【キャリガイド】第7部:長期的に最も有利な立場に就ける仕事とは?
モーツァルトは最も有名な神童の一人だが、彼の父親が世界的に有名な音楽教師であり、3歳からモーツァルトを教育し始めたことはあまり知られていない。モーツァルトの妹も優れた演奏家であった。これは三人が一緒に演奏している姿の絵である。優れた能力は沢山の練習なしには存在しえない。
世間はモーツァルトや、マララ・ユスフザイス、マーク・ザッカーバーグ等、若いうちに大きな成功を収めた人をもてはやしがちである。フォーブス誌の30 Under 30(30歳未満の30人)など、あらゆる種類の若いリーダーを表彰する賞が存在する。
しかし、こうしたストーリーは例外だからこそ興味深いものだ。
殆どの人は中年期に自分のインパクトのピークに達する。収入がピークに達するのは通常40代であることから、殆どの人が自分の生産性の最盛期を迎えるには約20年かかることが分かる。
同じく 、専門家がその能力がピークに達するのは30歳から60歳の間であり2、むしろこの年齢はますます増加している。
研究者がこれらの発見をさらに詳しく調べたところ、確立されている分野において専門家レベルの能力を発揮するには、通常10〜30年の集中的な訓練が必要であることが判明した。この分野の研究の権威であるK・アンダース・エリクソン(K. Anders Ericsson)氏は、30年の研究を経てこう述べている:
モーツァルトが若くして成功するには、若くして始めなければならなかった。モーツァルトの父親は有名な音楽教師で、幼少の頃からモーツァルトを厳しく教育したのだ。
これだけ聞くと気が滅入るように聞こえるかもしれない—成功するには時間が掛かる。しかし裏を返せば、あなたは今よりもはるかにスキルを向上することができるのだ。
我々のもとに来る人の中には「社会の役に立つ有用なスキルなんて私にはないかもしれない」と言う人が沢山いる。そしてそれは多くの場合事実である。卒業したばかりの人は、おそらく過去4年間をモビーディックや量子力学、マキャベリの研究等に費やしただろうが、将来の仕事にそれらの事柄が関わる可能性は殆どないだろう。
しかし、エリクソンの研究は、誰でも集中的な訓練を積めば、殆どのスキルを向上させることができることも示唆している。むろん、他の要素も重要だ—身長が2メートルもあればバスケが上手になるのはずっと簡単だ。だがだからといって身長が低い人がバスケで上達できないというわけではない。
つまり、現時点で自分に貢献できることがあまりないと感じていても、将来的にスキルを高め、おそらく何十年先もかけて向上し続けることができるかもしれないのだ。これは一般的にキャリアの初期段階で最優先事項とすべきものである。
所要時間:38分
要点
キャリア資本とは、スキルや人脈、資格証明、性格、経済的余裕など、将来、変化を生みだす上であなたをより有利な立場に置くもの全てを指す。
キャリア資本を構築するには、有用なスキルを身に着けることが重要だ。そのためには次のものが必要である:
喫緊の問題に取り組むのに最も役立つスキルの学習を優先する
自分に合ったスキルを学ぶ
優れた指導の下で長年に渡る訓練を積む
急成長している新しい分野で働くなど、適切な時に適切な場所にいる可能性を高めるチャンスを見つける
(とりわけキャリアの初期に)キャリア資本を蓄積することは非常に重要である。なぜなら、生涯を通じてはるかに生産性を高めることができるからである。 初期の仕事で大きなインパクトを与えることは稀であるため、通常は、キャリア資本を獲得することがより優先されるべきである。
キャリア資本を得るための一般的なルートを紹介する。これはキャリアの次のステップについてアイデアを得るのにも役立つだろう。:
興味の分野において高い実績の評判を持つ組織・人々の下で働く事。我々はテクノロジー関連のスタートアップ企業やトップクラスの AI ラボをよく取り上げているが、どの分野でも優れたチームや組織を見つけることはできる。喫緊の問題に特に重要な組織を参照(ただし、これら全てがキャリア資本を構築するのに適しているわけではない)
学術界以外に良いバックアップオプションを提供する修士・博士課程に進学する―とりわけ経済学・機械学習・合成生物学などの優先進路に関連する科目で。
議会スタッフ、議会の選挙活動への参加、行政府の職業などの政策系キャリアへのエントリールートをとる。
喫緊の問題に取り組むのに有用なスキルを構築し、加えて良いバックアップオプションを提供する仕事に就く(マネジメントやソフトウェア・エンジニアリング、データ・サイエンス、情報セキュリティ、中国やその他の新興経済に関する知識、マーケティングなど)。
何かしらの目覚ましいことを達成できる機会を利用する — 例えば組織の創設など、自分が秀でることのできる、または分野のトップに到達できる可能性のあるものなら何でも。
今後5年以内に大きなインパクトをもたらす何かを行える幸運に恵まれているようならば、おそらくそれは良い選択肢である―単にそれが目覚ましい成果だというだけでなく、あなたが取り組む問題の解決に関連性の高い人脈やスキルを得られることにもなる。
通常、初期の幾つかの仕事ではキャリア資本が最優先されるが、それ以降はキャリア資本とインパクトのどちらをどの程度優先させるか見極めるのが難しくなる。実際は、その時ある機会に大きく作用するものである。同じく、専門的なものと転用可能なキャリア資本、どちらを優先させるかという問題は、その都度異なるものである。
今現在就いている仕事においてキャリア資本を得る方法も沢山あるが、それについては後の記事で説明する。
キャリア資本が重要な理由
シャンテルは大学を出てすぐに世の中を変えたいと考え、そのうえパンデミックの防止に取り組む非営利団体のプログラム マネージャーという刺激的な仕事に就くことに成功した。しかしその小規模のチームでは自分のスキルを伸ばす時間を確保するのが難しく、彼女はその職務で期待していたようなインパクトを持つことができなかった。数か月後、彼女はストレスで睡眠不足になり、バーンアウトしてしまった。
シャンテルは代わりに大学院に進むことにした。彼女は将来のキャリアに役立つことを学んでいると感じ、以前の仕事よりもはるかに楽しんでいる。
意味のあることを成し遂げるのを先送りにするのは残念だが、すぐに大きなインパクトを与えるのは非常に稀だ。キャリアの初期には、自分のスキルに確実に投資し、長期的なインパクトを最大化するために必要な訓練を受けるのが最優先だ。
この点がとりわけ重要なのは、キャリアを通してはるかに生産的になることが可能であるからだ。その証拠に、科学者や政治家、最高経営責任者(CEO)のインパクトのピーク時(40~50歳)と、彼らが学部生だったころのインパクトを比べてみてほしい。
キャリアに関する助言を与えていく中で、自分自身に投資することではるかに成功し、幸せになり、能力を発揮できるようになった例を沢山見てきた。それも、その多くは、自分が得意になるとは予想もしなかった分野においてだ。
早すぎる時期にインパクトに焦点を当てすぎることは、将来より良いポジションに就く障害となり得るため、近視眼的でさえある。
つまり、殆どの人にとって、キャリアの初期の最優先事項は、我々が「キャリア資本」と呼ぶものを構築することにある。では、キャリア資本とは何だろうか?
