台湾積体電路製造(TSMC)、ファーウェイ製プロセッサーに搭載されたチップ発見で中国企業への出荷を一時停止

こんにちは
今回の記事はTSMCのとある件についてまとめました。



はじめに

2024年10月、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(以下、TSMC)が製造したチップがファーウェイのAIプロセッサー「Ascend 910B」に搭載されていることが明らかになり、大きな波紋を呼びました。ファーウェイは、アメリカ政府の輸出規制によりTSMC製チップの使用が制限されているため、どのような経緯でこのチップがファーウェイ製品に搭載されたのかは不明です。この事態を受け、TSMCはファーウェイと関係があると見られた中国のチップ設計会社ソフゴ(Sophgo)への出荷を一時停止しました。

この記事では、TSMCのチップがどのようにしてファーウェイのプロセッサに搭載されたのか、その背景にある米国の輸出規制、ソフゴとビットメインの関係について、そしてこの事件が示す半導体市場の競争と規制の問題について詳細に解説します。

問題の発端とTSMCの対応

ファーウェイ製品にTSMCのチップが搭載されていた事実

今回の問題の発端は、技術調査会社TechInsightsがファーウェイのAIプロセッサ「Ascend 910B」を分解した際に、TSMC製のチップが搭載されていることを発見したことです。この事実が明るみに出たのは、アメリカのニュースメディアであるロイターが、情報筋からの報告を基に報じたことによります。TSMCはすぐに台湾およびアメリカの当局にこの事実を通知し、詳細な調査を開始しました。

TSMCはこれに関してコメントを控えていますが、2020年9月中旬以降、ファーウェイに製品を供給していないと明言しています。ファーウェイも、アメリカの新たな輸出規制に基づき、TSMC経由でチップを製造していないと主張しています。しかし、TechInsightsの調査結果はこれに反し、TSMC製のチップがどのような経緯でファーウェイ製品に搭載されたのかは明確ではありません。

TSMCの対応と出荷停止

問題が発覚した後、TSMCはすぐに調査を進め、ソフゴへの出荷を一時停止するという措置を取りました。ソフゴは、問題のチップをTSMCに発注していたとされ、TSMCはこれがファーウェイに流れた可能性を懸念しての対応と見られます。ソフゴはファーウェイとは関係がないと主張し、すべての法律を遵守していると声明を発表しています。また、TSMCには詳細な調査報告書を提出し、自社がファーウェイとは無関係であることを示す証拠を提供しました。

米国の輸出規制とファーウェイの対応

米国の厳格な輸出規制

今回の事件の背景には、米国の輸出規制が存在します。2020年、米国はファーウェイに対する制裁を強化し、TSMCを含む米国の技術が関与する製品をファーウェイに供給することを厳しく制限しました。この措置は、アメリカの国家安全保障を守るために行われたもので、TSMC製のチップはこの規制の対象となっています。

このため、TSMCは2020年以降、公式にはファーウェイとの取引を停止しており、アメリカ当局とも緊密に連携してきました。TSMCの声明によれば、アメリカの商務省とも「積極的に連絡を取っている」とのことです。

ファーウェイの対応と声明

ファーウェイは、2020年以降、TSMCを経由してのチップ供給は行っていないと公式に述べています。同社は米国の規制強化後、独自の技術開発に注力しており、海外のサプライチェーンへの依存を減らす努力を続けてきました。しかし、今回の事件により、ファーウェイの供給網の透明性と米国の制裁を回避する手段について疑問が生じています。

ソフゴとビットメインの関係

ソフゴの立場とビットメインとの連携

ソフゴは、暗号通貨マイニング機器を手がけるビットメインとの密接な関係を持っています。台湾の民主社会緊急技術研究院(DSET)のレポートによれば、ソフゴはビットメインの関連会社であり、共同設立者のマイクリー・ザンによって設立されました。また、ソフゴはビットメインの電子メールアドレスを使用して、米国連邦通信委員会と連絡を取ったことも確認されています。

この関係から、ソフゴがファーウェイに関連する可能性があるとの見方が出ており、TSMCが慎重な調査を進める理由となっています。

台湾当局によるビットメインの取り締まり

台湾では、ビットメインに関連する企業が台湾の半導体技術を不正に取得しようとしたとして、複数の取り締まりが行われました。2021年には、ビットメインの関連会社が違法なリクルート活動を行い、台湾人エンジニアを不正に雇用していたとして、台湾の検察当局が家宅捜索を実施しました。この事件により、ビットメイン関連の企業は罰金を科され、ソフゴとの関連性が再び注目されることとなりました。

今回の事件が示す半導体市場の課題

半導体供給網の透明性とリスク管理

今回の事件は、半導体供給網の透明性とリスク管理の重要性を浮き彫りにしました。TSMCは世界最大の契約チップメーカーであり、その製品は多くの先端技術に利用されています。しかし、供給網が複雑化する中で、製品がどのように最終製品に組み込まれるかを完全に把握することは困難です。

今回のような問題が再発するリスクを減らすためには、サプライチェーン全体の透明性を高める取り組みが求められています。特に、米国のような技術輸出規制を受ける国々では、規制を遵守するためのシステムや監視体制の強化が不可欠です。

米中技術競争の激化とその影響

今回の事件は、米中間の技術競争の激化を象徴しています。アメリカは、ファーウェイを含む中国企業が先端技術を取得することを防ぐため、輸出規制を強化してきました。一方で、中国は国内での技術自立を目指し、AIや半導体分野での投資を強化しています。

ファーウェイは、過去にはTSMCを主要なチップサプライヤーとして利用していましたが、米国の制裁強化により、自社開発の技術や中国国内のサプライヤーにシフトする努力を続けています。これにより、米中間の技術的な断絶が進み、半導体市場の競争がますます激化する可能性があります。

まとめ

今回のTSMCとファーウェイ、そしてソフゴを巡る事件は、米中技術競争とその中での規制の厳格化が半導体市場に与える影響を如実に示しています。半導体供給網の透明性、リスク管理の重要性、そして米中間の技術的断絶の進行という問題が浮き彫りになりました。

今後、TSMCがどのような調査結果を出すか、またファーウェイがどのようにして技術規制を回避するかが注目されます。同時に、この事件は、今後の半導体市場の動向や国際的な技術競争の行方を占う重要な出来事となるでしょう。


最後まで閲覧いただきありがとうございました。

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