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三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』『まほろ駅前番外地』『まほろ駅前狂騒曲』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2023.02.26 Sunday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

まほろ市の駅前で便利屋を営む多田と、そこに転がり込んできた(高校時代とは別人のように)破天荒な変わり者に変貌した同級生・行天の織り成す物語のまほろシリーズですが、今回三冊を通して読んでみると、『まほろ駅前狂騒曲』がすべての物語の伏線を回収してくれる作品となっていて、帯の文句通りまさに大団円の印象で読み終わりました。

シリーズ第一弾は、第135回直木賞受賞作の『まほろ駅前多田便利軒』。多田便利軒への依頼を短編として重ねていきながら、多田と行天という、それぞれに一人で生きるしかない暗い過去を持つ二人がどんどん肉付けされていき、全体を通して一編の失った「幸福の再生」の物語となっているのを面白く読みました。

また、第二弾の『まほろ駅前番外地』は、多田と行天だけでなく、第一弾で登場した登場人物たちが主人公となるスピンオフ的作品で、より魅力的となっていく登場人物たちと、唯一新たに加わった多田の思い人の存在に期待が高まっていきました。

第三弾の『まほろ駅前狂騒曲』は、シリーズ唯一の長編で、シリーズのオールスターが登場して、とんでもない大騒動へと発展していきます。「だれともかかわりたくない、一人でいたいと願って」いた多田と行天が、騒動の中で、「だれの記憶にも残らず、自身の昏い記憶だけ抱えて深い淵に沈むことはできない」こと、「生きている限り誰かにつながっていること」を身をもって知り、「厄介事を抱え込み、人々の暮らしのなかで生きていく」便利屋として真の相棒となっていきます。喜びや悲しみや幸福や苦しみは、一人の中で完結するものではなく、かかわった皆につながっているのだ、というメッセージが随所から伝わってきました。

第一弾の冒頭、これから多田の「旅」がはじまり忙しくなる、という曽根田のばあちゃんの予言によって、始まったまほろシリーズでしたが、第三弾の曽根のばあちゃんの言葉と共に、「とてもとても遠い場所。自分の心のなかぐらい遠い」場所で自分を取り戻して、幸せでいられる場所を見つける多田と行天の旅を見届けた気持ちになりました。

多田さんの旅は、そろそろ終わるのかもしれないね。
行きたい場所にたどりつけたってことだ。またいつか、旅を始めるときが来るだろけど、それまではゆっくり近所を散歩すればいい。

まほろシリーズはすべて永山瑛太✖松田龍平で映画やドラマになっているようですね。見てみたくなっています(笑)

まほろ駅前多田便利軒

まほろ駅前番外地

まほろ駅前狂騒曲