【総括】 前年登板ゼロからの32歳復活劇。残留表明した楽天・辛島航の素晴らしき2022年
個人事業主にとって“売りどき”は大事
プロ野球は個人事業主の集合体だ。
その意味では、自分の“売りどき”を知る選手に「人生設計が上手いな!」と感嘆せずにはいられない。
近年の典型例は、2020年の大野雄大(中日)になる。
他球団の話で恐縮だが、この年32歳を迎えていた竜のエースは、前例にない活躍ぶりをみせた。
5試合連続完投勝利・6試合連続完投を含むシーズン10完投。45回連続無失点など無双街道が続き、防御率1.82はキャリアハイかつセリーグ最優秀防御率に。自己最多タイ11勝をあげて、沢村賞に選出された。
しかし、この年の中日は首位から8.5差引き離されての3位。
コロナ禍で開幕が6月にずれ込んだことも影響し、セリーグはCS開催を断念。ポストシーズンに進出できるのは優勝チームだけ。
そんな事情から「そこまで無理しなくても・・・」という否定的な声も根強かった。ブログ『野球の記録で話したい』の運営やNumber Web等の媒体寄稿で知られるライターの広尾晃も「私はセーフティリードがある状況では大野は完投しなくてよかったと思う。それから最終的に120球を超えた3試合も投げない方が良かったと思う」と批判した。
酷使NG論者の僕が否定しなかったわけ
ふつうなら、僕も否定派の末端論者だったと思う。
チームが優勝争い、プレーオフ争いに全く絡まないのに、三十路を超えたエースが遮二無二ハッスルしすぎて何の意味があるのか? 真に優勝争いをする来年以降にエースが疲労を引きずり本領発揮できないとしたら、それこそ本末転倒だ。
僕も本来はそういう意見に与するのだが、ところがこの年は大野にとって特別なシーズン、7月に国内FA権を取得したのだ。
過去に3年連続二ケタ勝利の実績を持つとはいえ、2018年には極度の不振で減額制限いっぱいの大減俸も経験。三十路を超えて残り何年現役ができるか不透明。そんな状況下、FA宣言するにせよしないにせよ、ここで頑張れば自らの市場価値を大きく高めることができる。このことをよくわきまえた上でのフル回転のように感じられた。
実際、大野はしたたかな性格のようである。
京都外大西高左腕をアマ時代から取材するスポーツジャーナリストの氏原英明は、11/2Voicyなどで「計算高い」と評している。そんなそろばん勘定がいかんなく発揮されたのか、あのしぶちんで有名な中日から年俸1億3000万→『年俸3億円+出来高の3年契約』の大型契約を引き出したのだから、まさに狙いどおりだった。
島内宏明の好例
楽天では、2020年の島内宏明の例が思い浮かぶ。
2016年以降、安定した成績を続けている背番号35は、近年は毎年のようにキャリアハイまたは新境地と言ってもよいプレーをみせてくれている。
国内FA件を獲得した2020年は初めて打線の中軸に座り続け、自らの価値を上げたなかでFA権を行使せず『年俸1億2000万+出来高の4年契約』を勝ち取った。ここで注目すべきは契約年数だ。4年はイーグルスには珍しい長期契約なのだ。
みごとすぎる辛島航32歳の復活劇
その意味で、今季の辛島航も、素晴らしかった!!!
飯塚高から2008年ドラフト6位で楽天入り。14年目にあたる今年は6/24に晴れて国内FA権を取得。
前年は春先の左肘手術の影響で1軍登板なしに終わった。2軍でもわずかに1登板。その影響で契約更改で5100万円→4000万円の減俸へ。
このことが逆に辛島にプラスに作用した部分もあり、通算49勝左腕が『人的補償なしのCランク』に。(前年1軍登板ゼロだったからそうなるのは当然なのなりゆきだが)実績に対して評価が低すぎで、もしFA宣言すれば、複数球団が獲得に乗り出しても不思議ではない《破格の掘り出し物》になるはずだった。
はたして辛島が自らの立ち位置を把握し、大野のようにしたたかに計算して、今季をプレーしたかはわからない。
わからないが、結果として17登板90回、防御率3.40、6勝4敗は、素晴らしい数字になった。
下記に2015年以降の成績を表にしてみた。
2015年は2月久米島キャンプ朝の声出しで「今年の目標は二ケタ勝つことです。二ケタ勝てなかったら野球を辞めます」と仰天宣言した年になる。そこからの8年間を表にまとめた。
右手骨折涌井の穴を埋めた!
今年は5/25○E6-1Tで初登板。右手中指骨折した涌井秀章に代わって招集されると、甲子園で球団生え抜き左腕初の通算50勝をマーク。17登板90回、防御率3.40、6勝4敗の成績を残した。
この表をみると、防御率3.40は、2015年以降では1位だったことがわかる。キャリア全体でも103.1回を投げた2012年の2.53に続く2位の好成績になった。K/BBも回復傾向になった。
また・・・(続く)
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