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グラフィティー探検記(タイ南部編)1 〜夜のパトンビーチ〜

はじめに

日本がまだギリギリ「平成」だった2019年4月末、私は出張でタイ・バンコクにいた。1ヶ月程度の滞在予定で、4月末から5月始めにかけては「ゴールデンウィーク」という長期休暇があった。私は会社に図々しく、ゴールデンウィークと出張時期を合体してもらえないかとお願いした。
その目的は、「ゴールデンウィークにプーケットに行ってタイの海とグラフィティーを見たい」というものだった。
タイには年1回のペースで3回ほど出張で訪れていたが、いつも仕事の合間にバンコクの街をブラブラしたり、タイの友人と少しだけ遠出して遊びに行くことが多かった。
無事会社の承諾も得られ、タイの国内線を利用した初めての長期1人旅。不安よりもワクワクが優っていた。

今回は日本が平成から令和をまたいでいる時に、ひっそりとタイ南部で歩き続けた私の探検記を、2年越しに記録していく試みのエピソード1である。
9日間の長旅を何ページに収められるか分からないが、記憶を手繰り寄せつつ書いていく所存。

スケジュール

DAY1 バンコク〜プーケット移動 夜のパトンビーチ
DAY2  パトンビーチでマルディと再会
DAY3  プーケット4島巡りツアー
DAY4-5 魅惑のプーケットオールドタウン
DAY6  リゾートではない方のサムイ島
DAY7-8 魅惑のタオ島
DAY9  タオ島からバンコクへ帰還

ルートマップ

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なぜタイ南部なのか

この旅の目的は、「タイの海とグラフィティーを見る」こと。
逆に言うと、それ以外のプランはほぼ皆無。ホテルも全て宿泊前日に予約し、なんとなく決めたエリアに行く。何時に何をするかなどはその時の状況に合わせて決めるというスタイル。
私はこのスタイルが好きだ。全て自分に決定権があるのは自己責任も伴うが、とても自由で開放的な気分になれる。

そして、行き先の決め方は「そこにグラフィティーがあるかどうか」。
現代はとても便利な情報社会で、どこにどんなグラフィティーがあるかなども、大体ネットに転がっている。(分かりすぎるのもつまらないのだけど)
グラフィティーがあるところには、他のグラフィティーもある」という想定のもと、目的の作品をリアルに見る楽しみと、未だ見ぬ出会いに期待を膨らませて現地へ向かう。

私の目的作品のほとんどは、「Alex Face」というタイで最も有名なグラフィティーアーティストの作品。
彼は「マルディ」という破れたウサギの着ぐるみを着た子供を様々な場所で描いている。
私がマルディと出会ったのは2017年。彼(彼女)の、仏のようにも不安そうにも見えるその複雑な表情に、強烈に惹かれた。それからタイに来た際は必ずマルディに会いに行くのが私の中の恒例になっていた。
プーケットにもたくさんマルディがいることを知り、「南国のマルディはどんな表情なのか」を直に見たいと思い、今回の旅を計画した。

(写真:マルディ inバンコク)

バンコク〜プーケット移動

2019年4月27日、バンコクの「ドンムアン空港」の国内線から、プーケットへ向かう。

タイの国内線は初めてだったが、国内線という先入観からか、結構いろんな国の人がいることに驚いた。
今考えると、世界屈指の観光大国で、その目玉でもあるプーケット行きの飛行機ということを考えると「そりゃそうやろ」と思う。しかし国内線を日本でしか体験したことのない私にとっては、「国内線っぽくない光景」だった。
そして何より、客室乗務員の制服がすごくオリエンタルで可愛かったのが印象的だった。いわゆるジャケットと膝丈スカートではなく、柄物のシャツとタイトなロングスカートで、遠目から見ると一枚布のワンピースにも見える。「こんな制服があるのか!」と、少しずつ自分の狭い常識が崩れて行く感覚に酔いしれていた。

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1時間程度のフライトを経て、飛行機はプーケット空港へ到着。外は真っ暗。
プーケットに詳しい知り合いから、
タクシーが高いから、ミニバスでホテルに行ったほうがいい
という助言をもらっていたので、それに従いミニバスの券を買うと、運転手らしき男の人が手招きをしてきて、ついていくと白いワゴン車に乗せられた。
私の他に、同じ方向へ行くらしき乗客が、5組程度乗っていて、そのほとんどが欧米人だった。
ワゴン車に揺られながら見る外の景色は、信じられないくらい真っ暗だった。自分が今知らない土地に来ている事実も相まって、よく言う「暗闇に飲み込まれそうな」気持ちになった。

