神域リーグに学ぶ麻雀 No.02【ダマテン愚形40符3翻のリーチ判断(リーチ判断編2/咲乃もこ)】」
【0.はじめに】
・本シリーズは,神域リーグの牌譜を題材として,一般的な麻雀戦術を抽出することを目的としています.天鳳プレイヤーののみや・美馬さん(私の雀力を高めてくれた命の恩人です.以下ではMさんと表記します)の意見をベースとした構成になっています.
・選手の打牌を批判する意図は全くありません.麻雀の選択には必ずメリットとデメリットがあるため,選手の選択も尊重しつつ,あくまで一般的なケースでの最適戦術を導き出すことを意図しています.
・各選手の意志の籠った打牌が織りなす牌譜から,何か私たちの麻雀上達に生かせることがあったら嬉しいという気持ちで書いています.
【1.題材となる神域リーグの場面】
今回は,愚形(カンチャン/シャンポン)でダマテンなら3翻(子は5200点,親は7700点)の手において,立直するかしないかの判断基準をまとめてみたいと思います.
神域リーグ第4節・第12試合,チームアトラス・咲乃もこの視点です.東発親番スタートで,早速カン5pでテンパイしました.タンヤオドラ2のダマテン7700の手です.
咲乃もこはここでリーチを選択.本人は対局中に「変化を見てもいいけど,すでに打点十分だし,先制でリーチを打てることが大事」と話していました.事後の振り返り配信では,「テンパイ外しは選択肢になく基本的にはリーチかダマテンのどちらかになる.何も条件のない平場だったら変化が豊富にあるためダマテンが勝るが,神域リーガーはみんな手堅く東発先制親リーチの牽制効果が大きいことと,3pや7pを引いても言うほど待ちの枚数は増えないことから,リーチとした」と話していました.
監督の村上淳プロはどちらもアリだという見解を示していました.歌衣メイカは「漢ならこんなもん行けや!リーチリーチ!w」と思ってそうで,鈴木勝もメイカちゃんの影響を受けてそうっすね.
【2.このテーマについて書いた動機】
No.1(ダマテン高打点のリーチ判断)に続くリーチ判断編です.満貫以上の手と同様に,愚形ダマテン40符3翻の手も,リーチかダマテンで意見が割れることが頻繁にあります.以下のようにデータ本ではリーチ有利とされているケースが多い(ただし,第4項で触れるように,解析の方法によって局収支差の数値はまちまち)ですが,上手い人の実況動画を観たり,Twitterやnoteの何切るに目を通したりしていると,ダマテンにしたいという意見が多く出ています.そこで,ダマテン寄りになる要素を列挙するなどして一般的な基準をまとめてみたいと考え,本noteを執筆しました.
【3.題材における選択例(Mさんの意見)】
私自身は,リーチによる押さえつけ効果も魅力的な一方で,手替わりが一定数あるためダマもアリだなと思っていました.Mさん(※普段対局しているフィールドが天鳳鳳凰卓)は,
「個人的にはダマテンが良いと思う.自分は普段親のカン5・7700をダマテンにするケースが多く,特に今回はダマテンにしておくと嬉しい手替わりが複数あるからよりダマ寄りになりそう.」
という見解でした.手替わりの有無に関係なく元々親のダマテン3ハンの愚形はダマテンが有力であり,かつ今回は
378p引きによる良形変化(特に37pはピンフ付与)
5s引きによるドラ・一盃口の2翻アップ
6s引きによる三色の2翻アップ
が狙えるということですね.
ちなみにNAGAの解析は以下の通りとなりました.ただし,NAGAは天鳳鳳凰卓のラス回避ルールを前提としており,神域リーグのトップ取りルールとは異なることに留意してください.NAGAが圧倒的ダマテン寄りになっている理由については後ほど考察します.
【4.書籍の引用】
「新科学する麻雀(とつげき東北)」には,
親子別で,役あり40符3翻のカン37およびカン46について,リーチをした場合とダマテンにした場合の局収支の差が記述されています.
子の無スジカン37ダマテン5200:5巡目は1000点差,7巡目は800点差,14巡目は200点差ほどでリーチ有利.
子の無スジカン46ダマテン5200:5巡目は200点差,7巡目は400点差ほどでリーチ有利,14巡目はほぼ互角.
親の無スジカン37ダマテン7700:5巡目は1400点差,7巡目は1100点差,14巡目は200点差ほどでリーチ有利.
親の無スジカン46ダマテン5200:5巡目は300点差,7巡目は400点差ほどでリーチ有利,14巡目は50点差ほどでダマテン寄り.
