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朝井リョウ『生殖記』

『正欲』から3年半を経て、念願の朝井リョウさんの新刊『生殖記』が発行されました! 推しの新刊レビューです(笑)

といいつつ……、たちまち困りました……。というのが、YouTubeのCMでも、ナレーションの津田健次郎さんが、

今度の語り手何かが違う
かつてない○○目線
正体は誰だ
ネタバレ厳禁

『生殖記』朝井リョウ3年半ぶり新作長篇TVCM(ナレーション:津田健次郎)

と言っているように、「ネタバレ厳禁」で、「〇〇」に踏み込めないのです……。

とある家電メーカー総務部勤務の尚成は、同僚と二個体で新宿の量販店に来ています。
体組成計を買うため——ではなく、寿命を効率よく消費するために。
この本は、そんなヒトのオス個体に宿る◯◯目線の、
おそらく誰も読んだことのない文字列の集積です。

生殖記』朝井リョウ|小学館&裏帯より

ヒトは二回目ですが、オス個体は初めてです。よろしくお願いします。

表帯より

ネタバレ厳禁という枷の中で、感想を一言でいうならば、朝井リョウ的毒(@大好物)そのもののような小説で、3年半待っていた(禁断症状気味の)ファンとしては大満足の一冊でした。

生きづらい世の中を、人間がどのように生きているのか、というのは朝井リョウ作品の核の部分だと常々感じているのですが、今回は、思いもよらない語り手を設定することで、より俯瞰的な客観性が生まれているのを面白く読みました。

作品では、多様性、SDGs、LGBTQ+……といった現代の「ヒト」の問題が、「〇〇目線」によって冷静に分析されていきます。ヒトとの隔絶感が絶妙でした!

本気で”地球のために、できること”をヒトに問うのならば、回答は一つ。
絶滅です。

国家とか貨幣とか神様とか人権とか、ヒトが大切にしているもの、それどころかあらゆる行動の起点に置いてさえいるものって、自然界にもともと存在しないものばっかりなんですよね。ほんと、稀有~。

ヒトの場合、自然の摂理の上に、資本主義を、人権を、国家を、そして感情を、そういう自然界には存在しないあらゆるものをドカドカ乗っけたわけです。

「均衡、維持、拡大、発展、成長」を目指し続けて降りることのできないヒト。「共同体が目指すものを阻害する存在」にならずに「社会的動物としての幸福度」を高めていこうとするヒト。

ヒトの場合、同じ種でも、どんな”しっくり”を積み重ねるかで全く違う世界を生きることになるんですね。

一見「多様性」という着地のようでありながらも、安易な多様性ではなく、自分なりの「”しっくり”を積み重ね」ていく個体の涙ぐましさのようなものを描く方に軸があるように感じました。

そして、何より、タイトルが生殖「記」であることの意味が明かされるラストの読み心地が、これまた朝井リョウさんならではのもので、ぞわぞわ感と救いの両方をもらったような気がしました。

「サバイブを続けられるだけで万々歳」だと知っている「〇〇」の正体は、ぜひ作品で!(八塚秀美)

冒頭試し読み「生殖記」|現代小説|文学・小説|書籍|小学館