【戦評】平石楽天、死に体の25人ベンチ枠~5/2●楽天0-1ソフトバンク
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球団史上3度目のスミイチ敗戦
10連休の後半戦に突入した令和2日目。
博多どんたくを翌日に控えた敵地で、楽天は球団史上3度目のスミイチ敗戦を喫した。
先発を任されたのは故郷・九州凱旋の古川。
初回に2番・周東、3番・今宮によるエンドランを絡めた短長連打攻勢で1点を失ったものの、2回以降はゼロを並べる6回1失点の粘投。
しかし、相手が悪すぎた。
ホークスの先発は大竹、防御率0.89はリーグ2位だ。
時価ではパリーグ最高左腕といえる投手との対戦になった。
サウスポーに弱いという好調イヌワシ打線が抱える唯一の弱点もあいまって、チャンスらしいチャンスが作れない。
最大の得点機は、大竹が退き、ホークスが継投に入った8回だった。
二番手の新人・甲斐野から、先頭打者四球を起点に1死3,1塁を作り、工藤監督も認める本戦最大の山場を迎えていた。
しかし、ああ不運。
4番・島内の痛烈ゴロはセカンド正面を突く4-6-3のゲッツー。
9回は森の気迫に三者凡退に倒れ、チームは0-1で惜敗し、打線は散発5単打、連続試合二ケタ安打は「6」で止まっている。
そのなか、収穫は古川の粘投だ。
今までなかなか見ることの少なかったピッチングを展開し、ぼくを内心、驚かせた。
この件については後述する。
チーム成績は2位、27試合14勝12敗1分の勝率.538。
各種戦績は、直近10戦4勝6敗、ソフトバンク戦2勝3敗、ビジター6勝6敗1分、ナイトデー3勝3敗、1点差ゲーム3勝6敗に。
ゲーム差は1位・ソフトバンクと1.5、3位タイの西武、日本ハムと1.0、5位・ロッテと2.0、6位・オリックスと3.5となった。
両軍のスタメン
楽天=1番・茂木(三)、2番・田中(中)、3番・浅村(二)、4番・島内(左)、5番・ウィーラー(指)、6番・銀次(一)、7番・ブラッシュ(右)、8番・嶋(捕)、9番・三好(遊)、先発・古川(右投)
ソフトバンク=1番・三森(一)、2番・周東(左)、3番・今宮(遊)、4番・デスパイネ(指)、5番・松田(三)、6番・明石(二)、7番・上林(右)、8番・甲斐(捕)、9番・牧原(中)、先発・大竹(左投)
凡例
苦手左腕は絶好調、さらに初顔合わせの不運
7回4安打無失点で待望の今季初勝利を手中した大竹。
防御率は0.89から0.72に改善し、BABIPも.236へ。
運をも味方につけた絶好調の左腕と『初顔合わせ』という部分でも、楽天を不利にさせた。
初めての対戦になるため、打者はどうしても球筋を確認したくなる。
必然、待球姿勢になってストライクゾーンを見逃すケースが増えるのだ。
この試合、楽天打者が大竹から見逃したストライクは22個。
今季楽天戦の相手先発の見逃しストライクは1試合平均16個なので、やはり多かった。
その内訳は1巡目で10個、2巡目8個、3巡目4個。
初回は1番・茂木、2番・田中がそろって初球から2球連続で見逃して、あっさり0-2に追い込まれる場面があった。
今年25歳の茂木は今年23歳の大竹と早大で在籍が重なっている。
同じ釜の飯を食った仲であり、紅白戦などでも対戦があったと思われるなか、じっくり見てきた光景が印象的だった。
試合後、「抜き球を使った緩急が、イメージより難しかった」と大竹評を口にした平石監督。
その難しさは『5本の内野フライアウト』でも裏付けることができそうだ。
1回茂木三飛、2回ウィーラー捕邪飛、3回田中三邪飛、4回島内遊飛球、5回嶋二飛と『希望のない打球』が多かった。
今シーズン楽天打線が内野フライアウトを5本以上記録したのは、4/2日本ハム戦(〇E3-1F)、4/29ロッテ戦(●E2-4M)に続く3度目になった。
当てにいくだけになっている田中の右打席
大竹から作った得点圏はわずか4打席。
そのなか、打者にとって最も重圧少ないのは、アウトカウントに余裕のある3回1死3,1塁。
しかし、その打席に入ったのが、vs左投手の右打席で25打席ノーヒットの田中という巡り合わせの悪さもあった。
案の定凡退した田中はその後も大竹を打てず、結局、vs左腕27打席ノーヒットに。
どうも見ていると、右打席では空振りも三振も少なくなっている。
それが吉兆ではなく、当てにいく打撃になっているがためだと感じるのだ。
開幕前の実戦では右打席の三振率が66.7%という異常値だった。
あまりもの三振の多さにシーズン入ってからは三振を恐れて、自身のスイングを貫くというよりも、当てにいってしまっている打撃が増えている気がするのだ。