キャリア資本の5つの要素
キャリア資本とは、将来世の中を変えたり、有意義なキャリアを持つうえで、優位なポジションに立たせるあらゆるものを指す。
通常、キャリア資本は以下の要素に分類される。これはキャリア資本の観点からオプションを比較するのにも使える基準だ。
スキルと知識:何を学び、それはどれ程役に立ち、またどれ程速くそれを学べるだろうか?学習に適した仕事とは、メンターや同僚から多くのフィードバックを受け、向上心を迫られるようなものである。「一番速く学べるのはどこだろうか?」を考えよ。
人脈:誰と働き、誰と繋がれるだろうか?それは将来インパクトのあるプロジェクトで協働できる有望なコラボレーターや、支えてくれる友人やメンター、影響力のある人たち、あるいは新たな輪を広げる手助けをしてくれる人達などだろうか?
信頼証明:ここで信頼証明と言うのは、法学の学位などの正式な資格だけではなく、業績や評判など、将来の協力者や雇用主にとって良い目印として機能するあらゆるものを意味する。あなたがライターなら、それはブログの質かもしれない。プログラマーならGitHub かもしれない。良いことをするのに興味があるなら、その関心を培ってきたことをどうやって証明できるだろうか?
人格: この選択肢は寛大さや思いやり、謙虚さ、全一性、正直さ、正しい判断力、重要な規範の尊重などの美徳を培うのに役立つだろうか?とりわけ、性格の良い人と一緒に仕事ができるだろうか(これはとても重要な点だ)。これらの特性は信頼を得、他者と協力したり、害を及ぼさないのに不可欠だ。またこれによって、難しい決断を迫られたときに、世界にとって最善のことができるかどうかも決まる。
ランウェイ: この仕事でどのくらいお金が貯まるだろうか?「ランウェイ」とは、収入なしに快適に暮らすことができる期間である。貯金額と支出をどれだけ削減できるかによって決まるものだ。我々は経済的な安定を維持するには6ヵ月のランウェイを目指すことを推奨する。12‐18ヵ月のランウェイは、大きなキャリアチェンジを行う柔軟性を与えるだろう。通常、年間 1% 以上の寄付をしたり、大きなインパクトを与えるために大幅な減給をする前に、高金利の借金を返済した方が良い。
ベストのキャリア資本を得るには?役に立つスキルを身につける
キャリア資本を得る方法に関する我々のアドバイスを一言で要約するとしたら、「役に立つスキルを身につける」だろう。
言い換えれば、喫緊の問題に取り組むのに必要なスキルのみならず、充実した仕事を得る交渉手段として使えるような、求人市場において有力なスキルも身につけるのだ。
また、有力なスキルを手に入れたら、そのスキルを他人に売り込み、人脈を作る方法を学ぶ必要もある。これには、学位取得や公開デモプロジェクトの実施など、意図的に資格を得ることもあれば、カンファレンスへの参加やツイッターのフォロワーを増やすなど、通常「人脈作り」と考えられていることも含まれる。要は、これらの種類の活動がキャリア資本を構築するのも事実だ。しかし、これらの活動はすべて、何か有益なものを提供できるようになれば、もっとずっと簡単になるものだ。だからこそ、我々はまずスキルを身につけることに重点を置いている。
何か役に立つことを得意にするには、たいてい次の4つの要素を組合わせなければならない:
学ぶべき有用なスキルを選ぶー前回の記事で世界を変えるのに有用であると我々が見なす大まかなスキルを紹介した:組織作り、アイディアのコミュニケーションとコミュニティ運営、研究、寄付をするために稼ぐ、政府と政策。また、どのスキルが最も雇用されやすいかについての記事もある。
自分に合ったスキルを見つけるーつまり自分の才能に合っていて、最も早く習得できるスキルのこと(次の記事参照)。
練習ーほとんどの仕事はできるようになるのに何年も、あるいは何十年もかかる。すぐに優秀になれるとは思わない方がいい。そのためには、良い指導者を見つけ、長く続けられる仕事をすることも重要になってくる。
適切な時期に適切な場所にいる可能性を高めるー 例えば、法学のような確立された分野よりも、急成長している真新しい分野の方が競争相手が圧倒的に少ないので、トップになるのはずっと簡単だ。同様に、適切なシーンの一員であることも大きな要因になり得るので、勢いのあるコミュニティや人、組織に偶然出くわしたなら、そこに固執することで報われるかもしれない。
要するに、有益な学習率を最大化するように努めるのだ。
次のセクションでは、我々が一緒に働いてきた人達にとってキャリア資本を向上するうえで役に立った、具体的な職種を紹介する。
また、自分自身に投資し、キャリア資本を向上させるために、現在の仕事の中でできることもたくさんある。これは非常に重要なことなため、この後の自己の成長についての記事(人格形成、人脈作り、お金の節約、より一般的に効果的になるためのアドバイスなどについて)で取り上げる。また、既存のキャリア資本を効果的に売り込む方法については、仕事を得る方法の記事で取り上げている。
将来有益になるスキルとは?
