横山秀夫『64』
『64』は、2012年「週刊文春ミステリーベスト10」第1位、13年「このミステリーがすごい!」第1位、『ダ・ヴィンチ』「2013年上半期 BOOK OF THE YEAR」第1位などに輝いた、人気の警察小説(D県警シリーズ中の長編)で、2016年には前後編2部作で映画化されました。映画は、瀬々敬久監督✖佐藤浩市✖綾野剛✖榮倉奈々✖永瀬正敏✖三浦友和などなど……若手かららベテランまで超豪華キャストが集結した大作で、映画を先に鑑賞していました。
今回、原作の『64』を読んでみて、結末が全く違うのにビックリ! (乱暴にまとめてしまうならば、)映画は、広報官という職にあった警察官が、職務とは離れて人間として生きていくことを選択していく話でしたが、原作は、職務の中に、揺るぎない信念を持って生きる決意をしていく警察官の話で、もうこれは別物として味わうしかないなと感じました。
エンターテインメントとして、映画が取捨選択し、また付け加えたものの意味や良さはよく理解できましたが、個人的には、一人の警察官に焦点をあて、また、将来への希望を失わない警察小説としての原作のテーマを好ましく読みました。作者が上巻から丁寧に書き連ねてきていた、人間が自らの置かれている立場によって変わってくる葛藤は、主人公だけに留まらない普遍性をもったものとして描かれているように感じました。
また、広報官を主役にした作品ということもあり、私たちが警察に持っている印象とは違った警務部という警察内部を管理する存在や、全く知らなかった警察の内部情報(警務部や刑事部対立構造?)などを知れたのも新鮮でした。横山秀夫さんには、D県警シリーズ(『64』はこちら)と、F県警シリーズがあるらしく、警務部と刑事部のかき分けがあるとかないとか……。それぞれの切り口の違いを読み比べてみたくなりました。