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米澤穂信『真実の一〇メートル手前』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2019.02.09 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

前回の『王とサーカス』に引き続いて、フリージャーナリストになった太刀洗万智の短編集です。冒頭の表題作のみ新聞記者時代の物語でしたが、実はこの作品は『王とサーカス』の前日談として、長編の劈頭に置くつもりで生まれた作品だそうで、将来的にフリーランスならではの謎解きをする記者となっていく太刀洗万智が、その道を辿ることが必然であったことを思わせる一人称の小説となっていて、新聞記者時代の物語であることに違和感はありません。

全6編共に、太刀洗万智の探偵的心眼が一番の魅力の作品群で、その謎解きの見事さはホームズら名探偵を彷彿とさせるものがあり、どれも面白い! しかも、それぞれの物語の終着点が、謎解きの面白さではないところにあり、彼女の記者としての生き様が浮かび上がってくるのも、本短編集の特徴的なところです。前作で、サーカスの座長にはならないと決意した彼女は健在であるばかりか、さらに凄みを増していきます。また、それぞれの短編で、彼女らしさを引き出してくる人物が一辺倒でない形で設定されているのも、読者をあきさせません。

6編の中で、フリージャーナリストとしての太刀洗万智を最も印象づける作品は「ナイフを失われた思い出の中に」です。彼女の記者としての選択に驚くだけでなく、作者が彼女を主人公とした短編集で目指すところが示されているようで、腹にズドンとこたえます。これは高校生の彼女が始めて小説に登場した『さよなら妖精』と繋がりがある作品のようなので、この流れで高校生の太刀洗万智に出会いたくなりました。