山本兼一『利休にたずねよ』
第140回直木賞受賞作で、2013年に、田中光敏監督✖市川海老蔵で映画化もされた作品です。率直に、とても面白く読みました。
利休の侘び茶とは、彼がひたすら求め続けた美とは何か……、この答えを、知られざる利休の恋という完全なるフィクションで解き明かしていく手法に息を呑みました。そして、なぜ利休が極小の茶室に辿り着いたのか、といった、利休にまつわるノンフィクションの全ての謎を、寸分の狂いもなくフィクションの恋で成立させてしまっている鮮やかさに、読後すがすがしさを感じました。
ともかく、利休へのリスペクトに溢れた作品で、利休の「一碗の茶をかけがえのないものとして慈しむ執着と気迫」や「人の心を狂わす魔性」、「ひたすら美に対して謙虚」で、「さりげない素朴さの中に、深遠な調和の美を見いだす天賦の才」を存分に味わえる一冊でした。
また、利休切腹の日から始まって、秀吉や信長や家康、古田織部などの利休の弟子筋の面々や、師匠の武野紹鴎、利休の茶碗を作った長次郎などの主要人物とともに、利休の人生を遡っていくという趣向も面白く、読後にはただ、「天にゆるりと睡り、清風に吹かれているような」千利休の残影だけが見える小説でした。