隣にいるルーマニア人の高校生エレナ

タイトル:涙の選択


第一章:運命の告白

冬の夜、街灯の淡い光が二人の影を伸ばしていた。自衛隊員の拓真(たくま)は、隣にいるルーマニア人の高校生エレナの震える手を握った。

「本当に…?」

エレナは涙を浮かべながら、震える声で言った。

「うん。妊娠してるよ…」

拓真は深く息を吸い、目を閉じた。そして、そっとエレナの頬に手を添えた。

「…嬉しいよ。」

エレナの目が揺れた。

「でも…」

彼女は自分の手を握りしめた。

「あなたの家族は…きっと…私を受け入れないわ。」

それは二人が最も恐れていたことだった。エレナはロシアと同じ正教を信じるルーマニア出身だった。日本とロシアの間に横たわる歴史の影、そして自衛隊という特殊な環境。

拓真の家族、特に母は、彼が隊員としての将来を築くことを何よりも願っていた。そして、今の国際情勢を考えれば、ロシアと同じ宗教を持つ女性との子どもが、自衛隊内部でどう見られるか…それは容易に想像がついた。

「大丈夫。俺が守るから。」

拓真は強くエレナを抱きしめた。

しかし、それがどれほど困難な約束か、彼自身もまだ理解していなかった。


第二章:母の涙

数日後、拓真は母親にエレナの妊娠を打ち明けた。

母親は一瞬、時が止まったかのように息をのんだ。そして、ゆっくりと拓真を見つめた。

「…ルーマニアの子なの?」

「そうだよ。でも国は関係ない。俺はエレナを愛してるし、子どもも大切にしたい。」

母は震える手で湯呑みを握りしめた。

「拓真、あなたの気持ちは分かる。でも、現実を見なさい。」

「現実?」

「あなたは自衛隊員なのよ。あなたの立場を考えなさい。ロシアと同じ宗教の子どもがいると知られたら…あなたのキャリアにどれほどの影響があるか、分かってるの?」

拓真は拳を握った。

「俺はそんなことで自分の子どもを見捨てるような男じゃない!」

「そんなこと、私だって思いたくない…」

母は涙をこぼした。

「でも、あなたの未来を考えたら…あなたの家族を考えたら…どうすればいいの?」

拓真は何も言えなかった。

母は、息を詰まらせながら、静かに言った。

「…堕ろしなさい。」

その瞬間、心臓を素手でえぐられたような気がした。

「お母さん…」

「ごめんなさい。でも、これがあなたのためなの。」

母の涙は止まらなかった。

拓真は、拳を強く握りしめたまま、ただ立ち尽くしていた。


第三章:決断の夜

その夜、拓真はエレナと公園のベンチに座っていた。

エレナはすべてを悟ったように、静かに問いかけた。

「…やっぱり、ダメだったのね。」

拓真は唇を噛みしめた。

「…ごめん。」

エレナは、そっとお腹に手を当てた。

「…私は、産みたい。でも…」

彼女の目から、涙が一筋流れた。

「あなたを苦しめることも、怖いの。」

拓真はエレナの肩を抱いた。

「俺は…どうすればよかったんだろうな…」

答えは出なかった。出せなかった。

ただ、二人は泣きながら、お互いの体温を確かめ合っていた。


第四章:病院の朝

堕胎の日。朝の病院は白く静かだった。

エレナは病室のベッドに座り、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

「…こんな日が来るなんて、思わなかった。」

拓真は、彼女の手を強く握りしめた。

「俺が悪いんだ…守れなかった。」

エレナは首を振った。

「あなたは悪くない。でも…」

彼女は、お腹をさすりながら、震える声で囁いた。

「…私たちの子、ごめんね…」

ドアが開き、看護師が入ってきた。

「準備ができました。」

エレナは、ゆっくりとベッドから立ち上がった。

拓真は、何も言えずにただ彼女の手を握り続けた。


第五章:静寂の帰り道

手術は終わった。

エレナは、病院の出口で立ち止まり、拓真の腕に寄りかかった。

「…寒いね。」

拓真は、自分のジャケットをエレナにかけた。

「…帰ろう。」

エレナは何も言わずに、ただ拓真の手を握り返した。

二人の目には、もう涙は残っていなかった。


第六章:母の本音

その夜、拓真は母と向かい合った。

母は、震える手で湯呑みを握りしめながら、小さく呟いた。

「本当は…産んでほしかった。」

拓真は、目を見開いた。

「お母さん…?」

「でも、あなたの未来を考えたら…仕方なかったのよ…」

母は、堪えきれずに涙を流した。

拓真もまた、涙をこぼした。

「俺は…本当にこれでよかったのかな…」

母は何も言えなかった。ただ、泣きながら拓真の手を握りしめるだけだった。

部屋の中は、ただ静かだった。

失われた命のために、二人は泣いた。

それでも、時間は進んでいく。

もう戻ることはできないのだから。


この物語は、愛と現実の間で引き裂かれる二人の姿を描いています。追加や修正の希望があれば教えてください。

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