イラストレーター、法律事務員、あるいは医療技師者になろうと考えていないだろうか?これらの仕事は近い将来なくなってしまうかもしれない。
数十年前までは。チェスは機械には決してできないことの代表的例として挙げられていた。しかし1997年、カスパロフはコンピュータープログラム「ディープ・ブルー」に敗れた。
2020年のある分析は、スタンダードソフトウェア、ロボット、そしてAIの3種類のオートメーションが、過去数十年間に労働市場に与えた影響を調べた。著者は、ITやスタンダードソフトウェアの進歩によって、非常にルーチン的な仕事や事務的な仕事に従事する人の数が減少したこと、そしてロボットの進歩によっては多くの手作業が代替されたが、社会的知性や創造性を必要とする仕事は代替されていないことを発見した。
しかし人々のキャリアに最も大きな影響を与えるであろうものは、最近のAI、特に機械学習の急速な進歩だろう。
これまで機械学習は、特定のテストに対してアルゴリズムを訓練するのに使えるデータが多く収集できる場合に最もうまく機能してきた。そのため、発電所の運転や医療検査の分析といった分野では、既に自動化が進んでいる。
ここ数年は、より一般的で創造的なAIシステムの大きな進歩を目の当たりにしてきた。最先端のAIシステムは、複雑な学力試験でどの人間よりも優れた成績を残し、テキストから極めてリアルな画像を生成し、いくつかの難しいコーディング問題を解くことができる。このようなことはほんの1年前でも不可能だった。
過去に紹介した2013年の論文では、創造性を伴うタスクは自動化が最も難しいタスクの一つだと推測していた。が、アイデアを生み出すことは最新のAIシステムの強みの一つだ。例えば、ダリとポロックを掛け合わせたような画像をほぼ瞬時に何百も生成したり、注目を集める見出しのアイデアを無限に生成したりすることができる。
自動化が最も難しいと思われるのは、以下のようなタスクだ:
意思決定と問題解決:例えば、AIに生成された沢山の画像の中から選ぶこと、特に(おそらく法的な理由から)人間が意思決定の過程の中にとどまることが必要な場合。
社会的知性と人間関係の構築
複雑な運動技能:ロボットは生成AIシステムに遅れをとっているため、配管工事や外科技術はあまり影響を受けない可能性が高い(少なくとも今のところ)
高度な専門知識:専門分野においては、AIシステムは人間の一流専門家ほど正確ではない(とはいえこの状況があとどのくらい続くのかは明らかではない)。
今後10年間の労働市場にどのような影響が出るのかを予測するのは非常に難しい。
前述した2020年の分析では、AIの進歩の影響を最も受け、相対的に所得が下がる可能性が高いのは、所得上位70パーセンタイルから99パーセンタイルの間の職種だと論じている。最も影響を受けそうな仕事のリストには、化学エンジニア、検眼士、配車係などが含まれている。対照的に、最も影響を受けにくい仕事のリストには、エンターテイメント・パフォーマー、食品調理従事者、大学講師などが含まれている。(この分析は一つのモデルに過ぎないので、完全に信用してはいけない)。
自動化によって最も影響を受ける仕事の雇用や収入が必ずしも減るというわけではない。もし以前は化学技術者2人でできた仕事が1人で出来るようになれば、エンジニアの雇用数は半分になるかもしれないし、1人あたりが以前の2倍の価値を生み出すようになるため、より多くのエンジニアを雇うことになるかもしれない。すべては状況の経済学的な成り行き次第である。
はっきりしているのは、仕事における自動化しにくいタスクが増え、AIシステムでできるものは減るだろうということだ。
ということは、もしあなたが自分のスキルを将来も必要とされるものにしたいのであれば、最も自動化しにくいスキル(おそらく上記のようなスキル)の習得に重点を置き、生産性を向上させるためにAIをどのように活用するかを学ぶことにも重点を置くべきだということだ。将来、最も活躍できる労働者は、重要な問題を解決するためにAIや自動化を最適に活用できるものだろう。
今後5〜10年を超えると、前もって何が起こるかを知ることは不可能に近くなる。最終的には、AIシステムは基本的に全ての仕事を人間より上手くこなせるようになるように思われるが、そのとき経済がどうなっているかは誰にもわからない。
詳しくは、AIが経済に与える影響についての2023年8月のマイケル・ウェブへのインタビューを参照せよ。
キャリア資本を得るために具体的になすべきこと
キャリア資本を向上するためには、役立つスキルを身につけるのが一番効果的だ。そのための参考として、自分の適性を評価する方法と、そのスキルの習得を開始する方法についてアドバイスしている、有用なスキルのリストを用意した。
自分に最も合っていると思われるスキルに絞って、何年かやってみることをお勧めする。
次のステップを見つけるには、「今後数年で、このスキルを身につけるのに最も役立ちそうな仕事はどれだろうか?」と自分に問いてみよう。
キャリア資本のために、自分の最適な次のステップを見つける方法を2つ紹介しよう:
一つ目は、長期的に最も行き着きたい場所から逆算する方法だ。まず、自分が長期的に最も到達したい地点から逆算して、「自分がここに到達したいとしたら、その道を進む、歩みを最も加速させる次のステップは何だろうか?」と自問する。これは、特に効果的な昇進方法を見つけるのに役立つ。(これについては、キャリアプランニングの記事で詳しく説明する)。
二つ目の方法として、数年(またはそれ以下)できる仕事で、特にスキルを身につけるのに適していると思われるものをいくつか紹介する。自分に適していると思われるものをメモしてほしい―このガイドの後半で紹介する次のステップのためのアイデアリストに加えられる。
1. 興味のある進路で高い実績をもつと評判の成長中の組織で働く
卒業したばかりの人は、おそらく実践的な作業が苦手だろう。
大学では明確に定義された、はっきりとした答えを持つ問題に短期間で答えるように言われる。これはマスターすることが可能なものだ。仕事の世界では、そもそも何が問題なのかを考え、何に優先順位をつけて取り組むかが課題の多くを占める。プロジェクトのスコープや成功基準は(自動的に)明確に定義されるわけではない。大きな成果を上げることは不可能かもしれないし、何年もかかるかもしれない。
これを読んでいるあなたはおそらく、毎週のチェックイン・ミーティングの運営や財務諸表の読み方、上手なプレゼンテーション、上司との会話といった基本的なことをまだ知らないだろう。
そのため、大学卒業後にできる最も有益なことの一つは、高い実績をもち、優れたインテグリティ(真摯さ)を備えたチームで働き、仕事全般で何かを成し遂げるための、非常に有用なスキルを指導してもらうことだ。
その組織の評判が高ければ、そこで働いたという資格も得られる。そして、おそらく他の野心的な人たちと沢山会って、人脈を築くことができるだろう。
急成長している会社であれば、昇進のチャンスも多く、士気も上がり、将来の業績もより印象的なものとなるだろう。
一つの仕事でこれらの条件をすべて満たすのは難しいが、どれも注目する価値がある。以下は、就職先を選ぶ際のその他の考慮事項だ:
民間企業と非営利、どちらを選ぶ?
