学生時代の苦い思い出
女子校に通っていた私は、1学年の時にできたハズレものの友人以外に、親しい人はいなかった。お互い声をかけられず残ってしまった者同士であるから、まるで傷の舐め合いのように必然と一緒になった。疎遠になった今、それも友人といえるかどうかわからない。
私はクラスでは、いてもいなくても分からないような、影のような存在だった。
2学年に上がった時、クラスの中で、一際背の高い女の子がいた。
彼女は、すらりとした綺麗な手足に、均整のとれた胴体、バランスのいい小さな頭に、少しふっくらしている頬をボブの髪で程よく隠し、小口で、ぱっちりした離れ目の、くぐもった声が特徴の子だった。
全く関わりはなく、話したこともなかったが、私から見て彼女は、少しシャイで、それなりに自己顕示欲もあって、独りになるのが怖く、同性の友人によくくっついてはスキンシップをとる、そんな年相応の女の子だったと思う。
そんな彼女と、私はまるで対照的だった。
学園祭か体育祭か、はっきり覚えていないが、時間になるまで教室で数人が待っている、そんな状況の中で、友人がいなかった私は、クラスに話す相手もおらず、一番前にある自分の席に座り、まるで授業中の板書をしている時のように、何も書かれていない黒板を熱心に見つめていた。
その後ろの席で、あの子は友人と会話をしていた。
その会話は、現在の年上の彼氏と付き合っており、先日初めてラブホに行き、初めて性行為をしたが、自身の様子の変化に敏感な母親が、部屋を物色したことで、ラブホの領収書が見つかりバレた、というような内容だった。
その日、教室で誰とも話さず、ひとりぼっちでいることの恥ずかしさと気まずさ、それらを自分自身からも隠すように、私は後ろの先にいるあの子の会話を何気なく盗み聞きすることに没頭した。
そんな彼女と私の唯一のかかわりは以下のようなものである。
ある朝、これから始まる憂鬱な1日を考えて、落ちていく気分の中、下を向いて、2階にある教室に向かう為、階段を登っていた。
頭上からは聞いたことがある、くぐもったあの声がした。私はふと頭を上げた。彼女は、仲の良い友人と登校してきたらしい。自分の長い前髪は、彼女と目があったかどうかもわからない。
私を見たであろう、彼女が小さい声で一言。
「なに、あの髪。」
それが彼女が私を認識した瞬間であった。
遠回しな言葉で、容姿を馬鹿された私は、顔を上げられなかった。聞こえないふりをするのに精一杯であった。下を向いて、右足左足とブリキ人形のように機械的に階段を登ることに専念しながら、「自分の髪型はそんなに変だろうか?」と今朝洗面所で見た自分の姿を客観的に思い出す、そんな想像で頭をいっぱいにした。
彼女の友人の顔を私は見ていないが、その友人は何も答えず、私本人を前にする悪口に、なんだか気まずそうな雰囲気を醸し出していた。
今でも、ふとした瞬間に、一度も話したことのない彼女の声が蘇る。
ヒヤッと広がる胸の冷たさを、私はこれまで何度経験しただろう。
こうして学生時代の記憶を遡れば、子どもの残酷なカーストの中、自分が底辺であるという現実に、さりげなく目を逸らし続けていたと、自覚する。
私は今も相手にされないんだろうか。