チョン・セラン『アンダー、サンダー、テンダー』
『今、何かを表そうとしている10人の日本と韓国の若手対談』の、朝井リョウさんとチョン・セランさんの対談でも取り上げられていた作品です。オビには、
との朝井リョウさんの推薦文が載せられています。
訳者・吉川凪さんのあとがきに、「アンダー、サンダー、テンダー」というタイトルに込めた意味を作者に尋ねた答えが載せられていました。
作品は、タイトルの解説にあるような十代の人間関係や出来事が真ん中に据えられているものの、十代がそのまま描かれて完結するのではなく、三十代となった主人公が十代の日々を振り返るという趣向です。また、主人公を取り巻く登場人物たちの群像劇ともなっていて、これまた大人になった彼らも登場してきます。唐突に挿入されていく、主人公(最終的に短編映画監督となる)の彼らを撮影した断片的動画の場面は、読み終わった読者にとっては、もう一度振り返らずにいられないものとなります。動画部分を通して追っていくと、今を生きる彼らが生き生きと立ち上がってきて、胸があつくなるという作りも劇的です。
失うことが全てであるかのような、何も手に入れられるものなどないような十代を送った主人公たちが、そんな現実の中にありながらも、自分自身として生きていく大人となっていく。何らかの形で周囲の人が関わることでしか人の一歩一歩はないのだな……と感じさせられる作品でした。