生産性を学ぶには民間企業が良いかもしれない。営利という明確なフィードバックが非効率な仕事をより早く淘汰するからだ。我々の印象では、従来の非営利組織の多くは機能不全に陥っており、それが非営利組織のリーダーがしばしば他での研修を勧める理由の一つである。
もう一つの大きな要因は民間企業の方がはるかに多くの仕事があること、また高給を得ることでランウェイを築くことができるということだ。
とはいえ、非営利団体や政府、大学など、良い組織やチームはあらゆるセクターに存在する。
インパクトをさておいても、社会的使命を持つ組織で働くことは、差し迫った世界的問題について学ぶことができたり、良いことをしたいと思っている人たちと出会ったり、モチベーションや意義が高まったりするなど、大きな利点がある。
小規模の組織と大規模の組織、どちらを選ぶべきか?
小規模な組織では、より幅広いスキルを学ぶことができ、より速く責任のある仕事を任される可能性がある。大企業は通常、知名度が高いため、履歴書に記載できる優れた資格となるのに加えて、役割のばらつきが少ないため、研修や指導の能力も高いことが多い。
さらに推測するに、小さな組織は業績と成功の間のフィードバックループがより優れている可能性がある一方、大きな組織で成功するには政治や官僚主義をうまく乗りこなしていくことがより重要になる(それも貴重なスキルになり得るが!)。
非営利セクターで長期的に働きたいのであれば、組織の多くは小規模であるため、小規模な組織で働いた方がより適切なスキルを身につけられるかもしれない。しかし、行政や政策の分野で働きたいのであれば、大規模な組織の方が良い準備になるかもしれない。
What will the people be like?
組織間、さらには同じ組織内のチーム間でも、文化の違いは大きい。
キャリア資本形成が目的なら、良い指導を受け、自分の仕事に対するフィードバックが得られる場所で働くことを優先すべきだ。良い指導者やロールモデルなしに学ぶことは難しい。同じように、一緒に働く人の人柄もあなたに影響を与えるだろう。
具体的なオプションの中でどれがベストだろうか?
特に検討すべき選択肢の一つは、有望な技術系スタートアップで働くことだ。これは結果を出すことへの強力なインセンティブをもつ、パフォーマンスの高いチームや、急速な成長、幅広いスキルを学ぶ機会など、上記のメリットの多くを一度に手に入れられる可能性がある。スタートアップが成功すれば、良い資格とお金も手に入る。最優先の世界的問題に関連するスキルを学べる企業を見つけることができれば、それもまたボーナスポイントだ。
もちろん、多くのスタートアップ企業は経営がひどく、失敗する可能性が高い。しかし、良いスタートアップで働ける率を増やすことはできる。詳しくは、スタートアップの仕事に関するキャリアレビューを参照。
また、OpenAIやDeepMindのような一流のAI研究所で働くという選択肢もある。これらは業績の高い組織で、AI研究について学んだり人脈を作ることができ、同時に素晴らしいバックアップオプションを得ることができる。AIセーフティーや政策に直接携わる職務に就けるなら理想的だろう。単にAI能力の開発を進めることは、潜在的なリスクを秘め有害になりかねないからだ(キャリア資本を形成するために害のある役職に就くことは推奨しない)。しかし、全ての専門家が同意しているわけではない。詳しくは、専門家がAI能力を高める職務を避けるべきかどうかについて匿名でアドバイスしている記事を参照。
このカテゴリーに入る可能性のある選択肢は他にも沢山ある。我々の喫緊の問題に特に関連する組織については、推奨団体のリストをご覧いただきたい。(ただし、これら全てがキャリア資本を得るのに向いているとは限らない事を心に留めておいてほしい。)
民間企業では、大手ハイテク企業、一流金融会社、コンサルティング(複数の業界を経験できる)、プロフェッショナル・サービス(4大会計事務所の1つで働くなど)、法律などが一般的に検討される選択肢だ。有害だと思う選択肢は排除し、自分に最も合いそうな選択肢に集中すべきである。
2. 慎重に選び抜かれた分野で大学院に入る
学術界に進むことに確信がないのに、高額でしかも安定したバックアップオプションのない修士過程に流れてしまう人はよくいる。これは往々にしてあまり良い選択ではない。
学部の終わりに宇宙論の研究プロジェクトに取り組んだ。そのまま博士課程に進むことは彼にとって当然のことと思えた。しかし博士課程を始めてみると、アカデミックな宇宙論以外のことを学ぶには適していないことに気付いた。そして、自分が世の中を変えるのに、アカデミックな宇宙論でのキャリアが特別適しているとは思えなかった。単純にその道を歩み続けるのは楽だったが、彼は早々に退学し、別のスキルを身につけ直す道を選んだ。
しかし、大学院のプログラムの中には、キャリアを大きく後押ししてくれるものもある。しいて挙げるなら、最も魅力的な大学院のプログラムは経済学か機械学習の博士課程だろう。
殆どすべての経済学・機械学習の博士号取得者は、経済学や機械学習に関わる仕事に就くことができる(他の博士号ではそうとは限らない)。
機械学習は世界で最も差し迫った問題の一つである人工知能によるリスクに直結しており、一方経済学は、AI政策、グローバルな優先課題研究、国際開発など、さまざまな重要な問題に取り組むための下準備となる。
経済学から社会科学の他の分野に進むことや、政策の重要なポジションに就くことができる。同様に、機械学習のスキルは他の多くの分野で応用することができる。
どちらも高収入のバックアップオプションがある。
しかし他にも良いオプションは沢山ある。
もし博士課程に興味があるのなら、以下のことが検討できる。
自分に最適な大学院のプログラムとは?
