神域リーグに学ぶ麻雀 No.03【タンヤオを付けることの価値(手組編1/鈴木勝)】
【0.はじめに】
・本シリーズは,神域リーグの牌譜を題材として,一般的な麻雀戦術を抽出することを目的としています.天鳳プレイヤーののみや・美馬さん(私の雀力を高めてくれた命の恩人です.以下ではMさんと表記します)の意見をベースとした構成になっています.
・選手の打牌を批判する意図は全くありません.麻雀の選択には必ずメリットとデメリットがあるため,選手の選択も尊重しつつ,あくまで一般的なケースでの最適戦術を導き出すことを意図しています.
・各選手の意志の籠った打牌が織りなす牌譜から,何か私たちの麻雀上達に生かせることがあったら嬉しいという気持ちで書いています.
【1.題材となる神域リーグの場面】
今回は,自分が麻雀を勉強している際に気付いた「なるべくタンヤオが付く方の打牌を選択する」という戦術について,鈴木勝の手牌を題材にまとめてみたいと思います.
神域リーグ第3節・第11試合,チームアトラス・鈴木勝の視点です.南場の親番でチャンス配牌が来ました.この巡目にして早くもイーシャンテン.
勝くんは「良すぎてどうするか悩んじゃう.でもこうするのがいいと思うんだよな」と言いながら打9m.タンヤオを意識した素直でとてもよい打牌だと思います.
しかし,他にも選択肢が考えられます.それはリャンメンターツの23p(あるいは67s)落とし.
3456789mという7連形は「369m」という三面受けであり,リャンメンから埋まれば三面張の強いリーチが打てます.
ここでチームアトラスの授業参観応援配信の様子を見てみたいと思います.
ずんたん「あ~~むずい~~~」
もこ 「あんまり悩ませないで~~」
メイカ 「んー,9m!タンニャオ!w」
もこ 「これって9mがいいんですか?私わかんない」
ずんたん「正直マジョリティは9mだけど,即リーしたい人は(369mの三面張を見据えて)9mじゃないのよ」
もこ 「即リーしたい人はどっかの両面ターツを落とすのかな?」
メイカ 「(9mを切って)1pとか引いてきてもしょうもないしな」
もこ 「これ9mを切ってもタンヤオ確定じゃないからね」
以上のように,9m切りが素直とはいえ,リャンメンターツ落としにもメリットがあるように思います.
さて,何を切るのが良いでしょうか.
【2.このテーマについて書いた動機】
神域オタクの私は過去シーズン(神域リーグ2022)の動画もよく見返すのですが,とある場面にふと目が留まりました.
自分がこの盤面を見て抱いたのは,「以前と今で切る牌が違うな~」という感想でした(※どちらの打牌がいいとか悪いとかそういうことではありません).
神域リーグ2022をリアタイしていた頃の自分(当時は雀聖1くらいだった)は「打7sとしてイーシャンテンでよくね?その後36sを引いても5200あるからカン5mの即リーでいいじゃん」と思っていました.
松本の7s切りを見た実況席のたかちゃんは「これ9m切りじゃね?後で松本にLINEするわ」とその場で言っていましたが,当時は9m切りの良さが理解できませんでした.
それから1年後.色々勉強して魂天になりましたが,改めてこの場面を見たら「これは9mを切りたいかな」と思いました.
「このまま36sから入ってもどうせテンパイを外して4m6pのタンピンくっつきにするので,ダイレクト5m引きの4枚よりも,5678s引きによる超高打点(タンピン赤ドラ)や可動性(副露・ダマテンも可能になり融通が利くようになる)を見る方が偉いのでは?」という考えです.
この変化は,1年間色々勉強する中で「二択の選択なら,タンヤオが見える方を優先した方が良いことが多いのでは?」ということを認識し始めたために生じたと思います.
この「タンヤオが付くように選ぶ」という戦術は,何切る本の個別の牌姿には現れているものの,基礎的な戦術書ではあまり言語化されていないように思います.
現代麻雀の基本的な手組のセオリーは「最速でリーチを打てるように受け入れ最大に組む」ことに重きを置かれているように思われ,基本的な戦術書や牌効率動画をリピートしているばかりだった以前の自分は「タンヤオが付くように選ぶ」ことの重要性に気付いていませんでした.
そこで,本noteでは「タンヤオが付くように選ぶことの重要性」について,言語化を試みたいと思います.
【3.題材における選択例(Mさんの意見)】
Mさんは次のような見解でした.
自分も打9mとする.タンヤオを付けることの価値は大きい.打23pとした場合,打点が2600止まりになってしまう可能性があり,この配牌からだともったいない.
自分もそう思います.記事の構成的にそんな流れですけどねw
NAGAも以下のような結果でした.全5タイプが打9mをギャン推ししています.
タンヤオを度外視して,牌理(絵合わせ的な効率)で考えた際の比較は次の通り.
打9mは8種28枚の受け入れで,うち4種12枚で良型.残り4種16枚はタンキの仮テン(なお,1pの4枚引き以外は役ありで,字牌単騎やノベタンなどのよい待ちに変化しやすい).
打3pは6種20枚の受け入れで,全て良型(三面張含む)となる.
乱暴に言うと,打9mの際の受け入れは量で,打3pの際の受け入れは質で勝っており,それらが相殺しあって「牌理上は打9mと打3pで受け入れの量・質に大差はない」ということになると思います.
