神域リーグに学ぶ麻雀 No.04【続・タンヤオを付けることの価値(手組編2/天開司)】
【0.はじめに】
・本シリーズは,神域リーグの牌譜を題材として,一般的な麻雀戦術を抽出することを目的としています.天鳳プレイヤーののみや・美馬さん(私の雀力を高めてくれた命の恩人です.以下ではMさんと表記します)の意見をベースとした構成になっています.
・選手の打牌を批判する意図は全くありません.麻雀の選択には必ずメリットとデメリットがあるため,選手の選択も尊重しつつ,あくまで一般的なケースでの最適戦術を導き出すことを意図しています.
・各選手の意志の籠った打牌が織りなす牌譜から,何か私たちの麻雀上達に生かせることがあったら嬉しいという気持ちで書いています.
【1.題材となる神域リーグの場面】
前回(No.03)では,「なるべくタンヤオが付く方の打牌を選択する」という戦術について,鈴木勝の手牌を題材にまとめました.今回はその続編で,よりタンヤオを見る基準を深掘りしていきたいと思います.
神域リーグFINAL・第2試合,チームグラディウス・天開司の視点です.東1局の起家でいきなりチャンス配牌が来て,早くもイーシャンテン.監督応援配信では,監督たちの何切る討論が行われました.
司は迷いましたが,打8m.3mが入ればピンフ付きのリャンメンテンパイになるので,リーチに適したいい打牌です.
(ただし,打8mと打3pなら打3pの方が勝るでしょう.受け入れ自体は一緒ですが,3pを1枚落とした次の瞬間に4pを引くとタンヤオが付きます.まあ神域FINALの東発に平常心で臨める人なんか地球上にはいないので,こういうのは仕方ないでしょう.)
しかし,ここで打9pという選択も考えられます.
9pは愚形確定となるものの,タンヤオが付きます.前回の「牌理的な受け入れの量・質に大差なければタンヤオを優先」という法則にしたがうなら,打9pとするべきでしょうか?
監督陣もやはり3pと9pで意見が分かれていました.
渋川「何切る?3p切りがいいねぇ.でもちょっと難しいねぇ」
松本「おしゃれな9pいっちゃう?」
たろう「9pいいじゃん」
渋川「9pはちょっとパワー型(※タンヤオを見た打点派)すぎるなぁ」
~司,8mを切る~
渋川「いいよいいよ」
松本「オーソドックス」
【2. 本テーマについて書いた動機】
No. 03の「2. 本テーマについて書いた動機」という項で扱った松本吉弘の牌姿について,もう一度取り上げたいと思います.
多井隆晴は咲乃もこの検討配信において打9mを推奨していました.たかちゃん曰く「僕の故郷の麻雀星では,9mを切る人の方がモテる」ということらしいです.
No. 03の執筆時点では,「たかちゃんがそこまで言うくらいだから9mは選択肢としてアリで,NAGA解析でも多分7sと互角くらいかな~」と思っていました.この牌姿について深く触れるつもりはなかったので,特にNAGA解析はしていませんでした.
ところが,改めてNAGAにかけてみると大差で打7s有利となりました.Mさんも7sを推奨.
そもそも,本noteの他の牌姿ではシャンテン戻しをしていないのに対してこの打9mはシャンテン戻しをしているので,そこの前提もずれているということで,打7sが有利になる理由は本noteでは言及せず,後日出す補足のnoteで説明しようと思います.ともあれ「何でもかんでもタンヤオを狙えばいいとは限らないのでは?」ということが分かると思います.
そこで,本noteでは前回の趣旨を引き継ぎつつ,タンヤオを見るか見ないかのバランスにも触れたいと思います.
【3. 本題に入る前に,題材の牌姿を少し変更させると......】
456sを555sに変えてみる
順番は前後しますが,司の実際の牌姿について考える前に,まず456sを555sに変更した牌姿について考えてみましょう.
選択肢は基本的に3pと9pの2択となるでしょう.
(24mはドラターツなので打点の面から温存したい.打8mは上述の通り打3pの下位互換.)