また,「読むだけで上級者! 麻雀が強くなる即戦力講義(ゆうせー)」にも,ダマ40符3翻愚形のリーチ判断についての記述があります.nisiのシミュレーターを用いた結果だと,リーチの方がダマテンより50~200点ほど有利ということになっています.また本書では,「微差であるため,ダマテンが有利になる状況は多い」という記述のもと,ダマテン有利になる要素を列挙しています(本noteでも後ほど触れます).
【5.題材の牌姿を変えてみると?】
神域リーグでの題材は,ダマテンで40符3翻,カン5,手替わり5種という条件でした.本項では,以下の条件の場合について考察していきます.
①ダマテンで40符3翻,カン5,手替わり2種程度(リャンメン変化のみ)
②ダマテンで40符3翻,カン3,手替わり1種程度(リャンメン変化のみ)
③ダマテンで40符2翻,カン5,手替わり5種程度(題材と牌姿は同じ)
④ダマテンで40符2翻,カン4,手替わり多数(4連形含み,テンパイ外しの選択肢もある)
①ダマテンで40符3翻,カン5,手替わり2種程度
NAGAはダマテン推奨.Mさんは,
愚形カン5・40符3翻はやはり(ラス回避ルールだと)ダマテンにすることが多い.ただ,神域リーグルールだと判断が変わる可能性がある.
という見解でした.
②ダマテンで40符3翻,カン3,手替わり1種程度
NAGAはやはりダマテン推奨.私は「新科学する麻雀」においてカン37待ちはリーチした方がダマテンより局収支で1000点ほど有利という解析結果を知っていたので少し違和感を覚えました.Mさんは
これもラス回避ルールだとダマテンにしそうだが,神域リーグルールならリーチしそう.なお,子の場合はラス回避ルールでもまあまあリーチしそう.
データとのギャップが生じる原因は,「ラス回避ルールと神域リーグルールで勝手が違う」のが大きいと思う.
という見解でした.ラス回避ルールの特色や,親・子の違いについては後ほど.
③ダマテンで40符2翻,カン5,手替わり5種程度
今度はNAGA(ニシキ)はリーチ推奨でした.嬉しい手替わりは題材図と全く同じで5つあるのですが,やはりダマテンで3900を和了してもしょうがないだろという判断でしょうか.
④ダマテンで40符2翻,カン4,手替わり多数
やはりNAGA(ニシキ)はリーチ推奨でした.トリダマでも2679pでリャンメン変化であり,また3pを外すと2pが消えるかわりに57mでリャンメン変化しますが,トリダマにより3900を和了ったり,テンパイを崩したりするよりも,即リーチで7700以上を確定させに行った方が強いということでしょう.
【6.考察: ダマテン有利になるのはどのような場合か?】
ダマテン40符3翻の手は,統計上はリーチ有利ということになっていますが,実際はダマテンにした方がいいケースが多そうです.
そこで本項では,書籍やMさんの意見も参考にしつつ,ダマテン有利になる要素について自分の考察をまとめました.以下の要素が加わるほどダマテン有利に寄ると考えています.
①ラス回避ルールである
ここまで見てきた通り,NAGAは40符3翻愚形の手についてダマテンを推しています.これは,NAGAがラス回避ルールを前提としており,同ルールではタダで5200や7700を和了ることによりラスの可能性をグッと下げることの価値が大きいからであると考えています.
逆に神域リーグであれば,タダで5200や7700を上がるよりも,周りを押さえつけて8000や12000をツモる確率を上げることの価値が上がるので,リーチ有利に傾くと考えています.
②南場である
これは「読むだけで上級者! 麻雀が強くなる即戦力講義(ゆうせー)」からの引用です.南場になると残り局数が少なくなるので,本局での和了が最終着順に与える影響は大きくなります.そこで,タダで5200や7700の加点をすることの価値が大きくなるというわけです.
③トップ目である
同じく「読むだけで上級者! 麻雀が強くなる即戦力講義(ゆうせー)」からの引用です.トップ目においては,たくさん加点することよりも,確実に局を流すことの価値が高まります.さらにリーチをすると押し返しを受けるリスクもあります.満貫あるので追っかけリーチを受けてもまあ押し有利なことが多いのですが,
明らかな超危険牌(高い副露手に明らかに危ないと読める牌/残りスジがかなり少ないリーチに対する無スジなど)を持ってきた時にオリる選択肢を取れなくなる
二軒以上から攻撃を受けた際も押すしかなくなる
中途半端な手の人から和了り牌を拾うことができなくなり,本手の人に押し返されやすい
などのデメリットが想定されます.