したがって,今回の牌姿での教訓として,「牌理的な受け入れの質・量に大差ないなら,基本はタンヤオが付く方を選ぶのがよい」ということが一般化できるのではないかと思います.
「ドラが多い時はどうするの?」「四面張以上が見込めるときはどうするの?」等という検証はnoteのNo.4(次回)に譲り,別の牌姿に移りたいと思います.
【4. 別の例~1345の1 vs 孤立2~】
通常のケース
次の牌姿は,私が雀傑時代から愛用していた,福地誠著「麻雀 手作りと押し引きの鉄戦術」という本からの引用です.
この問題では,福地さんによって打8pが推奨されていました.また「強者の意見」枠として,ZEROさん(天鳳十段プレイヤー)およびずんたん(村上淳プロ)の意見も載っていましたが,全会一致で8p推奨でした.
その理由は以下の通りだと考えられます.
孤立8pは6789p受け,5679sは4789s受けであり,受け入れの枚数自体はほぼ同じ.以下に受け入れの質を比較する.
(リャンメン) 8pに7pがくっついた場合と,5679sに8sがくっついた場合は,ともにリャンメンになるのでほぼ同価値(若干78pの方が勝る).
(シャンポン) 8pが重なった場合と,5679sの9sが重なった場合は,ともにリャンメンになるのでほぼ同価値(若干56799sの方が勝るので上と相殺).
(ペンチャン・カンチャン)
8pの6p,9p引きはそれぞれ68p,89pになる.前者は5p引きでリャンメン変化するが後者は良い変化がない.
一方5679sの4s,7s引きはそれぞれ56779s,45679sになる.前者は6s引きでリャンメン変化&7s引きで変則三面張.さらに後者は,5s6s引きでリャンメン変化,そして3s引きで三面張になる!おまけに,上述の変化は食い延ばしによっても実現できる(56779から6s,45679sから467sをチーしてリャンメンにできる).
まとめると,孤立8pに比べ,5679sはカンチャンテンパイになった際の質の良さで優位となる.
問題図の時点からでも,5679sからなら478sのチーテンが取れる.孤立8pを用いたチーテンは不可能.
タンヤオが見えるケース
さて,この本をバイブルとして愛用し,打牌の模範としていた私は,Xで友達が「何となく8sを切ったら怒られた~」と言いながらポストした次のようなNAGA解析の画像に疑問を抱きました(確か雀聖2か3くらいの時だったと思う).
NAGAは8sをギャン推し.
当時の私には「タンヤオが強い」という感覚がインストールされていなかったため,「1345の1は孤立8より強いんじゃないの!?」と頭を抱えていました.
この牌図の場合において,1345sの1sと8sを比較してみましょう.
確かに先ほどの例で「カンチャンになる時の形は1345sの方が勝る」と言いました.とはいえ,受け入れの枚数自体はほぼ同じです.さらに今回は1sを使おうとすると鳴けないため,1345sと持っておくことによるチーのメリットが消滅し,受け入れの質の差が縮まっています.
さて,1s残しと8s残しで「牌理的な受け入れの質・量に大差がない」ということが分かりました.それならどうしますか?そう,タンヤオが付く8s残しです.8sを残せば,678sがくっついた時に89pを落とすことでタンヤオに移行できます.
まとめると,タンヤオが絡まない場合,特に副露手の場合は1345の1の方が孤立2より強いですが,タンヤオが絡む場合は逆転する可能性が高いということになります.
【5. 今回のまとめ】
二択の何切る問題において,牌理的な受け入れの質・量に大差がないのであれば,タンヤオが付く方を選ぶのが基本である.タンヤオの1ハンの価値,および鳴く選択肢が生まれることはとても大きい.
【おまけ: 神域オタク文章】
神域リーグ2023のチームアトラスは、いつも見ていてほっこりしますが、そこには勝の存在がとても大きいと思います。
まず勝が神域リーグの中でも稀有なショタ枠であり、また麻雀に関しても先輩のメイカや先生のずんたん・もこに色々教えてもらう後輩のポジションとなっています。そのため、観ている側にも自ずと子どもの運動会を見に来たような感覚で「勝くん頑張れ〜!」と応援したくなるのでしょう。自分がそうだったから多分みんなもそうです()。
麻雀における勝は、たとえ勝っても奢らず、千羽師匠やチームメイトに貪欲に教えを請い、積極的に吸収しようとする姿が素敵です。
自分が印象に残ってるのは第7節のこと。メイカが4着を引いてしまった次の試合で、見事トップを獲得しました。
普通ならドヤ顔で楽屋に帰るところですが、勝は楽屋に帰ると、「或世がちゃんと気付いてたリャンメンカンチャンに僕は気付けなかった!悔しい!!」と一言。
そもそも勝った麻雀でもしっかり見返して反省点を探しているだけでも良いことだし、自分より後に麻雀を始めた或世イヌもしっかり出来ていることが出来なかったという事実を「まあいいや」で済まさず、素直に悔しいと思えるのは中々できないことです。
この向上心が功を奏して、麻雀も徐々に安定感が増していると思います。
麻雀以外でいうと……おねショタのコラボが尊すぎます。勝がただの可愛い中学生男子っていうのに留まらず、ちょっとませていて、もこに性癖を聞いたり、ルイスとかなり踏み込んだことをやったりする辺りが最高にスパイス効いてます。ルイス勝の配信に対して光の雀士らしからぬどす黒い嫉妬を露にする同時視聴の千羽師匠も必見です。
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