分野を比べる基準
個人的適合性―その分野が得意かどうか?得意な場合、後々その分野の仕事に就ける可能性が高くなり、より楽しめ、より速く仕事をこなせるようになる。
長期的プランとの関連性―あなたが最も関心を持っているオプションへと近づく道だろうか?長期的な計画には特に役立たないのに、修士での勉強をしたがる人は多い。例えば、起業家になりたい人が、起業に特に役立たないのにも関わらずMBA(経営学修士)を取得したがることは多い。また、何をすべきか分からなくて、適当な修士号を取る人も多い。特に弁護士になりたくもないのにとりあえず法学部に進む人もいる。
バックアップオプション―アカデミア内外を問わず、柔軟に進路を変更できるか?アカデミアでのキャリアに確信がない場合は、主にアカデミックなキャリアに役立つプログラム(哲学博士、文学博士など)に注意すること。また数学の博士課程なら修了した後も経済学や物理学、生物学、コンピュータサイエンスなどに編入できるが、その逆は当てはまらないことを念頭に置く。他にも、大学院課程によっては、より有利に研究職に就けるものもある(例えば、経済学博士の90%以上が研究職に就けるのに対し、生物学博士は約50%しか研究職に就けない)。
これらの基準を考慮すると、どの科目がベストだろうか?
先述の通り、我々が特に推奨するのは以下の二つである:
我々が喫緊とする問題のリストからして、他の有益な分野は:
他の応用的な定量的科目(コンピュータサイエンス、物理学、統計学など)
安全保障学、国際関係学、公共政策学、法科大学院など、特に政府や政策関連の職業に就くための科目
パンデミック予防に関連する生物学の分野(合成生物学、数理生物学、ウイルス学、免疫学、薬理学、ワクチン学など)
もちろん、このリストにはないオプションもぜひ調べてほしい。例えば、我々はもっと多くの読者に歴史を研究してほしいと書いてきたし、80,000 Hoursのチームの多くは哲学のバックグラウンドを持っている。しかし、これらの科目は競争率が高く、バックアップの選択肢も少ないため、より高度な個人的適正が要求される。
また状況によっては、他の選択肢のほうが理に適う場合もある(例えば、民間企業にいるのであればMBAを取得する、など)。
どの科目が最適かは、個人の長期的なキャリア目標によっても異なる。我々はキャリア・レビューや問題プロフィールの中で、特定の長期的な進路に最も役立つ、大学院の研究の種類を議論している。
特定の科目においてベストなプログラムは?
大学や特定のプログラムによっては、同じ分野でも実に様々な違いがある。以下を検討してほしい:
良い指導を受けられるだろうか?優れた研究を行う方法というのは、実地訓練を通じて伝承される技術のため、良い指導は不可欠である。また、良い指導を受けることは、やる気や、学術界での将来のチャンスに大いに役立つ。多くの場合、一緒に働くことになる特定の人物と、その人物との相性に左右されるものである。
その大学は、自分が快適に過ごせる環境だろうか?(例えば、立地や雰囲気の面)
教授や大学の評判はどうか?興味の分野における指導員の評判は、学術界で のあなたの将来のチャンスに影響する。有名大学であることは、学界以外での機会(コミュニケーター や政策分野など)にも役立つ。
助成金はもらえるのか?
一般的には得られる選択肢が少ないと思われる科目でも、これらの基準に即して最適の機会を見つけたのなら、それを選んだ方が良いことも全然あり得る。
大学院に進むべきだろうか?
軽々しく取るべき決断ではない。特に、博士課程で自信を失ってしまったり、メンタルヘルスを損なったり、修了できなかったりする人が多い。一方、修士号には多額の費用がかかる。そして両方とも時間が掛かる。
また、普遍的に答えられる問題でもない。あなたが手にしている他の選択肢にもよる。
とりあえず、大学院進学の可能性を検討しているのであれば、次のステップのアイデアリストに加えておこう。そして、このガイドの後半で、それらを絞り込んでいこう。(今すぐ考えたい場合は、キャリア決断プロセスを使って、大学院と他の最良の選択肢を比較することもできる)。
今すぐ大学院への出願を検討すべき理由についての記事も参照。
例:ディロンは哲学以外の勉強をするなど想像もできなかった。ところが、彼は興味の対象は簡単に変えられるという研究を読み、経済学とコンピューター・サイエンスも選択することにしてみた。哲学よりも選択肢が広がると思ったからだ。予想以上に気に入った彼は、現在経済学の博士課程に在籍している。
3. 政策キャリアへの入門ルートに進む
トム・カリルはクリントン政権とオバマ政権の下16年間働いた。インターネットやナノテクノロジー、最先端の脳モデリング等の発展に携わった人物だ。
しかし、彼が最初にその道に関心を持ったきっかけは、1988年にマイケル・デュカキスの大統領選挙キャンペーンにボランティアとして参加したことだった。デュカキスは敗れたが、カリルがその下で働いた何人かは1992年にビル・クリントンの下で働くことになり、やがてクリントンが勝利した。
前回の記事で見たように、政府・政策分野でのキャリアは非常にインパクトが大きい。また、この分野には幅広い職務がありながら、多くの場合、その入り口は共通している。つまり、これらのエントリールートは、多くのインパクトのある選択肢を開き、同時に、幅広く通用する専門的なトレーニング、政策の世界での知識や人脈、そして資格も得られる可能性があるということだ。
国によっては多少選択肢が異なる。
主な選択肢には以下のようなものがある:
行政府のフェローシップおよびリーダーシップ・スキーム
政治家の下で働く
政治キャンペーンに携わる
シンクタンクでの研究職
行政府での初級職
それぞれの詳細については、政策・政治スキルを身につける方法の記事を参照。米国に焦点を当てたのは、読者数が最も多い国だからだが、他の国にも同様の選択肢がある場合が多い。
これらの選択肢がキャリア資本形成に適しているかどうかは、具体的な職務内容や一緒に働く人たちによる。例えば、 良い指導を受けられるか?その分野内の評判はどうか?人柄は良いか?政策課題は前向きなものか?カルチャーは自分に合うか?
