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池井戸潤『下町ロケット ゴースト』『下町ロケット ヤタガラス』

池井戸潤さんの作品を始めて読んだのは、145回直木賞受賞作『下町ロケット』でした。町工場の佃製作所が、国産ロケット開発という最先端技術に挑んでいくストーリーは、昔ながらの職人技で大手企業に立ち向かうさまがテンポよく描かれていて、夢や希望が人々を繋いでいく爽快な読後感でした。

下町ロケットシリーズの第3弾『ゴースト』と第4弾『ヤタガラス』は、2冊続きのストーリー! 第1弾のロケット打ち上げの夢が、準天頂衛星ヤタガラスを利用した無人農業ロボット、という高齢化した日本の農業を救済するという地に足の着いた展開となっていて、本シリーズの夢物語には終わらないストーリーの強さを感じました。

農業とは、自然の摂理を利用した人間のささやかな営みに過ぎない。その自然は、農作物の恩恵を授ける一方、ときとして情け容赦ない牙を剝く。その力の前に、人間はあまりにも無力だ。その無力を知ることは、生き残るために必須の知恵だ。

絶体絶命のピンチにある佃製作所の新規事業の開発は、様々な状況に翻弄されるばかりなのですが、どんな状況にあっても変わらないのが、「技術者としてのの不屈の闘志と矜恃」や「仕事への熱い情熱」です。

オレたちの苦労や、オレたちが舐める辛酸なんか、大したことはありはしない。そんなことより、オレたちの使命は、世の中に貢献することだ。世の中の人が喜んでくれて、助かった、有難いーーそう思ってくれたらこんなに幸せなことはない。

「下町の心意気」が、胸を打つクライマックスへと繋がっていく、シリーズならではの痛快で楽しめる作品でした。

道具っていうのは、自分の技をひけらかすために作るものじゃない。使う人に喜んでもらうために作るもんだ。(略)本当に大切なことは道具を使う人に寄り添うことだ。

~おまけ~
池井戸さんの痛快シリーズと言えば、やはり半沢直樹シリーズです。第5弾となる最新刊は、第一弾以前が描かれた「エピソードゼロ」『半沢直樹 アルルカンと道化師』です。「基本は性善説。しかし、降りかかる火の粉は徹底的に振り払う」という半沢直樹が、悪を成敗していくストーリーはそのままに、美術作品をめぐるミステリー要素が加わっていて、そこに重層的に絡まっていく人間ドラマを面白く読みました。(八塚秀美)