④待ちの場況が悪い
これはMさんの意見を参考にしています.No.1 の劣勢時愚形ダマテン満貫のケースでも少し触れましたが,待ちが悪いほど,リーチして周りを押さえつけてもツモれる可能性が低く,かつ押し返されると不利な戦いを強いられるので,ダマテン有利となります.データ上でカン37よりカン46(5)の方がダマテン有利に傾くのもこの要素が関係しているでしょう.
⑤親である
これもMさんの意見です.40符3翻をダマテンにした場合,子だと5200の加点ですが,親は子の満貫に匹敵する7700を加点できる上に連荘もできます.ダマテンで和了ることによる着順への影響が大きくなりやすいため,親だとダマテンに寄るということでしょう.
⑥ダマテンで嬉しい手替わりが多数ある
本題材のように,単純なリャンメン変化だけでなく手役やドラ絡みの変化も複数ある場合は,ダマテンにしやすくなるでしょう.
【7.まとめ】
ダマテン40符3翻の愚形待ちは,局収支上は以下のようにリーチが有力となる.
端寄りの愚形(2378絡み)はそれなりにリーチ寄り
真ん中の愚形(456絡み)は微差でリーチ寄り
しかし,以下の条件が絡むとダマテンも有力となる.
ラス回避ルール
南場
トップ目
待ちの場況が悪く不利なめくりあいになる可能性がある(特に,4~6が絡む待ちは,2378が絡む待ちよりダマテンに寄る)
親である
ダマテンで嬉しい変化が多数ある場合(特に今回の牌姿のように,単純な良形変化のみならず,ドラ引きやタンヤオ・三色・一盃口などの変化もある場合)
一方で,ダマテン40符2翻の愚形待ちは,ダマテンによる良形/手役の変化,およびテンパイ外しをあまり考慮せず,即リーチとするのが有力となる.
以上はあくまで戦術の一例であり,リーチとダマテンのそれぞれにメリットがあるので,個人個人のバランスで多少のアレンジを加えていいと思います.実際に,NAGAのタイプ(ニシキ/カガシ)により解析結果がズレている場面もありましたからね.
それとは別に,テンパイした時に「何種類嬉しい手替わりがあるか」を数える癖をつけるのは大事だと思います.良形変化はもちろんですが,手役やドラがつく手替わりも忘れずに数えましょう.特に(私の個人的な感想かもしれませんが)三色はうっかりしやすいです.リーチかダマテンかテンパイ外しの重要な判断材料になると思います.
【おまけ(神域オタク文章)】
本局はすんでのところで5pの親満をツモり,その後も見事な打ち回し(ゆうせーの麻雀ランキングでも触れられています)を見せて再び加点しましたが,天開司の発絞りもむなしく成就した空星きらめの超音速大三元を親被りし,結果トップを逃してしまいました.惜しかったですね....個人的には,応援配信で歌衣メイカが大三元を見るや「なんでやねんwwwwもこはどうしてもこうなるんやなwww親被ってるよもこ~www」とゲラゲラ笑っているのが面白かったです.
パブリックビューイングは咲乃もこの親満2連発,そして空星きらめの大三元に沸いていました.私は遠くから新幹線で観に来たアトラス推しのサラリーマンと現場で仲良くなり,一緒に盛り上がっていたのですが,空星きらめが速攻でテンパイし,発をツモった時はリアルに「ええええ~~~!!??やっばwww」と叫んでしまいました.
咲乃もこは神域リーグ内でも唯一の魂天であり,打牌精度も高く,第1節の或世イヌリーチに対するフリテンダマプッシュの選択や本半荘での天開司リーチに対する柔軟な三色での和了など,光る選択が多かったです.
個人的には,咲乃もこの魅力は「麻雀の実力はピカイチだが,ちょっと抜けていて人間味のある一面もある」ということだと思います.
例えば昨年のチームアキレスの練習配信で,多井隆晴プロが「画面を隠して打ち,どれが咲乃もこ・天宮こころ・郡道美玲が当てる」というゲームをしていた時,事後の検討配信でたかちゃんが「対面の役なしダマテンは渋かったね~」と話すと,聞かれてもいないのに「あ~『私の手』ね」と口を滑らせてしまい,あまみゃとぐんぐんから猛烈に詰められていました.また,連ラスを引いた時などにアツ続行して余計ポイントを減らしてしまうところは,ネト麻経験者なら皆共感できると思います.
皆さんは日常生活で「めっちゃ能力が高くて隙もない人」よりも「めっちゃ能力は高いけど人間味ある一面も持っている人」の方がとっつきやすいと思いませんか?私は,現チームアトラスのエース・咲乃もこの魅力はそういうところにあると思います.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?