【戦評】左打者を翻弄してきた神通力に陰り。正念場を迎えた牧田和久~10/13●楽天3-4xロッテ
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5回まで投打かみ合う理想の展開も・・・
もはや絶対に負けられない上位二強との直接対決6連戦。
その初戦、9回にブセニッツが井上に男泣きの二塁打を浴びて3-4xのサヨナラ負けを喫している。
ゲームの前半戦は3-0と投打かみ合う理想の展開だった。
初回、イーグルスは鈴木の4号ソロで幸先良く先制。
古巣から3本目となる一発は、主導権を手繰り寄せる「効果絶大の一閃」になった。
というのは、直前の1番・小深田の左中間快飛球をセンター福田秀が球際ダイビングキャッチ。プレイボール直後に飛び出した敵軍ビッグプレーの余韻を消す右越えになったからだ。
また、今季ロッテはZOZOマリンで先制したときは18勝0敗の負けなしである。先制されるとイヤな雰囲気になりかねないところ、その可能性を消した点でも意味ある1本に。「これで行ける!」。僕のようにと心の中で握りこぶしを作ったファンは多かったと思う。
2回には指揮官の采配がズバリ的中。
実況・谷口廣明アナ、解説・里崎智也さんが口を揃えて絶賛した2点劇を披露した。
重要な6連戦を控えた前日、報道陣に「前のめりになって超積極的に戦っていかないとダメなのかなという気持ちはある」と語った三木監督。その決意どおり、田中和を1塁に置く無死1塁、7番・小郷の場面でアグレッシブなタクトを揮った。
それは1-0からの2球目の1stストライクだった。
一走・田中和にスタートを切らせると、小郷の打撃はライト右へ。石川のシンカーにタイミングはずされかけたように見えたが、上手くバットに乗せて無死3,1塁を作っていく。
さらに見せたのは、続く8番・辰己の初球。
辰己が偽装スクイズの構えで小郷の二盗を支援した。
走者3,1塁で二盗アシストの偽装スクイズ作戦は、三木監督の十八番と言っていい。
開幕前の6/2DeNA戦7回1死3,1塁、打者・山崎幹&走者・小深田で披露。
開幕後も6/30○E15-4M同点5回無死3,1塁の太田&銀次、7/8○E12-8H3点リード8回1死3,1塁の太田&内田でみせており、久しぶりの作戦発動になった。
その後、無死3,2塁、辰己の二ゴで三走生還。
敵軍の守備体形が内野定位置であることを確認した辰己による自己犠牲の打撃だった。
なおも1死3塁。「開けてびっくり玉手箱打法」だと本人が言う足立のタイムリー。足立の右前適時打は2017年10/7オリックス戦以来3年ぶり。伏兵の一撃で3点目を奪取した。
投げてはエース則本が7回2失点。
とくに前半の5回は散発2安打に封じるほぼ完璧な投球をみせた。
前半を終えて3-0の戦況有利。投打かみ合った楽天がこのまま押し切るのかと思われたが、結果はまさかの逆転サヨナラ負けになった。
これでチーム成績は3位、98試合47勝47敗4分に。
各種戦績は以下になった。
直近10試合&10月 4勝5敗1分
ロッテ戦 12勝7敗
ビジター 19勝24敗3分
1点差試合 10勝10敗
カードの初戦 11勝14敗
先制した試合 33勝20敗2分
6回終了時にリードした試合 36勝8敗1分
若鷹軍団も勝ったため、ゲーム差は1位・ソフトバンクと8.0、2位・ロッテと6.0、痛恨の敗戦だ。
4位・西武には再び0.5へ肉薄され、5位・日本ハムと4.5、6位・オリックスと9.0へ推移している。
◎両軍のスタメン
楽天=1番・小深田(遊)、2番・鈴木(三)、3番・浅村(二)、4番・島内(指)、5番・銀次(一)、6番・田中和(中)、7番・小郷(左)、8番・辰己(右)、9番・足立(捕)、先発・則本(右投)
ロッテ=1番・藤原(左)、2番・高部(指)、3番・マーティン(右)、4番・安田(三)、5番・中村(二)、6番・福田秀(中)、7番・井上(一)、8番・田村(捕)、9番・西巻(遊)、先発・石川(右投)
◎試合展開
1年目から続く課題点
やはり戦況の潮目は、3点リードで迎えた6回の攻撃だろう。
里崎さんが「一気に流れが変わった」と指摘する楽天の痛い攻撃ミスが発生した。
先頭は小郷。この日は右安、三振逃で2打席出塁。実弟・賢人が東海大の投手としてドラフト候補に上がるプロ2年目が、石川の誘い球を看破し先頭打者フォアボールをもぎ取った。
しかし、無死1塁、辰己が痛恨の投バ飛に。
このとき小郷も大きく飛び出し、1塁戻れずのバントゲッツーになってしまった。
じつを言うと、辰己は走者1塁での真のバント成功率がとても悪い。
プロ1年目の昨年も60.0%だったが、今年も下記のとおり50.0%である。
今秋のキャンプで徹底的にバント練習をしてもらいたいと思う。
◎2020年 走者1塁 辰己涼介 真のバント成功率の履歴
なぜか外一辺倒だった