タンヤオを度外視して普通にリーチ効率で考えると,打9pは愚形確定になってしまう一方で,打3pは3m引きでリャンメンテンパイとなります.それなら良形が大事ということで打3pでしょうか?
ではNAGAの解析を見てみましょう.
解析結果
全タイプが打9pをギャン推しでした.
打3pの方がリャンメンになる可能性はあるものの,受け入れ枚数自体はほとんど一緒であり,また打9pにはポンテンやチーテンを取れるメリットがあるので,結局打3p・9pの「牌理的な受け入れの量・質」はほぼトントンでしょう.
やはりこの牌姿も,「牌理的な受け入れの量・質に大差がない場合は,タンヤオが付く方を選ぶ」という原則に即しているということですね.
また今回の場合,対面が4pを1枚切っているために,リャンメンが残り6枚となっており言うほど強くないという要素もあるでしょう.
【4. 題材における選択例(Mさんの意見)】
Mさんの意見とNAGA解析
Mさんは以下のような意見でした.
タンヤオを見て9pを切りそう.ただし,打3pにもタンヤオ以外の手役が見えるメリットがあるので,9pと3pは微差に思える.
あれ?タンヤオが偉いんじゃないの?微差なの?ということで,NAGAの結果を見てみましょう.
5タイプで意見が割れていました.
オメガ(副露派)は大差9p,ニシキ(スタンダード)はやや9p,ガンマ(守備派),ヒバカリ(面前派),カガシ(超副露派)はやや3pでした.
副露派が打9pなのに超副露派が打3pなのが謎ではありますが,ともあれ打3pと打9pで微差であり,意見が分かれるということが分かりました.
Xでアンケートを取ってみても,やはり意見が分かれています.
555sが456sに変わるだけで何がそんなに違うのでしょうか.
555sの場合に対する,456sの場合の比較
それは以下のような理由によるものだと思います.
3mから入ればやはり良形テンパイだが,ソーズが456sの場合は,555sの場合と異なりピンフが付く.
456sの場合に,3pを切ってから5mないし6mをツモると,456の三色が見える.9pを切ると三色にならない.
(ややマニアック: 出来メンツ2ブロック想定理論)3pを切った場合,456sから2面子ができる可能性がある.下図を参照.
打3pとした後にもう一枚3pを切るので,余剰牌を一枚持つスペースがある.ここに2sから8sのうちのどれかを持つと,その後の良形変化が期待できる.
逆に題材の牌姿で打9pとすると,どの牌も愚形のフォロー牌となっていて切れないゆえ,余剰牌が持てなくなるので,こうした変化は見込めない.
456sが555sだった場合は横伸びが極めて弱いので,打3pとした場合の2面子構想は見込めなくなる.
特にこの「三色」は2翻役なので重要なファクターだと思います.
実際に,何切る問題でも「三色」「イッツー」などが理由でタンヤオにしない打牌が正解となるケースはたびたび見かけます.
手役が影響して,タンヤオ確定の打牌が不利になるケース
① : アプリ「麻雀 一択何切る」に収録されている牌姿です.(画像はMさんにお借りしました)
アプリの答えはドラ2を確定させてタンヤオも残す打3sですが,NAGAは(ニシキの場合は微差で,カガシの場合は中差で)打3p推奨.タンヤオを否定した打牌ですが,一盃口や三色という手役が見えるメリットがあります.
②:Mさんが実戦で遭遇した牌姿です.
NAGAは全タイプが6sを推奨.逆に,「とりあえずタンヤオを見る」という打1mが全タイプで非推奨となっています.
マンズのイッツーが見える.(あまり判断に関係はないかもしれないが,9mの場況が良好.)
223sというターツがあり,タンヤオが非確定(まだシャンテン数が遠いので,今から1mを切ってもタンヤオにならないケースが多い).
孤立6sは57s以外がくっつくと単なる愚形になるが,1234678mは連続しているので発展性に富む(牌理的な受け入れの質で,打6sの方が勝る).
というものによるでしょう.
【5. 別の例~鈴木勝の手牌をちょっと変えるとどうなるか?~】
牌図を変えてみる
前回の鈴木勝の手牌を色々変えて検証してみました.