有望な政策ポジションに就いたものの、後になってその社風が自分に合わないと感じた人もいる。また、物事を誤ると害を及ぼすリスクもある。よって、仕事であれ、学位であれ、それ以外の何であれ、それぞれの具体的な機会について考え、自分に合うかどうかを注意深く考えることが大切である。
4. 具体的なスキルを学べることは何でもやる
証明可能で、有益で、転用可能なスキルを得られるような新しいステップは、どんなものでも良い。
例えば次のようなものだ:
プログラミングを学ぶためにブートキャンプに行く
優秀なマーケティングチームに入ってデジタルマーケティングを学ぶ
優れたコミュニケーターや研究者の研究助手になる
詳しくは、便利なスキルのリストを参照。こうしたスキルの習得方法も書いてある。
具体的なオプションの中には次のようなものがある(順番に意味はない):
ソフトウェア・エンジニアリング
我々は、技術的なバックグラウンドが全くないところから、6ヶ月以内に以前の仕事よりもはるかに充実した高給のプログラミングの仕事に就いた人を沢山知っている。また、プログラミングは、我々の最重要課題のいくつかを含め、様々な分野で活用できる需要の高いスキルだ。
ソフトウェア・エンジニアリングや定量的科目のバックグラウンドがあまりなくても、独学やプログラミング・ブートキャンプを通じて短期間で習得できることが多い。これで経験ゼロから6〜12ヵ月で就職できるようになれる。
このスキルを習得する詳細は、ソフトウェア・エンジニアリングについてのキャリアレビューを参考にしよう。
機械学習と応用的AI
機械学習(ML)は、AIがより広く応用されるようになるにつれて、おそらく今後数十年にわたり、需要がますます高まっていくだろう。そのため、AIによるリスクの軽減に取り組むための準備だけでなく、他の多くの差し迫った問題にもMLを応用することができ、おそらく年収10万ドルを超えることができるだろう。
現在大学に在学中であれば、コンピュータサイエンスを専攻していなくてもMLのコースを受講できるかもしれない。
Or, if you wanted to self-study, here are some places you might start:
あるいは、独学で勉強したいのであれば、以下のようなところから始めるといいだろう:
3Blue1Brownのニューラルネットワークに関するシリーズは、初心者が始めるにはとても良い。
Neural Networks and Deep Learningは、定量的な科目のバックグラウンドがある者に向いている。
fast.ai(実戦的な応用に重点を置いている)やFull Stack Deep Learning、deeplearning.aiの様々なコースのような、入門的なオンラインコース。
より詳しくは、MITのIntroduction to Machine LearningやNYUのDeep Learningのような大学のコースを参照。
AIによるリスクを軽減するための機械学習の利用については、技術系AIセーフティーキャリアのレビューをご覧ください。
マネジメント
マネジメントは、人員をマネジメントするにせよ、長期的で複雑なプロジェクトをマネジメントするにせよ、キャリアを重ねれば重ねるほど、非常に幅広いポジションで必要とされるようになるスキルである。
マネージャーとして腕を上げる方法は沢山ある。
最も重要なのは、小規模なマネジメントにとりかかる道を見つけることだ。優れたマネジャーの下で働くか、そのようなメンターやコーチを見つけるのが理想的だ。そしてその人に色々相談すること。また、あなたが管理する部下からのフィードバックも必ず集めること。
また、マネジャーとして腕を上げるための具体的な習慣やプロセスも沢山ある。これらは上記のことを実践しながら練習できるものだ。もっと詳しく知りたい方には、以下をお勧めする:
『The Great CEO Within』は、マネジメントに関する多くの基本事項を含め、スタートアップ企業の経営全般に関する最良のアドバイスをまとめている。読むべきものがあるとすれば、これだ。
書籍化もされたポッドキャスト『Manager Tools “Basics”』も良い入門書だ。大企業向けになっている。
『Managing to Change the World』は非営利団体でのマネジメント向けだ。
優れたマネジメントはコーチングに基づく部分もある。この要素の入門書としてはジョン・ホワイトモア(John Whitmore)による『Coaching for Performance』が良い。
ショーン・コヴィーらによる『4 Disciplines of Execution』や、アッシュ・マウリヤによる『Running Lean』など、有用なマネジメント・プロセスはたくさんある。
よりアカデミックでエビデンスに基づいたアドバイスが必要な場合は、マネジメント研究の第一人者であるエドウィン・ロックの『Handbook of Principles of Organizational Behaviour』をチェックしよう。Googleにも、成功するチームに関する興味深い研究がある。
情報セキュリティ
情報セキュリティは、組織のミッション、データ、資産を危険にさらす可能性のあるサイバー攻撃から組織を守るものである。
組織によっては、有害な遺伝子配列や強力なAI技術など、広く知られると非常に危険な情報を保護する必要がある。このような分野での情報漏えいは、悲惨な結果をもたらす可能性があるため、情報セキュリティは、インパクトの高いキャリアを築きたい人にとって最適な選択肢となる。また、需要の高いスキルであり、給与も高いため、バックアップの選択肢も豊富だ。
このキャリアのレビューの参照。
データサイエンスや応用統計学
データサイエンスは統計学とプログラミングを掛け合わせたものだ。
ブートキャンプはプログラミングと似たようなものだが、主に科学分野の博士生を募集する傾向がある。科学分野の博士号を取得したばかりでアカデミアを続けたくないのであれば、ブートキャンプを検討するのも良い選択肢だが、まずはプログラミングを選択肢から外すことをお勧めする。同様に、データ分析、統計、モデリングも、前述のように適切な大学院プログラムを受講することで学ぶことができる。
For more about this career path, see our full review of data science.
