
「つまらない」という価値
父は読書が苦手である。
活字を追うのは、
まどろっこしいらしい。
疲れるらしい。そしてつまらないらしい。
これはあくまで本の中身ではなく
体験として。
そんな父だが、
ときどき本を読むことがある。
この瞬間、僕の興味は
どんなものよりも父に向くのだが、
本を読んだかとおもうと、
すぐにテーブルに置き
眠りにつくことが大半である。
距離にして、おそらく2.3行。
どうやら父は「つまらない」
を体験するために本を読むようだ。
かつてこのような本の使い方が
あっただろうか。
父は天才である。
知識を得る、物語に浸る以外の、
こんな使い方、誰が思いつくだろうか。
おそらく父は自分を知っている。
自分が目的の動作に移るための、
最高の環境デザインの方法
を知っているのである。
この一件、ふざけたような日常を、
僕は自分の信念として
いつも大切にしている。