精彩を欠く田中は、投手が代わった8回無死1塁では2度のバント空振り。
「事実上のバント失敗打席」もあり、キャリア通算の真のバント成功率を66.7%にした。
機能しない右の代打、死に体のベンチ枠
大竹から作った最後のチャンス、7回の攻撃も考えさせられるものになった。
先頭・銀次が1塁に歩くと、1死後に8番・嶋が10球粘って進塁打。
2死2塁で打席が9番・三好にまわったところで、平石監督は代打・藤田を告げた。
ぼくはこの場面、『右の代打要員を起用できないもどかしさ』を感じた。
左vs左になるため、渡辺直を使いたいところだが、彼の状態が思わしくないのだろう。
実際、今季の右の代打作戦は渡辺直を中心に7回起用があるが、ヒットは1本も出ず。
だから、左vs左にもかかわらず、実際、大竹の左右打者被打率は左.171、右.234だったのに、左の藤田に頼るしかなかったのだろう。
下記の日刊スポーツの記事では「左投手を苦にしないベテランに左対左の勝負を託したが」とあるが、今季の藤田は開幕前の実戦で対左9打席1安打とサウスポーを打てていなかった。
開幕後も3打席ノーヒットと結果が出ておらず、実戦における左投手打席の場数自体も少なく、そんななかいきなり最高左腕を打ち崩せと言っても難しかったと思う。
左投手との場数の少なさでいえば、昨年も少なかった。
全289打席中、左投手打席は19.0%にとどまり、打率も.229に低迷。
右も左も関係なく起用された数年前と比べて、近年は左投手との対戦を回避する起用になっている。
今季の.344という素晴らしい打率も、もちろん大前提として藤田本人の状態の良さはあるが、サウスポーとの対戦を避ける起用法も後押しする部分は大きいのだ。
ひるがえって、今季の渡辺直は本当に起用が少なくなっている。
ここまでの出場5試合は全て代打、代打後に守備に就く機会はなく、守備回はゼロ。
それでも彼をベンチから外すことができないのは、チームの精神的支柱以上にFA浅村のサポート要員だからだろう。
現在、ベンチには渡辺直の他に島井も入っている。
島井は4/23に今季初の1軍昇格をはたしたが、ここまでの出場は同日9回1イニングの守備固めだ。
ベンチの中に『ほぼほぼ戦力にならない選手』が2人も入り、ベンチ枠を有効活用できていない異常事態も、島井昇格後チームが2勝6敗と失速していることと、全く無関係とは言えないだろう。
この辺りの平石監督の決断も注目したい。
6回、打者26人、球数111、被安打4、被本塁打0、奪三振7、与四球4、与死球0、失点1、自責点1。
新たな引き出しをみせた古川の粘投
黒星が目立つ状況で迎えた首位決戦。
しかも、故郷・九州凱旋で家族・知人も現地観戦したであろうヤフオクドーム。
投げ合う相手は同期で絶好調の大竹。
初回いきなり先制点を献上という、古川にとっては難しい状況が目白押しだった。
そのなか、6回1失点の粘投で初登板4/25日本ハム戦(●E5-6F)から2戦連続のQSを記録した。
注目したいのは、この日のストレート割合だ。
昨年53.0%だったその割合は、前回4/25日本ハム戦は58.0%。
ところが、本戦は45.9%と、古川にしてみればかなり少ない部類になった。
「まだまだな部分もあるけど、いい時の真っすぐに戻りつつある」と古川が手応えを口にし、最速147キロ、平均143.3キロを計測したストレートが少なかったのは、初回甘く入った速球を、周東と今宮に先制失点の短長連打を浴びたことが大きいのだろう。
先制失点した後は、ストレートをストライクゾーン周辺に厳しく投げ分ける見せ球にしていた。
ゾーン厳しく投げ分ける中でカウント稼ぎのファウルや凡打が稼げればOKという基本線で、今年は抜けが良いというチェンジアップを中心にした変化球でカウントを整え、変化球で勝負しにいく場面が目立った。
とくに4回甲斐空三振、ともに四球になった5回今宮とデスパイネの打席は、それが顕著だった。
変化球のストライク率は66.7%と合格点。
変化球被打率は14打数1単打、4三振、4四球の.071と抜群で、.375だったストレート被打率とは対照的な結果だった。
本来なら球威ある真っすぐをストライクゾーンに投げ込み、甘く入っても球威でねじ伏せていくピッチングが古川本人も理想とするところだと思う。
しかし、緊張感あるゲーム展開のなか、慣れない技巧派投球。
正直、神経をすり減らしたマウンドだったと想像する。
それでもしっかりゲームメイクできることを証明したマウンドは、今後の糧になるはずだ。【終】
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