【①について】
実戦の牌図そのままに,5mを赤5mに変更.つまりドラ1からドラ2となっている.
【②③について】
5556789mという連続形を設置.
打9mとするとヘッドレスとなる.実戦の牌図では単騎テンパイになる可能性があったが,この牌図では5m暗刻があるため必ず良形テンパイになる.この要素は打9m有利な方向に働くと思われる.
打3p(or 2p or 6s or 7s)とすると,5556789mの形が残る.以下の要素は打3p(以下略)有利な方向に働くと思われる.
もう片方のリャンメンが埋まった際に,最終形が5556789mとなり,4679m待ちという四面張のリーチが打てる.
この多面受けがあるおかげで,打3pの受け入れは7種24枚であり,打9mの8種28枚との差が実戦より縮まっている.(実戦牌図では6種20枚 vs 8種28枚)
【④⑤⑥について】
2223456789mという連続形を設置.
打9mとするとヘッドレスとなる.②③と同様に良形確定.
打3pとすると,2223456789mの形が残る.以下の理由により,②③よりも打3p有利に傾くことが予想される.
もう片方のリャンメンが埋まった際に,2223456789mという最終形となり,134679mという六面張のリーチが打てる.
この多面受けがあるおかげで,打3pの受け入れは9種30枚であり,打9mの8種28枚を逆転している.
1m引きテンパイ,六面張での1m和了でイッツーがつく.
また,⑥は④⑤の23pを34pに変えている.これにより,⑥では打9mとすると100%タンヤオがつく.
NAGA解析
①~⑥の解析結果をまとめました.実戦と異なり,全員に字牌を切らせて場況をフラットにし,下家の鳴きも消しています.
【①について】
実戦(ドラ1)と変わらず,①(ドラ2)も打9mが大差で有利だった.
少なくとも鈴木勝の実戦の牌図においては,ドラの数に関係なくタンヤオを重視するのがよさそう.
【②③について】
5556789mという形があり,打3pとした場合も①より受け入れが多いこと,あるいは四面張テンパイの可能性が生じても,なおタンヤオが付く方の打9mが圧倒的有利だった.
判断はドラの数に関係ない.
【④⑤について】
2223456789mという六面受けの形があると,流石に打9mより打3p(6s)の方が有利になった.
ドラが増えると差が縮まっているように見えるが,最終的な結論は同じであるため,やはりドラの数はさほど影響ないと考えて良さそう.
【⑥について】
・ところが,23pを34pにしてタンヤオ確定にすると,今度は大差で打9mになった.なお,ここでは省略しているが,ドラを2mにした場合もやはり大差で打9m有利だった.つまりドラの数は判断に関係ない.
・タンヤオ「確定」になる場合は,よりタンヤオを付ける方の打牌が有利に傾くと考えられる.
全体の傾向については,第6章にまとめていきたいと思います.
結果がドラの量に影響されないのは,タンヤオを付けることの価値がドラの数にあまり左右されないからだと考察しています.具体的には以下の通りです.
タンヤオを付けると1翻アップする.
打点が安い場合,麻雀の点数が1翻アップで倍になるという性質上,1翻付ける価値が極めて大きい.
打点が高い場合(タンヤオなしでもリーチしたら4翻以上の場合)も,ダマテンの選択肢が生まれること,また満貫→跳満や跳満→倍満の変化が地味に大きいことから,1翻付ける価値は小さくない.なお倍満とかある場合はレアケースなので分からんw
タンヤオを付けると鳴けるようになる.
打点が高い場合(ドラ3~の場合),喰いタンのテンパイを取れることが非常に偉い.データ上(とつげき東北著「新科学する麻雀」等),満貫あればほぼ無条件で鳴いてテンパイを入れた方が得.
打点が安い場合も,リーチが入った場合や赤を引いた場合など,状況が変化した際に鳴く選択肢が生まれる.
「1翻アップ」のメリットは低打点時,「副露」のメリットは高打点時により効いてくるので,結局どんな打点でもタンヤオの偉さは同じじゃないか,というイメージです.
