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他人を安易に精神病と決めつける危険性
近年、SNSの発達により医師による病気の解説が増えた。それは精神病においても同じであり、その発信が病気の治療に対する助けになる一方で、偏見を助長したり一般人による安易な精神病のレッテル貼りをする行為が見受けられる。
この記事では、いくら医師の解説に当てはまろうが一般人が他人を安易に精神病扱いすることは、社会的・倫理的・心理的・法的な観点からさまざまな危険性を孕んでいること、安易なレッテル貼りは相手へ負の影響を与えるだけでなく、発言者自身や社会全体にも負の影響を及ぼす可能性があることを様々な視点から考えていく。
問題点について
精神疾患は医療的な診断が必要なものであり、専門家以外が他人を「精神病」と断定することは誤解や偏見を助長する。これにより、精神疾患を抱える人々への社会的スティグマ(差別意識)が強化される危険性があり、本来ならば適切な治療を受けて症状を寛解できたはずの人を遠ざけてしまったり、誤診につながる危険性までもある。
なにより重要なことは、人権侵害にも該当するということである。診断は医師が治療のために行うことであり、医師免許を持たない一般人が他人を精神病扱いすることは、相手の人格を否定し、名誉を傷つける行為にあたる。相手の尊厳を侵害する可能性があり倫理的に許容されないため、レッテル貼りをした人間が訴えられる可能性や周囲からの信頼を損ねかねないということも意識しておく必要がある。
何故、安易なレッテル貼りをしてしまうのか?
次に、なぜ他者に安易なレッテルを貼ってしまうのか、レッテル貼りをしてしまう側の心理を考える。いくつか理由があるので、ひとつずつ解説していく。
ただし、これはあくまで無数にあるなかの数例であり、全ての人に当てはまるわけではないことを留意したい。また、ひとつではなく複数の要因が絡み合う場合もある。もしこの記事を読んでいて自らに当てはまると思う人がいるならば、他者や自分を傷つけるのではなく、自分の生きづらさの改善に役立てて欲しい。
1. 認知の効率化
人間の脳は、膨大な情報を効率よく処理するために「単純化」する傾向がある。これを利用したものがテンプレであり、他者を簡単なカテゴリーに分類するのが偏見の正体だ。
脳は複雑な現実を把握するのが難しく、また理解できない状況に対してはストレスを抱える性質がある。そうなれば必然的に断片的な情報に基づいて他人を「○○な人」と決めつけることで安心感を得ようとする。
2. 自己防衛メカニズム
他者にレッテルを貼ることで、自分の不安や劣等感から目をそらし、自分を守ろうとする心理的な防衛反応が働く場合がある。
つまり、内面では自分の能力に自信がないために他人を「自分より劣る存在」と見なすことで、自己評価を保ち安心しようとしているのである。
3. 社会的比較による優越感
他人と自分を比較して相手をネガティブに評価することで、自分が優位に立っていると感じたいという欲求が背景にあることもある。
人は社会を営む生物であるため、本能的に自己の価値を他者との比較で確認する傾向がある。この本能が相手を下げることで自分を高めようとする行動を引き起こすことがある。
4. 集団心理と偏見
上記で述べたように人は社会を営む生物であるため、集団に属することで安心感を得る本能もある。そのため、集団の外にいる人を異質あるいは異常な存在として「他者化」し、ネガティブなレッテルを貼る傾向がある。
つまり、他者を単純化することで、自分の所属する集団の価値観や安全性を守ろうとしており、それが排他的な態度に繋がる。
5. 感情の投影
自分の内面にある不安や怒りや恐れを他人に投影することで、自分の感情と向き合わずに済むようにする心理的な仕組みが人間にはある。
レッテル貼りは、自分の内面的な問題を他人に投影し、責任を転嫁する手段のひとつだ。
例えば「あの人は神経質すぎる」と言うことによって、本人は自分自身こそが不安定で神経質である事実から目を逸らし否定することが出来るのである。
6. 無知や固定観念
レッテル貼りの背景には、レッテル貼りをした本人が他者への理解不足や偏った価値観を抱えている場合がある。すでに述べたように、人間は未知のものに対して不安を抱くため、実際は複雑なものを簡単な言葉やカテゴリーで説明しようとする。これには無知が関わっており、加えて中途半端な知識が固定観念を強固にしてしまう。
7. 責任回避の心理
他者にレッテルを貼ることで、複雑な問題を単純化し、責任を回避しようとする心理もある。これは、特に対人関係のトラブルで顕著に表れることだろう。問題の原因を相手に押し付けることで、自分の責任を軽減できるからだ。
「あの人が精神的におかしいから問題が起きた」と決めつければ、相手だけではなく自分にも改善すべき点があるという目を逸らしたい事実から逃げることが出来る上に、状況を深く考えずに片付けられる。
8. 権威主義的な傾向
一部の人は、自分の立場や権力を保つために他者にレッテルを貼り、コントロールしようとすることがある。相手を劣った人間、自分を優れた人間と位置付けることで他者をコントロールしようとしているのだ。上下関係を強調する文化や職場環境で特に多く見られるが、日本は文化的にそうなりやすいので注意が必要だろう。
結論
以上はあくまでも数例であり、全てではない。また、人が他者に安易にレッテルを貼るのは、脳の効率化の仕組み、心理的な防衛本能、社会的な影響など、複合的な要因による可能性も高い。
しかし、何よりも大切なことは、この行為は一時的な安心感や自己優越感を得る効果があるだけで、長期的には問題を改善できるどころかむしろ悪化する可能性が大いにあり、レッテル貼りをする当人の人間関係や社会全体に悪影響を及ぼすだろうということだ。
レッテル貼りを防ぐには、他者を一面的に見るのではなく時間をかけて多面的に理解しようとする姿勢が重要だろう。また、自分自身の内面と向き合い、他者との比較ではなく、自己成長を目指すことも改善に役立つのではないだろうか。