たまには、ちょっと怖い話でも
夜が深くなると、街の明かりも薄くなり、あたりは静まり返ってきます。その静けさが逆に怖さを引き立て、普段なら気にも留めないことが気になり始めることもあります。今回は、そんな静かな夜にふと耳にした話をお届けします。これは、ある小さな町で実際に起こった話だと言われています。
1. 消えた少女
その町は、山間部にある小さな村で、近隣の街から車で1時間ほど離れたところに位置していました。村には人口が少なく、住民同士はみな顔見知りで、穏やかな日常が流れていました。しかし、そんな日常に突如として現れた「恐怖」は、ある夜の出来事から始まりました。
それは、夏の終わりのある晩、村に住む小さな少女、由美(ゆみ)ちゃんが突然行方不明になったことから始まりました。由美ちゃんは、両親と一緒に静かな家で暮らしていた、元気でおとなしい性格の女の子でした。だが、その晩、両親が寝静まった後に突然姿を消したのです。
両親は最初、娘が寝ぼけて外に出てしまったのかと考えましたが、家中を探しても見つからず、外にも足跡一つありませんでした。警察に通報し、近所の人たちも総出で捜索を始めましたが、翌日、翌々日が過ぎても、由美ちゃんの姿はどこにも見当たりませんでした。村は不安と恐怖に包まれ、誰もが自分の家を閉ざし、夜は外に出ることを避けるようになりました。
2. 不気味な発見
由美ちゃんが消えてから1週間が過ぎたある日、捜索隊は村外れの森の中で何か異様な物を見つけました。それは、由美ちゃんが最後に着ていたと思われる黄色いワンピースのようなものが、木の枝に引っかかっていたのです。血痕や足跡は見つからず、ただそのワンピースだけが静かに揺れていました。
捜索隊の一人がそれを見つけたとき、不安な気持ちが募り、また不安を感じるような声が立ち始めました。「おかしい」「これじゃ、由美はもしかしたら…」という声が上がりましたが、誰もそれを確かめる勇気はありませんでした。
その夜、村の人々は再び集まり、由美ちゃんの行方について話し合いました。その時、村の老人が静かに口を開きました。「あの森は、昔から不気味な場所だと言われている。何もないはずの場所に人の足音が聞こえることがあるし、あの辺りには知らない者が通り抜けていくとも言われている。」老人の言葉に、みんなが黙り込みました。
その晩、村の中で不思議な現象がいくつか報告されました。家の中で物が勝手に動く音が聞こえたり、窓の外で足音が聞こえたりすることがあったのです。中でも、最も奇妙だったのは、由美ちゃんの母親が「由美の声を聞いた」と言い出したことでした。母親は、夜中にふと目を覚ますと、窓の外から由美の声で呼ばれるような気がして、その声に導かれるように外に出たと言います。しかし、外には何もなく、ただ静かな夜が広がっているだけだったと。
3. 村の伝承
その後、村の中で由美ちゃんの失踪に関する様々な噂が広まりました。ある者は、森の中に住む「もののけ」や「幽霊」の仕業だと言い、またある者は、村の土地にまつわる呪いが関係しているのではないかと話しました。
実は、この村には古くから伝わる言い伝えがありました。それは、村の外れの森には「迷いの森」と呼ばれる場所があるというもので、そこには一度足を踏み入れた者が帰ってこないという話が語り継がれていました。迷いの森に足を踏み入れると、道に迷うだけでなく、帰れなくなるだけでなく、時には無理矢理森に引き込まれてしまうというのです。村の若者たちが遊び半分でその森に足を踏み入れたこともありましたが、誰一人としてその後無事に戻ってきた者はいなかったと言われています。
「迷いの森」とは、村人たちが自然の神々に捧げる儀式を行う場所でもあり、失われた者がその地で神に捧げられたとも言われていたのです。この伝説を信じるか信じないかは、人それぞれでしたが、村の人々の間では、由美ちゃんの失踪はこの伝説と何か関係があるのではないかと噂されるようになりました。
4. 失われた記憶
その後、数週間が過ぎ、村の人々はほとんど希望を失いかけていました。由美ちゃんが戻ることはないだろう、もうどこにもいないのだろうと思っていたのです。しかし、事件から1ヶ月が経ったある日、由美ちゃんの父親が村の外れの森で奇妙なものを発見しました。
それは、由美ちゃんが失踪してから一度も出てこなかった、「由美ちゃんの足跡」が森の中に残されていたのです。足跡は、まるで無理に引き寄せられたかのように、森の深部へと続いていました。その足跡を辿ると、突如としてその跡が消えてしまっていたのです。
父親はその場で声を上げ、「由美が帰ってきた!」と叫びましたが、周囲の人々はそれを信じることができませんでした。足跡が消えたその場所には、また違ったものがありました。それは、由美ちゃんがかつて愛用していた人形が、静かに草むらの中に置かれていたのです。
その後、由美ちゃんの姿は二度と見つかりませんでした。そして、村の人々は、この出来事を今でも「迷いの森の呪い」と呼び、決してその森に近づこうとはしません。
5. 最後の言葉
数年後、村には静けさが戻りましたが、由美ちゃんの失踪事件は村の中で語り継がれ、いまだにその場所には近づく者は少ないと言います。そして、最も奇妙なのは、村の老人が語った最後の一言でした。
「もしあの森に足を踏み入れたら、戻ってこられないだけでなく、失われた者たちの魂が引き寄せられてしまう。気をつけなさい。」
その言葉が、今でも村の人々の心に重くのしかかっています。
この話は、ただの伝説ではなく、いまだにその村を訪れた者に語り継がれている、少し怖い現実の話です。どんなに科学が進んだ現代でも、自然には未だに解明できない力が働いているのかもしれません。