自分の信念を疑う訓練をする。
誠意をもって協力的に働く。
これらの価値観に共鳴し、他者を助けるためのより良い方法を見つけようとする人は誰でも、効果的利他主義のプロジェクトに参加しており、このコミュニティに参加する立派な動機にもなる。
実際、我々は、ハーバード・ビジネス・スクールやフルブライト奨学金、世界経済フォーラム、その他の権威あるネットワークに関わってきた人々を知っている。しかし彼らの多くは、効果的利他主義のコミュニティで人々に出会う方が有益だと言う。どうしてだろう?
その理由のひとつは、このコミュニティには、我々のポッドキャストでインタビューしている人たちのように、素晴らしい人たちがたくさんいるからだ。
もうひとつの理由は(これまで主張してきたように)、より見過ごされている問題やその解決策に取り組むことで、インパクトを大きくすることができるからだ。しかし、もしあなたが見過ごされていることに取り組んでいるのであれば、(定義上)ほとんどの従来のネットワークでは、このような問題に取り組みたいと思っている仲間はあまり見つからないだろう。 同様に、標準的なものよりも、インパクトという観点からさまざまな選択肢を比較することに重点を置くことが重要だと主張したい。
効果的利他主義のコミュニティが有用なのは、このような見過ごされた問題に取り組み、これらの規範を適用している多くの人々が一箇所に集まっているからである。
この背景には、さらに根本的な理由がある。それは、目的を共有するときに発揮する力のことだ。価値観を共有しない人たちとでも取引はできるから、一緒に働くことはできる。でも、もしあなたが誰かと目的を共有しているなら、取引する必要さえない。
効果的利他主義のコミュニティでは、人々は「より効果的に他者を助ける」という共通の目標を共有している。つまり、他人がより大きなインパクトを持つように手助けをすれば、自分自身のインパクトも高まる。お互いに成功できるということだ。
そして、損得勘定にとらわれる必要もない。誰かを助けるだけで、すでにインパクトのあることなのだから。そのため、互いの目的をあまり共有していないコミュニティでは不可能なほど、はるかにたくさんの協力機会を得られる。そして、お互いに助け合える方法がたくさんあるため、より多くのことを達成することができる。(詳しくは、コミュニティとの連携についての記事をご覧いただきたい。)
寄付をするために稼ぐことは、実際にそのような協力関係の一例となり得る。80,000 Hoursを立ち上げて間もない頃、私(ベンジャミン)と私の友人のマットは、組織を運営するか、寄付をするために収入を得るかのどちらかを選ばなければならなかった。私たちは、マットの方がより高い収入を得られる可能性があり、組織の運営は私の方が優れていることに気づいた。私がCEOになり、マットが最初の大口寄付者になり、また他のいくつかの団体への資金提供者となったのは、このためでもある。
寄付をするために両者が収入を得ることを選んでいたのなら80,000 Hoursは存在しなかっただろう。あるいは、私たちが2人とも80,000 Hoursで働いていたかもしれないが、その場合は資金調達にもっと時間がかかっただろう(さらに、マットが寄付した他の組織は寄付を得られなかったはずだ)。
コミュニティ全体を見ても、お金を稼ぐのに向いている人もいれば、非営利組織の運営に向いている人もいる。お金を稼ぐのに最も適した人たちが寄付をし、他者に資金を提供することで、私たちはより多くのことを達成することができる。
私たちが協力し合える例は他にもたくさんある。例えば、ある人が新しい分野を開拓し、その情報を他の人たちと共有することで、長期的により効果的な仕事ができるようになる。あるいは、ジェネラリストである必要はなく、専門分野に特化することもできる。
例えば、グレッグ・ルイス医師は、私たちが以前に触れた、医師が救う命の数についての研究を行った。それが思ったよりも少なかったことに気づいた彼は、臨床医学に専念しないことに決めた。その代わりに、彼は公衆衛生を研究し、特にパンデミックに関連する問題について、コミュニティ内でその分野の専門家になることを目指している。実際には、人工知能によるリスクの方が社会全体としてはもっと切迫している問題かもしれないが、医師として、健康関連の問題に取り組むには自分が比較的最適な立場にあると彼は考えている。
これらの理由から、もしあなたが効果的利他主義のコミュニティの目的に共感するのであれば、このコミュニティに参加することは有意義である。
しかし、ここでいくつかのマイナス面にも触れないのは怠慢だろう。
効果的利他主義はいまだに変わった考え方であり、それはつまり、変わった人々が集まるということでもある。たとえあなたがその価値観に賛同したとしても、実際に参加している人たちとはそりが合わないと感じるかもしれない。
効果的利他主義のコミュニティの一員であることにストレスを感じる人もいる。ポジティブなインパクトを高めることに重点を置いているため、人によっては「全体主義的」に感じることもあるだろう。また、コミュニティの結束の固さや、その他の文化的な側面を好ましく思わない人もいる。
(理想的には複数のグループに)参加してみて、うまくいかないようであれば活動を減らしていけばよい(他のコミュニティにも足を踏み入れておくとそれがやりやすい)。
効果的利他主義もまた、それなりの論争に直面してきた — 特にFTXの崩壊以来、コミュニティ内の組織、文化、さらには根底にある倫理観に疑問を抱く人も多い(例えば、創設者によるこの投稿を参照)。
