【電力小説第2章1話】初日の緊張
第2章 第1話「初日の緊張」
入社式の朝
本店の大会議室は、新入社員たちで埋め尽くされていた。スズは、壁際の席に座りながら、静かな緊張感に包まれる大きな会場を見渡していた。総勢200名の同期――その数に、スズは圧倒されると同時に、自分もこの一員として認められたことを改めて実感した。
「静かにお願いします!」
スーツ姿の係員が壇上に立ち、マイクに声を乗せる。会場が一瞬で静まり返る。
続いて登壇した社長が、堂々とした姿勢で挨拶を始めた。
「皆さん、本日から私たちの一員として新たな一歩を踏み出すことになります。電力の安定供給は、地域社会の発展に欠かせません。私たちは技術をもって地域と共に歩み、人々の生活を支える責任を負っています。ここでの学びを通じ、その使命を担う技術者となってください。」
スズは「地域と共に発展」という言葉を心に刻む。自分が技術者としてどのように役に立てるのか、その重みを改めて考えさせられる言葉だった。
新入社員代表の挨拶
「それでは、新入社員代表より挨拶をお願いします。」
司会者の言葉に続き、壇上に立ったのはスーツ姿の風間 廉だった。新入社員の中でも際立つその堂々とした姿に、会場が注目する。
「新入社員代表の風間です。」
風間の声はよく通り、静まり返った会場全体に響いた。
「私たちは技術を通じて社会に貢献し、未来を創造する責任があります。研修で多くを学び、この会社の一員として成長していきたいと思います。」
スズはその力強い言葉に感心すると同時に、「この人、すごいな……」と改めて思った。
後ろの方から軽く拍手をしながら聞こえてきた声に、スズは思わず振り向いた。
「廉くん、ええこと言うなあ。でも、すごすぎてプレッシャーやわ!」
話しているのは、にこやかな表情の曽根 圭介だ。曽根の軽いトーンに、スズは小さく笑いながら「面白い人だな」と感じた。
研修所への移動
入社式が終わると、新人たちはバスに分乗して研修所へ向かった。スズは自分が乗るバスの後方席に腰を下ろす。隣には、さっき挨拶をした風間が座っていた。
「佐藤さん、よろしくね。」
風間が優しく話しかける。スズは少し緊張しながらも、「こちらこそ、よろしくお願いします」と返した。
その前の席では、曽根 が楽しそうに話している。「うちの家、変電所のすぐ近くなんよ。電気って地元の生活に直結してるから大事やんな。」
曽根の言葉に、スズは「確かに、電気ってすごく身近なものなんだな」と改めて思った。
曽根が振り返り、「スズさんも電気に興味津々やろ?なら研修、楽しみやな!」と笑顔を見せる。その明るさに、スズは少し安心感を覚えた。
研修所での始まり
山あいにある研修所は、コンクリートの建物が立ち並び、実用的な雰囲気だった。到着するとすぐにオリエンテーションが始まる。
講師陣が前に立ち、一人ずつ自己紹介を始めた。
最初に話したのは、真面目そうな顔つきの稲原 澄道(発電所担当)。
「皆さん、こんにちは。私は稲原です。ここでは主に発電所の設備や技術について教えます。電力の基礎をここで学び、現場でしっかり応用してください。」
稲原の堅実な語り口に、スズは「きっとこの人、厳しいけど頼りになるんだろうな」と感じた。
続いて話したのは、明るい笑顔の鳴海 岳志(変電所担当)。
「みんな、鳴海やで!変電所のこと、楽しく学んでいこうな。あと、同期との関係は一生もんや。これから頑張ろな!」
その軽快な語り口に、教室全体が少し和む。
最後に、威厳たっぷりの海道 龍臣(系統担当)が前に出た。
「私は海道だ。電力の安定供給を支える系統運用について教える。この仕事は大きな責任を伴うが、それを支える知識と技術をここで身につけてもらう。」
その力強い声に、スズは自然と背筋を伸ばした。
マナー研修と夜の雑談
午後からの研修は、名刺交換などのマナー講習だった。スズは慣れない動作に四苦八苦していた。
「次、佐藤さん!」
マナー講師に促され、スズは曽根とペアを組む。名刺を渡す手が震え、渡し方が少しぎこちない。
「スズさん、もう一回やってみよう!」
曽根が明るい声でフォローし、周囲からも笑い声が漏れる。スズは恥ずかしさを感じつつも、少し気持ちが楽になった。
夜、寮の部屋で同期たちと軽く雑談する時間があった。
風間が「最初は覚えることだらけだけど、きっと役に立つよ。」と語ると、曽根が「俺、座学より体動かす方が得意やわ」と笑い、場が和む。
スズも「私も実践的な方が楽しみ」と話し、一同が頷いた。