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(写真:ミニバスのチケット)

しばらくして、暗闇の中にポツンと小屋がある怪しい場所に車が止まった。どうやら休憩らしい。
全員外に出され、その小屋にみんな入っていく。中に入ると、机と椅子があって、事務所のようだった。ありとあらゆるプーケットのツアーポスターが貼られている。
案の定、私もツアーへ勧誘された。いつもなら断るところだが、グラフィティー以外の用事がほぼ無かった私は、なんとなくノリで「離島4島巡りツアー」に申し込んでみることに。2日後にホテルまで迎えにきてくれるとのこと。
「ほんまかいな」と半信半疑になりながらも、まあそれはそれで話のネタになるしいいか、と思える程度に私はまだ酔っていた。(アルコール摂取しているわけではない)​

夜のパトンビーチ

停留所を後にしてワゴン車は再出発。少しすると賑やかな光が見えてきた。最初の目的地、パトンビーチに到着。

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(写真:プーケット最初のグラフィティーハント)


無事ホテルの近くで降ろしてくれたミニワゴンにお礼をして別れ、ホテルに向かう。信号のない交差点に着くと、反対側からバイクが来ていたので、私は歩を止める。
そのバイクにはおじいさんが乗っていて、車体は確実に私の方向へ向かって来るのだけど、おじいさんの目線は明らかに逆方向へ向いている。
「相当慣れてるんだな・・」と感心したのも束の間、ぐんぐんバイクが私へ接近してくる。
えっ
と思った瞬間、私の目の前10cmにおじいさんの載せたバイクが横切り、その先にあった電柱へドーン!と衝突。

私が唖然としていると、すぐに周りの人たちが駆けつけてきた。
幸いおじいさんは無事で大きな怪我もない様子。真顔で近くのフェンスに腰掛けていた。事故り慣れてるねん、みたいな顔すな。
私はおじいさんの無事に安堵しながら、一番被害を受けたバイクの気持ちを思うと気の毒になったが、到着早々、スリリングな体験をしたことに少し興奮していたことも否めない。実際この旅について人に話す時は、必ずこの話題をしゃべっている。

それから無事にホテルに到着。
今回泊まるのは、ビーチのすぐそばにある「GLUR PHUKET」というホテル。
1泊3000円程度でとても安価ながら、木を基調としたモダンな雰囲気の内装で、私にとっては言うことなしなクオリティーだった。

ホテルで一息ついた後、外へ出て夕飯を探し求めることに。さすが観光地、すでに空は暗かったが街はまだ明るく賑わっていた。
ホテル前の通りをまっすぐ歩くと、お土産屋さんやコンビニ、ショッピングセンターなどが立ち並ぶ。
そして、50mくらい歩いたところで見えてきたのがオレンジのライトに照らされた砂浜と、音楽に混ざって聞こえる波の音だった。
海だ!
この旅の目的の一つであった、「タイの海」に早速出会い、気分が高揚する。夜なので海の水は真っ暗だが、砂浜と波の音だけで十分海を感じられた。


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そして砂浜のすぐ手前で賑やかな音楽が流れている。
「フェス」というほど大掛かりなものではないが、簡易的なステージの上でミュージシャンたちが聴いたことのない独特な音楽を奏でていた。
その前に十数セットのテーブルと椅子があり、周りは屋台で囲まれている。日本の「地元の夏祭り」の南国バージョンのような空間が広がっていた。
気候も良く外でも比較的過ごしやすかったので、ここで夕食を食べることに決めた。

屋台を一周し、チキンフライドライスとバナナジュースを頼むことに。
しかし、バナナジュースだと思って頼んだ店がまさかのクレープ屋さんで、「バナナクレープ」が出てきてしまった。
「あちゃー」と思いながらも、さすがにバナナ欲は失せ、ジュース屋さんに行ってパッションフルーツジュースを注文。
今度は無事、パッションフルーツ「ジュース」が現れ、一安心。
席についてよく分からない音楽に異国を感じつつ、一人で知らない土地にいる状況にとても不思議な気持ちになる。
イレギュラーで注文したパッションフルーツジュースが予想以上に美味しくて、その後しばらく私の中のパッションフルーツブームが到来する。

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また夜が深まり、雨が降ってきたのでホテルに戻った。
だんだん雨が強まり、一気に台風のような気候になった。ホテルの小さい窓から雨音と雷の音が激しく聞こえる。
そんな騒音の中でも疲れきった私の身体はすぐに眠りにつくことができた。

▼つづきはこちら

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