詳細はデータサイエンスのレビューを参照。
マーケティング
トイレットペーパーをマーケティングすることを学ぶのは、社会的使命感に動機付けられた選択肢ではないように思えるかもしれない。しかし、どんな組織でもマーケティングは必要であり、マーケティングスキルへの需要は高まっている。スキルを身につけてから、社会的使命を持つ組織に転職することもできる。それでなくとも、バックアップの選択肢は沢山あるし、代わりに寄付をして稼ぐこともできる。
マーケティングのスキルを学ぶには、一流企業でエントリーレベルのポジションに就くか、企業で優秀なメンターの下で働くことができる。
従来のクリエイティブな広告業よりも、とりわけデータやテクノロジーを駆使したマーケティングを学ぶことを推奨する。詳しくはマーケティングのキャリアレビューを参照。
営業・商談
マーケティングやマネジメントと同様、営業スキルは、どのような仕事であれ(タイトルに「営業」が入っているかどうかに関わらず)、大いに役立つ。
人を雇ったり、重要な理念を広めたり、オフィスを借りたり、仕事を得たり、どんなものでも「売る」必要がある。
営業というと攻撃的な感じ、つまり相手の利益に反することを説得しようとしているように感じられるかもしれない。だが最良の営業は、両者のニーズを満たすような、協働的なものである。
優れた営業の多くは、純粋に人々に利益をもたらし、良好な関係を築こうとすることから生まれる。人脈を築くための実践的なアドバイスは、このガイドの後半で紹介する。
営業のスキルを身につけるための、我々の見つけたリソースを幾つか紹介しよう:
ニール・ラッカム著『Spin Selling』。ひどいタイトルだが、実際は我々が見つけた資料の中では最もエビデンスに基づいたものだ。ラッカムはトップの営業社員を研究し、彼らがどのようなテクニックを使っているかを調べ、そのテクニックを基に人々をトレーニングし、その結果についてランダム化比較試験を行った。ただし、このアドバイスはかなり古く、広く知られていることに注意。
ロバート・チャルディーニ著『Influence: The Psychology of Persuasion』は、説得に関する心理学研究をまとめたものだ。
ダニエル・ピンク著『To Sell is Human』も、売り込み方について研究から何が言えのるかをテーマにしている。
ウィリアム・ユーリー著『Getting Past No』は、交渉術に関する古典的な著作の一つである。そのテクニックは厳密には検証されていないが、他にエビデンスに基づいた交渉術のアドバイスはまだない。
中国や他の新興国経済について学ぶ
中国は世界的に重要な大国へと急成長し、経済を含め、世界的な諸問題の多くにおいてますます重要なプレーヤーとなっている。しかし、中国以外の国で中国について詳しく知っている人は少ない。こうした理由から、中国のスペシャリストになることは、特にグローバルな大災害リスクに焦点を当てた場合、非常にインパクトのあるキャリアとなる可能性がある。
また、中国に関する知識があれば、ビジネスや政策における他のポジションも開けるかもしれない。(ただし最近の米中間の緊張を考慮すると、中国に長期滞在することで、他国の特定の政府職から排除される可能性がある)。
インドや、多かれ少なかれロシア、アラブ諸国、ブラジルについても同様のことが言える。新興グローバル大国のスペシャリストになるための詳細はこちら。
5. 自分が秀でることが出来そうなものは何でもやる(たとえちょっと変わったものでも)
我々は過去に、インドで全国ネットのテレビ番組に出演できるかもしれないほどマジシャンになりそうな人物に出くわした。この人物は、マジシャンになる道とコンサルタントになる道とで迷っていた。我々からすると、マジシャンの道はコンサルタントの道よりも魅力的に思えた。なぜなら、メディアにおけるスキルや人脈は、世界で最も差し迫った問題に取り組む仕事にとって、より珍しく、価値があるからだ。
よくある間違いは、キャリア資本を築くということは、学位のような正式な資格を得ること(法学部など)、あるいはコンサルティングのような一流の仕事をすることだと考えることだ。
キャリア資本の「ハードな」側面、例えば有名な雇用主を持つというようなことに注目するのは簡単だ。しかし、「ソフト」な側面、つまり、スキルや実績、人脈、評判も同等、あるいはそれ以上に重要である。最高のキャリア資本は、印象的な実績から生まれる。
どんな仕事でも、優れた業績さえ挙げれば、こういったキャリア資本の「ソフト」な側面を築くことができる。良い仕事をすることで評判が高まり、他の高業績者との繋がりもできるだろう。優れた仕事をしようと頑張れば、おそらくもっと多くのことを学べるだろう。
だからそ、新しい組織を立ち上げる等の、型にはまらないことをすることが、時としてキャリア資本の最良の近道となり得る。成功すれば、それは素晴らしいことだ。そしてたとえ成功しなくても、多くのことを学び、興味深い人々に出会うことができるだろう。
印象的と思われる、実際に目に見えるプロジェクト、例えば成功したブログを書いたり、メディアに載るようなプロジェクトをしたりすることも役に立つ。
世の中を変えたいと考えている人にとって、それで秀でることができるのであれば、ちょっと変わっていると思えるようなことをすることも価値がある。(このテーマについては、ホールデン・カーノフスキーとのポッドキャストで。)
このガイドの前半で、アイデアの伝達やコミュニティの形成、寄付を通じて大きなインパクトを与えることが可能だという話をした。どんな道でも秀でることができれば、大きなインパクトを与えることができるということだ。なぜならそこから得た人脈や影響力、資金、信用を、差し迫った問題を支援するために使うことができるからだ。
だから、キャリア資本を築きたいのであれば、たとえそれが一般的には良い選択肢に思えなくても、自分に合う分野であれば検討する価値はある。
ボディビルは通常、キャリアアップの方法ではないが、アーニーはそれで成功した。
6.世の中に貢献することをする
私(ベンジャミン)が80,000 Hoursを創設したとき、キャリア資本という概念はまだ編み出されていなかった。だがもし存在していたら、私は非営利団体を立ち上げるよりも、金融業界で働く方がキャリア資本として優れていると結論付けていたかもしれない。しかし、それは間違いだと思う。私は80,000 Hoursで働くことで、より多くを学び、より多くを達成し、素晴らしい人々に出会い、もっとキャリア資本が築けた。
やってみることで学ぶことは、多くの場合、最も効果的な学習方法である。大抵の人は、キャリアのスタート地点で大きなインパクトを与える道筋を見出すことはできないが、もしそれを見出したなら、それを追求することこそキャリア資本の最良の選択肢かもしれない。
これは、5〜10 年に渡って成功すると思われるスタートアップの社会的インパクトプロジェクトに参加することを意味する場合もあれば、最もインパクトがあると思われるキャリアパスの一つに直接進むことを意味する場合もある。成功すれば、それは印象深いものとなり、キャリア資本にプラスになるだろう。また、善いことをすることに関心がある人であれば、おそらく意味のあることに取り組むほうがモチベーションが上がり、成功する可能性が高くなるだろう。
さらに、喫緊の世界的問題に取り組みたい場合、人生のどこかでそれらの問題について学び、同様にその問題に取り組みたいと考えている他の人に会う必要がある。 これは通常、同類の分野で働いている場合の方が、(例えば)適当な会社で仕事に就いているよりも容易である。
そしてもちろん、世の中を変える良いことをする可能性がある! おそらく初期段階ではキャリア資本が最優先事項であるべきだが、キャリアの早い段階で何かしらポジティブなインパクトを与えることができるかどうかも重要だ。
これらの利点は、この道の他の弱点を補うことができる(例えば、受けられる指導が少ない点)。
思い切って早い段階で何かインパクトのあることをしようとするのは難しい決断だ。 プロジェクトの成功確率や、一緒に働く人、どのような訓練を受けられるかなどによって異なる。 しかし、喫緊の世界的問題の一つに早急に貢献できる方法があるのであれば、有用なスキルや実績、人脈を獲得するという観点からだけでも、それを検討する価値は確かにある。
仕事の満足度に関する記事でも述べたように、(世界的問題に)貢献することをなすことは、他人を助けることと個人的な充実感を得ることの両面において良い戦略だ。しかも、世界にとって最も重要なことをしようとすることが、そのままキャリア資本においても最良の戦略となる場合もある。
転用可能なキャリア資本と専門に特化したキャリア資本
次の 2 種類のキャリア資本の間でのトレードオフに直面するかもしれない:
転用可能なキャリア資本は、さまざまな道に使える。 例えば、社交スキルや生産性、マネジメントスキル (どんな組織で必要とされるもの)、または印象的なものとして広く認められている業績など。
専門的キャリア資本は、狭い範囲の進路に役立つ(マラリアや情報セキュリティの知識など)。
どちらに焦点を当てるべきだろうか?
