日本人の祖父とウクライナ人の祖母とクロアチア人の母を持つasdのクォーターの公立認定こども園の保育教諭の新人の先生が、うつ病になり、また公立認定こども園にもどることを目指して、b型授産のパン屋さんを利用者として働くことをする
物語：「焼きたての未来」
プロローグ
カレン・ミハイロビッチは25歳のクォーター。日本人の祖父、ウクライナ人の祖母、クロアチア人の母を持つ彼女は、公立認定こども園で新人の保育教諭として働いていた。多文化的なルーツとASD（自閉スペクトラム症）の特性を持つ彼女は、子どもたちの個性を尊重しながら、未来を支える仕事に情熱を注いでいた。
しかし、慣れない環境での多忙な日々や、予想外のトラブル対応に追われるうちに、心がすり減り、次第に体調を崩してしまった。やがて、うつ病と診断されたカレンは一度職場を離れる決断をする。
「もう一度、子どもたちの笑顔に向き合いたい」。その思いを胸に、カレンは復職に向けた第一歩として、リワーク活動の一環でB型授産施設のパン屋さんを利用することになった。
授産施設でのスタート
カレンが通うことになったのは、地域に根差した小さなパン屋さん。ここでは、障がいや特性を持つ利用者たちが、それぞれのペースでパンを作り、焼き、販売する仕事に取り組んでいた。
「パン作りなんて初めてだけど、大丈夫かな……」。
最初は不安だらけだったカレンだったが、スタッフや仲間たちが優しく教えてくれたおかげで、少しずつ作業に慣れていった。パン生地をこねる感触や、焼き上がったパンの香ばしい匂いが、彼女の心を少しずつ癒してくれた。
パン作りの中での気づき
ある日、カレンはふと、保育の仕事とパン作りに共通点があることに気づいた。
「子どもたちも、パン生地と同じかもしれない。焦らず、じっくり待つことで成長していくんだ」。
かつて認定こども園で働いていた頃、カレンは「もっと早く成長させなきゃ」「ちゃんと対応しなきゃ」と自分を追い詰めていた。しかし、パン作りでは、発酵や焼き上がりを待つことが何より重要だ。それを学んだことで、カレンは子どもたちとの向き合い方も改めて考えるようになった。
仲間との交流
授産施設では、カレンと同じように特性や悩みを抱える仲間たちが働いていた。ある日、仲間の一人であるミナミが、カレンに聞いた。
「カレンさん、どうしてここに来たの？」
カレンは少し戸惑いながらも、自分が保育教諭だったこと、ASDの特性やうつ病に苦しみながらも、復職を目指していることを話した。
「子どもたちと過ごすのは楽しかった。でも、忙しすぎて、自分が壊れそうになっちゃったんだ」。
その話を聞いていたミナミは、「でも、また保育の仕事をしたいと思ってるんだね」と微笑みながら言った。
「うん、子どもたちが大好きだから。でも、もっと自分に合った働き方を見つけたいんだ」。
その言葉に、ミナミや他の仲間たちは「応援するよ」と優しく声をかけてくれた。
焼きたてのパンと、再び目指す未来
ある日、カレンが焼き上げたパンが地域イベントで販売されることになった。イベント当日、偶然にも認定こども園の元同僚や、かつての園児たちがパンを買いに来てくれた。
「カレン先生！」
久しぶりに聞いた子どもたちの声と笑顔に、カレンの胸はじんわりと温かくなった。
元同僚たちも、カレンの近況を聞き、「また一緒に働けるといいね」と励ましてくれた。その言葉に背中を押されたカレンは、復職に向けた意欲をさらに強くした。
エピローグ
パン作りを通じて、カレンは「焦らず、じっくりと自分のペースで進むこと」の大切さを学んだ。授産施設の仲間たちやスタッフの支えを受けながら、彼女は再び認定こども園の職場に戻る準備を始めている。
「子どもたちと一緒に笑顔になれる未来を、もう一度築きたい」。
焼きたてのパンの香りに包まれながら、カレンは静かにそう誓った。