あの人が居た日の日常

ねえ、あなたの居る朝はもう来ないの。

朝、窓の辺りに光が差して、布団に潜り込む。無意識に耳を塞ぐ。父の怒鳴り声だ。階段を登る父の足音がズシ、ズシ、と近づいてくるのがわかる。
そこで目を覚ました 朝 という情報が頭に追いついてなんとか自覚する。
おはよう。今日も起きてしまった。憂鬱でもなければ屈託でもない、只只 連続殺人事件 の様な一日が始まる。
あー、頭が痛い。耳鳴りがする。
昨日、小説とヘッドホンから聞こえる最大音量の音楽で夜に耽っていた。そのまま寝落ちてしまっていた。そしてそれに気づくと同時に父の足音が止み、私は一瞬で焦燥感に溺れてしまう。
ああ、あの人だ。あの人がもう、来てしまったんだ。
父がバタバタと物音を立てながら部屋に入ってくる。僕はただ、泣き出しそうになる。
「パパおはよう〜。私もう起きてたよ〜。考え事してたや。」
父はえらいじゃんと言わんばかりの満足顔をして部屋から出て行く。
これだけ見れば、行動が大袈裟な父と話が大袈裟な娘に見えるだろう。
父は悪くないのがわかってしまって僕、今書いてて痛感してます笑

衣服を着て、鞄を持って、ハねた寝癖をクシでむりやり梳かして僕までバタバタと急ぎながらリビングへ降りて行く。
朝食だ。ああ、父の顔色を伺う時間がまた始まる。
わざとらしく、朝食に顔を近づけてクンクンと匂いを嗅いで、
「おいしい!」
だなんて冗談を言ってみる。
そうでしょと言う父は何もわかってない。
父は外国人なのでまともな日本食は作れないので、自己流のカレーを振舞ってくれる。
色はまさに深い緑と言えばこの色だろうと言う色。じゃがいもはどろどろで、ナスの皮が米に染みついて、お世辞でも美味しそうなんて言うのは情けない。
ただ、口に運ぶ。運ぶ。運ぶ。
生臭い。
木の実や果実も入っていた。レーズンだけならまだいい。他のなにやら見てもわからない果実が入っていて、ただ、虚無になりそうな私。
インフルエンザになった時健康な人は刺身を食べると言われ刺身を口に突っ込まれた時のことを思い出す。
「おしっこ!」
私は年にも不甲斐なさを感じながらそんな言葉を吐いてトイレへ駆け込む。
私が居なくなった瞬間黙っていた母と父の言い争いが始まる。
母はきっと何か言いたげな顔を終始していたので私のことを気にかけたことを言っただろう。
父はそれに対して母をバカにするような口調で大きな口を叩く。
いつもこうだ。私がいなくなると、必ず皆素になっては争い合う。
母はいつも言っていた。「あなたは誰よりも純粋で自然に生きているわ」
父はいつも言っていた。「お前しかわかってくれる子はいないよ」

ああ、吐き戻すなんて。私には出来なかった。

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