ちなみに④~⑥は「イッツー」という2翻役が見えますが,「三色」が見えた天開司の牌姿とは異なり,テンパイ時や和了時の受け入れ牌が多い分,その中で2翻役が絡む牌の確率が相対的に下がっているので,2翻役の影響は小さいのではないかと考察しています.
【6. 今回のまとめ】
牌理上受け入れの質・量に大差がない場合は,タンヤオが付く方の打牌が有利になるという結論を前回のnoteで扱った.そのうえで,以下のことが言える.
◇ちょっとやそっと多面張の可能性があるという程度では,タンヤオを見る打牌が有利なことは揺るがない.
◇100%タンヤオでテンパイすることが確定するという場合は,タンヤオが不確定となる場合よりさらにタンヤオを付ける打牌が有利となりやすい.
◇タンヤオ以外の手役が絡まない場合,ドラの枚数は判断にほぼ影響ない.
◆タンヤオ以外の手役(ピンフ,三色,イッツーなど)が絡む場合は,タンヤオを見ない打牌が有利になる可能性がある.特に2翻役の三色やイッツーの影響は大きい.
◆シャンテン数が遠い場合(第4章の②など)は,あえてタンヤオを確定させようとしなくてよい場合がある.
【おまけ: 神域オタク文章】
人気VTuber・天開司には様々な名シーンがあります.例えば畳に対して話しかけ続け,コメ欄に「い草」が生えるシーンはあまりにも有名です.麻雀配信に限って言えば,私はやはり次のシーンが最高傑作だと思います.
司「安西先生…!! リーチがしたいです...…」
~追っかけリーチを打つ~
司「♪大都会に~~僕はもう一人でえ~~~↴」(※この瞬間にメイカに放銃して歌声にフォールがかかる)
司「♪投げ捨てられた~~空き缶のようだ~~」
~リザルト画面が表示.リーのみの手が裏3のせいで満貫になっている.~
メイカ・鴨神・ハジメ「ダッハッハッハwwwwww」
司「♪互いのすべてを~~~」
(中略)
司「♪世界が終わるまでは~~~離れることもない~~~~」
メイカ「終わったのはお前だよw」
という感じで,先制リーチに追いつき悦に入ってスラムダンクの主題歌を歌い始めた瞬間に放銃し,裏3まで乗せられたのに,お構いなしに最後まで歌いきってしまいます.どうやったらウケるかがよく分かっていて,しかも瞬時にそれをやってのけています.最高です.
...…ただ,神域リーグ2023での司の麻雀は,こういう不運な展開があまりにも多かったように思います.リーチすべき場面でリーチしても,全部掴んでしまう.特に第8節・第22試合で,司のリーチに回ったねるちゃんが4556m(※5mはドラ)という形で張り返し,そこに司がラス5mを掴んでしまうというシーンは,箱推しの私でもかなりショックを受けました.
思えば司は雀魂の黎明期から公認プレイヤーとして活動し,神域リーグも2年連続で主催しました.公認プレイヤー・神域の主催者ということで様々な課題や批判の矢面に立たされ,それでも「この役割を担えるのは自分しかいない」と歯を食いしばって耐えてきました.麻雀面でも,渋川監督に全300半荘ほどの牌譜を見てもらったそうです.ところが,それを嘲笑うかのように,レギュラーシーズンでは不運という不運に打ちのめされていました.
しかし,それでも司は決して折れず,渋の教えに沿って押すべきところはしっかり押しました.実際に昨年よりも積極的にリーチに行ったり押したりした場面が目立ったように思います.
するとポストシーズンで転機が.SEMI-FINALでライバルチームのりつきんから跳満を直撃し,その後も去年とは全然違う攻撃的な麻雀で初トップ.FINALでも一発裏3の親跳を決めて,連トップとなります.
もちろんこの2半荘はかなり運が良かった面もありますが,これまで苦しい中でも努力を続け,また押すべきところでしっかり押したという姿勢に,ついに神様がご褒美をくれたのでしょう.報われて本当に良かったと思います.
司は神域リーグ2023終了直後に,来年も開催することを示唆するようなポストをしています.来年の神域にも期待していますが,どうかご無理はなさらずに.
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