中山七里『切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人』
以前取り上げた『ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人』の刑事犬養隼人シリーズの1作目です。
臓器をすべてくり抜かれた死体の発見からはじまり、かの有名な1888年にロンドンで起こった連続猟奇殺人事件であり、迷宮入り事件として有名な「切り裂きジャック」を模した犯罪が重ねられていく社会派ミステリーです。そこに、「臓器移植」「脳死」という本作のテーマが重ねられていきます。
「切り裂きジャック」というタイトル通り、事件は凄惨なものですし、その犯人解明に至ってはどんでん返しも二転三転とあり、読者には驚きの結末が待っているのですが、個人的には、脳死や臓器移植に関わる問題の数々を描いていく中で、老獪なマスコミや匿名性の中での人間の悪意、他人の善意がもたらす悲劇などがあぶり出されていく筆致を面白く読みました。
読み終えた感触としては、人間を突き動かす原動力としての家族が描かれた作品であり、「守るべき家族」とは何か、を問いかけられたように感じました。主人公犬養もしかり、犯人もしかり、他の登場人物たちも、そして、読者もしかり……。
エピローグの心温まる場面に救いを感じながら、もしかすると、「お互いを測りかねてびくびくしながら手を握って」いくことこそが、全てを解決していく一歩なのではないか、そんなことを感じさせられた小説でした。