ウィキペディアのページや effectivealtruism.org のよくある質問(FAQ)では、効果的利他主義の歴史における最も典型的な批判を見ることができる。
とはいえ、このガイドを気に入ったのであれば、おそらくコミュニティの多くの人たちと目的を共有し、そこから多くを得ることができるだろう。私たちもそうであるように。参加してみたいのであれば、次に何をすればいいかを紹介しよう。
効果的利他主義への関わり方
今すぐにできる最も簡単な方法は、Effective Altruismのニュースレターに登録することだ。重要なアイデアを紹介する数通のメール、新しい研究の毎月の最新情報、毎年開催される主要カンファレンスのお知らせが届く。
効果的利他主義のコミュニティのアイデアについてもっと知りたい場合は、これらの選択肢もある:
ポッドキャスト・シリーズ: 効果的利他主義: イントロダクション
社長であり共同創設者であるBenjamin Toddによる短いイントロダクション。
もう一人の共同創設者でありオックスフォード大学の哲学者であるWill MacAskillによる学術論文、「Effective Altruism」。
書籍: 同じくWill MacAskillによる『Doing Good Better』。
人と出逢う方法
効果的利他主義のコミュニティのアイデアについてわかるようになってきたら、今度は実際に人に会ってみよう。そうすることで、あなたのキャリアに本当に役立つ人脈を見つけることができるからだ。その最善の方法は、EAGxカンファレンスに参加すること。EAGxシリーズは、EAGxコミュニティに参加したばかりの人たちを対象に、各地で開催されるカンファレンスである。今までに、ナイロビ、ストックホルム、ジャイプール、香港、シドニー、ボストンなど、世界中の都市で、またバーチャルでも開催されてきた。
もし、すでにコミュニティにある程度参加しているのであれば、EA:Globalのイベントに参加することもできる。通常、毎年ロンドンとサンフランシスコで開催される。
あるいは、地元のグループ・イベントに参加したり、Effective Altruism Forumでオンライン・ディスカッションに参加することもできる。
コミュニティで何人かに会ったら、さらに出逢いを求めよう。
まずは、自分と同じような境遇の人と知り合うことから始めよう。お互いに助け合える機会がたくさんあるはずだ。そして、自分より一歩も二歩も先にキャリアを積んでいる人と話すようにする(例えば、組織を立ち上げたいのであれば、昨年組織を立ち上げた人に会うなど)。
コミュニティに参加するときは、「5分でできること」、つまりコミュニティで誰かを助けることができる手っ取り早い方法を探そう。自分にとっては小さなことでも、コミュニティ内の他の誰かにしてみれば大きな助けとなるかもしれない。例えば、誰かを紹介するとか、本について伝えるとか。そうすることで、インパクトを与えることができ、さらに多くの人と知り合うことができる。
さらに深く関わることのできるもうひとつの方法は、コミュニティーのハブのひとつを訪れることだ。これらは、おおむね規模の大きい順に並べている:
サンフランシスコ
ロンドン/オックスフォード/ケンブリッジ(英国)
ボストンおよびケンブリッジ(マサチューセッツ州)(特にバイオリスクについて)
ワシントンDC(米国政策)
ニューヨーク、シドニー、メルボルン、ベルリン、その他多くの主要都市
なぜ訪問すべきか、どのように訪問すべきかについてもっと読む。
どのように参加し、どのように人脈を築くかについてのヒントもご覧いただきたい。
最後に、その他の対面式およびオンライン・イベントのリストにも目を通していただきたい。
その他のコミュニティへの参加を検討する
より大きなインパクトを持ち、より成功するために役立つ素晴らしいコミュニティは他にもたくさんある。大切なのは、共に学び、共に働ける仲間を見つけることだ。
私たちはこれらのコミュニティについてあまり詳しくはないが、何から始めたらいいのか、見当はついている。
まず単純に、あなたが最も興味を持っているグローバルな問題に焦点を当てたコミュニティに参加することをお勧めする。
例えば、AIの発展がもたらす存亡リスクの軽減に取り組みたいのであれば、AIアライメント・コミュニティに参加することを検討してみてはどうだろう。詳しくはこちらをご覧いただきたい。
工場畜産に焦点を当てるのであれば、アニマルウェルフェアコミュニティ、バイオリスクであれば、バイオセキュリティコミュニティ、グローバルヘルスであれば、国際開発コミュニティ(特に「Randomista」のような、よりエビデンスに基づいたアプローチに焦点を当てるコミュニティ)、核戦争や大国間紛争であれば、国際関係コミュニティへの参加をお勧めする。
多くの学問分野には関連コミュニティがある。もしあなたが学問の世界でキャリアをスタートしようとしているのなら、あるいは現在大学や大学院に通っているのなら、教授に相談し、行くべき最良の学会を見つけよう。これらは通常、参加する価値がある。
最後に、効果的利他主義と合理性コミュニティには共通する点があり、読者の多くはその両方に恩恵を感じている。合理性コミュニティのオンラインハブはLessWrongだ。
どうすればコミュニティがより効果的に協力できるのか?
すでにコミュニティーに参加しているのであれば、どのように協力し合うのがベストなのか、たくさんの意見をお持ちだろう。上級者向けシリーズでは、より良い協力の仕方についての記事を掲載している。
次は、キャリアガイド全体をまとめよう。
脚注
本文の注に関しては原文を参照してください。