ヤマセミ指数(yamasemi index)
私はヤマセミが好きです。ヤマセミを見つけると心が躍ります。
映画「おおかみこどもの雨と雪」が地上波公開された際には、映画の舞台となった上市町某所に本当にヤマセミがいるのか?とさんざん通って調査し、きちんと映画通り生息していることを確認し、富山県生物学会に報文を上梓しました。
それくらいヤマセミが好きです。
県内のいろいろな場所の鳥類調査をする中で、そうだ、ヤマセミがいる場所といない場所はどう違うのか、を統計的に知ることができれば、どんな環境のところを調べるとヤマセミが見つけられる可能性が高いのかがわかるはずだ、と考えました。
今回は、そんなヤマセミ指数とでもいうのが作れないか試してみます。
まずは「ヤマセミと同所的に観察される可能性が高い鳥」を確認してみましょう。「この鳥がいる場所にはヤマセミもいることが多い」とか「この鳥とこの鳥の組み合わせがいる場所ではヤマセミがいることが多い」という予測です。
鳥類種同士の相関は下図の通りです。近い枝でつながっている種のまとまりは、富山県では同所的に出現しやすい鳥です。
ヤマセミは矢印のところです。
拡大してみましょう。
一番同所的に確認されたのはシロハラ1種で、次に近しい関係にあるのはカワセミ、サンコウチョウ、コサメビタキの3種、さらにその次に近しい種はカワウ、カルガモ、コガモです。
これらの鳥が4~7月に見られる場所に、ヤマセミも同居している可能性が高いことがわかりました。
4月を過ぎているのに冬鳥のシロハラがいる場所や、サンコウチョウ・コサメビタキが鳴いていてカワセミがいる場所などは要チェックです。
次に、環境変数のグループ化によるクラスター分析を行ってみます。
使うデータは前回同様の、4~7月の鳥類相の定量的なセンサスデータ群です。冬まで入れてもいいのですが、冬の鳥類相はカモ科鳥類の個体数に大きく引きずられてしまいますし、かといって水辺の鳥であるヤマセミの解析から水鳥を省くのもおかしな話ですので、そのまま行ってみます。
ヤマセミの定住性を考えても、「繁殖~育雛時期にいる=一年中いる」と考えておおよそ間違いではないでしょう(いいわけ)。
調査地を鳥類相の似た者同士で6個のグループに分けましたが、今回はそれに「ヤマセミがいたところ」という7つ目のグループを加えます。
この「ヤマセミがいた」には、8月~翌3月のデータや、センサス以外の非定量的な確認記録も含めます。25か所中全7か所が「ヤマセミのいた場所」でした。
環境変数については、従来の標高、海からの距離、農耕地の有無、民家の有無、森林の有無、草地の有無、湖沼の有無、河川の有無に加え、魚類の放流の有無も新たに追加しました。
統計ソフトRでクラスター分析して、ヤマセミがいる七つの調査地からなるグループ7の出現傾向を解析します。
結果です。
こうなりました。
見かたがよくわからないですね。
赤枠で囲んだところが、25か所中、ヤマセミがいた7か所の調査地が所属するグループ7です。
分枝を上からたどっていくと、全てが「森林を含む調査地」であることがわかります。
次の分枝では7か所中6か所が「魚類の放流が行われている調査地」で、そこは同時に「標高100m以上」という条件も満たしていました(図の右側の枝)。
図の左側はのこりの1地点だけのデータについての解析になります。森林はあるけれども魚類の放流はない調査地の分析を見ていくと、その先の枝では「海からの距離が23.31㎞未満かつ14.46㎞以上」で、河川があり、農耕地がない調査地でした。ここは富山市山田村の湯谷川一か所だけの結果ですので、あまり信頼度は高くないでしょう。
結論として、ヤマセミのいた7か所中6か所の調査地の環境の共通項として「森林があり、魚類の放流がされている標高100m以上の地点」という結果が出ました。だいたい経験則と合致するのではないでしょうか。
そんな場所でシロハラやサンコウチョウやコサメビタキやカワセミが鳴いていたら、さらに確度は高まりそうです。
富山県内では、そんな条件を満たす場所を調査すれば、ヤマセミが生息している可能性が高い、と言えそうです。
参考にしてみてください。
今回はヤマセミの写真多めでお送りしました。
最後に思ったけど、ヤマセミと山瀬まみって似てるよね。