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種数が多ければ多様性が高いわけじゃない ~Rarefactionによる調査地間の比較

多様性という言葉が人口に膾炙してかなりの年月が経ちます。

多様性「diversity」というと、だいたいの人が何となくその意味を想像できるようになっていると思われます。

生物の多様性、文化の多様性、民族の多様性、性の多様性。大雑把に言って「いろんなものがいっぱいあるのがいい状態だよね」という感じで理解されているのではないでしょうか。

しかし実際には、「多様性」は、豊富さ (richness)と均等性(evenness)の 2 つの視点から考えられる概念です

言い換えれば、種の多様性とは①ある調査地で記録された種の総数と、②それぞれの種の個体数がどれだけ均等か(とびぬけて個体数が多い種がいないか)、の2つの指標から算出されるのです。

例えば マガモ・カルガモ・コガモの3種が合計100羽いる池が2つあったとしましょう。A池はマガモが30羽、カルガモが50羽、コガモが20羽です。対してB池はマガモが95羽、カルガモが4羽、コガモが1羽です。種の総数という観点ではA池もB池も3種で同じですが、種の均等性という観点で見るとA池の方が均等で、B池は相対的に不均等であるため、多様性はA池の方がB池よりも高い、ということになります。

セイタカアワダチソウやアメリカザリガニなど侵略的外来生物がよい例ですが、ある種の個体ばかりの状態になっている環境というのは、いかに種数が多くても多様性は低いわけです。

ちなみに立山の室堂では解説員の皆さんが盛んに「多様性豊かな立山の自然」とおっしゃっていますが、立山の自然は平野部の低山と比べて種数も少なく均等性も低いため、お世辞にも多様性の高い自然とは言えません。高山特有の生態系が維持されていることで、富山や日本全体の種の多様性を高めている、というのが正しい解説だと思います。

さて、先日解析した私の鳥の調査地25か所には、種数と種ごとの個体数のデータがあるので、どの調査地がいちばん多様性が高いか比較するのは簡単なようにも思えます。

しかし、調査地によって調査の内容が微妙に違うため、単純な比較はできません。

具体的には、調査回数が多いほど出現する鳥の種数は増えるでしょうし、調査区の広さやラインセンサスの距離の差も種数・個体数に影響するでしょう。調査努力量の差が、記録される種数や個体数に影響を与えている訳です。

これら不均一な調査内容を均一にならして比較する手段に、Rarefaction(レアファクション)という解析方法があります。直訳すると「希薄化」です。

この方法では、全ての調査地のデータを調査努力量がいちばん小さかった調査地に合わせます。

この中では、91個体しか記録できなかった野積川八十島橋の調査地点が最小です。

他の24か所すべての調査地について、確率統計的な手法を用いて、「もしここで91個体しか記録できなかったら、その中に何種が含まれることが期待されるか」を推定するのがRarefactionです。

実際記録されたデータの中からランダムに一部を取り出し,調査努力量が最も少なかった地点と同じだけの調査努力量しか費やされなかった場合に記録されたであろう種数を推計するのです。

たとえば富山市ファミリーパークでは85種6686個体が記録されています。この調査を91個体確認できた時点で打ち切った場合、85種の鳥類がこの91個体に含まれる確率をそれぞれ計算し、合算するのです。

この作業はエクセルで関数計算します。手作業なので大変です。

結果です。グループについては前回解析したものを踏襲しています。

Rarefaction推定値が一番高いのは刀利ダムで32.002種でした。85種が記録されていた富山市ファミリーパークは、調査努力量を野積川八十島橋に合わせると27.088種となり、実測値53種の刀利ダムよりも下位になりました。
くだんの野積川八十島橋地点は当然ですが16.000種となり、計算式が間違っていないことを確認できました。そして、16種という実測値は全調査地最小でしたが、Rarefactionの結果を見ると、宇波川河口のほうが多様度が小さいことがわかります(ここは実際、ウミネコの個体数がいつも全体の95%くらいでした)。


では、鳥類の出現傾向ごとに分けられた各グループ間で鳥類の多様度に差があるか、を見ていきましょう。
まずは散布図です。

揺らぎは確認できますが、差があるかどうかは判然としません。
こんな時は検定です。

グループ間の差の検定ですので、クラスカル-ワーリスの検定(Kruskal-Wallis test)を行います。

エクセルの検定ソフトStatcel4を用います。


P値が0.016ですので、危険率5%(p<0.05)で「各グループ間に多様度の差がある」と言えました。

今回も鳥の写真が無くてすみません。

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