この日、則本と組んだのは足立。約1ヵ月ぶりのスタメンだった。
昨年は則本と組んで防御率1.80、今年も2.12を記録、その額面どおりの好内容をみせてくれた。
素晴らしかったのは、谷口アナも指摘していたが、決め球フォークの解禁のタイミング。
立ち上がりから4者連続を真っすぐ三振に退けた則本は、2回1死後に初めて走者を背負う。
1死1塁、打席には福田秀だ。初球、2球とインサイドで追い込み、高め釣り球を1球挟んだ4球勝負だった。1-2からの勝負球は低めフォーク。ここで本格的に看板球の解禁を解いている。
ここまでは追い込んでからも、ほとんどストレート勝負だっただけに、m福田秀の脳裏にも真っすぐの意識が強くあったはず。
そのなか、真っすぐの軌道に偽装したフォークが低めへ。
優勝請負人のFA1年目打者も対応できなかった。
もう1つ、組み立てが丁寧だったこと。
下位打線など力量乏しい打者にはついつい外一辺倒で簡単に行きがちである。しかし、この日の則本&足立は、そんな打者にも必ず1球はインコースをみせ、両サイドに散らす配球をみせた。
打者26人中、最低1球でも内角球を使用した対戦は18人に及んだ。
内角を挟んだ18人との対戦成績は18打数2単打7三振。
一方、内角未使用だった8人とは7打数3安打、1犠打、1二塁打、1本塁打。
くっきり明暗分かれた。
じつは内角未使用8人のうち3人が全くの同一打者だった。(他5人は別打者)
それは、中村奨吾。
本戦で則本から中安、左線二、左本と3安打を放った。
9回ブセニッツ&下妻も含めて4打席12球勝負、楽天捕手が中村の内角にミットを構える光景は1度もなかった。
理由はコース打率にあると思う。
今季の中村の数字を確認すると、下記のとおり、外角に弱く、真中・内角に強い傾向があった。
外角 .211
真中 .304
内角 .304
そのため、内角を見せず、ほぼ外一辺倒の配球になったと思われる。
しかし、多くの打者に内角球を少なくとも1球は挟む丁寧な素晴らしい組み立てを見せていた則本&足立だっただけに、中村にだけインコースを見せない光景に、ちょっと違和感を覚えた。
もし内も使っていたら、中村との3打席勝負の結果は変わっただろうか。
正念場
結果的に4失点したものの、則本以下投手陣は健闘したと思う。
ロッテ戦でとにかく気をつけるべきは四球だ。
421四球も54死球も12球団最多である。
これが12球団2位となる.337という高いチーム出塁率の源泉になっている。
9/29日本ハム戦(M4-3F)では初回に1番・荻野が上沢から粘りの11球で四球出塁。この出塁を起点に打線がつながり、上沢から先制3点を取るシーンがあった。立ち上がりだけで上沢に41球も投げさせた攻撃は、広く話題を呼んだ。
しかし、この日、楽天投手陣はそれをさせなかった。
カウントが3ボールまで進んだケースは5打席(全て則本)あったが、1単打に抑えている。この点は見事だったと思う。
残念だったのは8回牧田だ。
43登板はパリーグ5位の登板数。1位モイネロ46登板)。そのなか防御率1.71は優秀だが、ここへきて安定感に陰りが生じている。
来日復帰初黒星を喫した9/25●E4-5L以来、6試合6回9安打1三振1四球3失点の防御率4.50なのだ。
さすがに疲労が見え始めているのかなという印象だ。
加藤に浴びた内角狙い外抜け逆球や、同点に追いつかれた適時暴投など、らしくない投球は、やっぱり疲労により投球の再現性が失われつつあるのだと思う。
(暴投時の下妻の捕球について訊かれ、現役時代は捕逸・暴投が極端に少なかった里崎さんは「今のは正直簡単ではないです」とコメント。下妻責任よりも牧田のコントロールミスのほうに責任があるという解説だった)
アンダースローの永遠の課題は、左打者をどう抑えるかだ。
左打者にとって下手投げの軌道は見えやすく、対応しやすい。
MLBで成功をつかめなかったのも、右打者には被OPS.609と良く抑えたのに、左打者に.916と打ち込まれたことが大きかった。
来日復帰の今年の左右打者別の被打率は、
左打者 .235
右打者 .161
この左打者の数字を来日初黒星の9/25以降に限ってみると、15打数8安打の.533なのだ。(9/25以前は.171だった)
登板数も40試合を越え、ライバル球団の手元にも牧田のデータが集まり、対策が講じやすくなったという側面もあるだろう。また、前述したように登板過多による疲労で投球の再現性が失われ、打者の対応を容易にさせているる部分も大きいと思う。
それでも今まではリズム良すぎる登球間隔などで、制球ミスや球威不足などを「隠す」こともできたのだが、それも難しくなりつつある。
お疲れのところご苦労なことだけど、牧田にとって、ここが正念場だと思う。【終】
◎9/25以降 牧田和久vs左打者
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