他の条件がすべて等しければ、キャリアの初期段階では、転用可能なキャリア資本に重点を置いた方が好ましい。 キャリアの初期は何が最善か不確かなため、柔軟性を持っていた方が便利だ。 またより一般的に、長期的にどのような役割を望んでいるのかが不確かであればあるほど、転用可能なキャリア資本に重点を置いた方がよい。
しかし、残念ながら、他の条件がすべて等しいことなど殆どない。専門的なキャリア資本では後の選択肢が絞られる一方、多くの場合、最もインパクトのある仕事に就くには必要な事が多い。よって、どこかの時点で専門を決める価値はあるだろう。
インパクトを与えるのを見合わせるべきだろうか?
今日、AI セーフティーエンジニアとして働くことができる場合、より大きなインパクトを与える可能性のある研究職に就くために博士号を取得するべきだろうか?
博士課程を履修すれば、早い段階で得られたであろうインパクトを放棄するだけでなく、与えるであろうインパクトを持ち越していることになる。 このテーマに関する殆どの研究者は、他の全ての要素が同じ場合、喫緊の問題を解決するためにリソースを早いうちに投入したほうが良い、ということに同意している。例えば、革新的 AI システムが構築されてからでは、せっかく頑張っても手遅れになる可能性がある。
さらに、その間にインパクトを与えることを諦めてしまうリスクもあり、非公式な世論調査によればその年間リスクはかなり高い。
つまりこれは、博士号取得によって得られるキャリア資本が、AI セーフティーに直接取り組む人 (たとえば、セーフティーチームのソフトウェア エンジニア))として得られるキャリア資本よりも大幅に大きくなければ、そのコストに見合う価値がないことを意味する。
だが多くの場合、それだけの価値があることが多い。 研究者の方がソフトウェア エンジニアよりも 2 倍の影響力を持つ可能性は否定できない。 そして上で述べたように、特に優れたキャリア資本を獲得することで、キャリア全体で生産性が10 倍向上する人もいるというのもあり得る話だ。
我々はキャリアの初期に、評判の高い企業で優れた指導を受ければ良かったのに、新しい非営利団体の立ち上げなど、自分の能力に見合わないプロジェクトに取り組んでしまった人を見てきた。
殆どの人にとってキャリアの初期段階においては、キャリア資本を形成することが重要な優先事項であるべき一方、キャリアが進むにつれて、インパクトとキャリア資本の適切なバランスを取ることが難しくなる。
結局のところ、このバランスを正しくとれるかどうかは、多くの場合、見つけた機会の質、また世界的問題の緊急性についての信念、そして年齢(キャリア資本を得るのが早ければ早いほど、より長くそれを使うことになる)に掛かっている。
このトピックについてさらに詳しく知りたい場合は、以下をお勧めする:
インパクトを与えるのを見合わせるべきだろうか? — 2014 年の記事。
トビー・オードによる生存リスクの軽減を目的とした労働のタイミング
どんな仕事でもキャリア資本を得る方法
キャリア資本を築くために転職する必要はない。 寄付や権利擁護活動を通じてどんな仕事でもインパクトを与えることができるのと同様、時間を上手に使えばどんな仕事でもキャリア資本を築くことは出来る。
その方法については後の記事で。
結論
現時点ではどのように世の中に貢献すべきか分からず、価値のあるスキルなぞ殆ど持っていないと悩んでいるかもしれない。しかし、大丈夫だ。
確かに人々はフォーブス誌の 30 Under 30 のように、早い段階でひと目でわかる名声を上げ、早期に成功を収めた人々の話が好きだが、そういった人達は普通の人ではない。 単に幸運に恵まれた人を除けば、殆どの偉大な業績の背後には、技術の構築に熱心に費やした長年の努力が隠れている。
我々はプログラミングを学んだり、優れた上司の指導を受けたり、適切な大学院に行ったりすることで、キャリアを変える人々を沢山見てきた。
意味のあるキャリア資本を構築できれば、よりインパクトを持ち、満足のいくキャリアを築くことができる。
自分のキャリアに適用してみよう
自分にとって、長い時間をかけて形成するのに最適なスキルセットはなんだろうか?
自分が最も興味のある長期的な進路を考えた場合、そこに向かう上で一番の近道となる次のステップは何だろうか?
キャリア資本を得るための次の6つのステップを確認し、自分がうまくいきそうな3つを書き留める。手始めにいくつかのアイデア:
業績が高く、成長中の組織で働く機会は考えられるだろうか?
大学院で学ぶ意味のある選択肢はあるだろうか?
政策分野で考えられる選択肢はあるだろうか?
役に立つ、転用可能なスキルを学ぶことができる何かをすることはできるだろうか?
何か印象的な結果を残せる選択肢はあるだろうか?
(世界的な問題に)いますぐ貢献できたりしないだろうか?
あなたがすでに持っているもので最も貴重なキャリア資本は何だろうか? これを特定することで、自分が最も得意とすることについての手がかりが得られ、雇用主にあなたを雇用するよう説得するのに役立ちます。 各カテゴリを確認しよう。
スキルと知識
人脈
資格
人格
ランウェイ
行き詰まった場合は、最も誇りに思う業績を 2〜5 つ挙げて、それらの共通点を考えよう。
ここまで、長期的にどの選択肢を目指すべきか、そしてそれに向かってどのように取り組むべきかを検討してきた。 次の記事では、選択肢を絞り込む方法について説明する。
^ 本文の注に関しては原文を参照してください。