2020年はどうなる?「モバイルオーダー&ペイ」とこれからの外食体験
今回は、レストランテックの事例紹介として「モバイルオーダー&ペイ」の現在地とその今後について考えてみます。
モバイルオーダー&ペイとは
「モバイルオーダー」とは、飲食店の来店客が自身のモバイル端末を使って注文ができる仕組みです。
さらに、注文だけでなくスマホ上で決済までできるものは、「モバイルオーダー&ペイ」と呼ばれます。
2019年は、様々な飲食店でモバイルオーダーが導入された「モバイルオーダー元年」でした。
この背景には、政府主導のキャッシュレス推進、軽減税率に伴うテイクアウト需要の増加、外食業界の人手不足や人件費の高騰などが挙げられます。
2020年は、さらなる発展が見込まれます。
モバイルオーダー&ペイの有用性について
モバイルオーダー&ペイの導入によって、来店客は自分のタイミングでスムーズに注文・決済することができ、行列や待ち時間の回避に繋がります。
店舗側にとっては、オペレーションの効率化による省人化やコスト削減が見込めるほか、混雑時の回転効率改善による売上増も期待できます。
一方、お客様と店舗の双方にメリットがあるモバイルオーダー&ペイですが、全ての飲食店にとってベストなソリューションであるとは限りません。
ここで、飲食店を大きく2つのタイプに分類してみましょう。
ひとつは、先に注文と決済を行ってから商品を受け取る「前会計型」。
カフェやファストフードのほか、定食屋や牛丼屋、ラーメン屋、スタンディングバーなどがこれに分類できます。
支払いが食事後の場合もありますが、基本的に注文は1回のみで、注文商品数が少ないのが特徴です。
もうひとつは、着席後に複数回注文を行い、食後にレジカウンターまたはテーブルで決済を行う「後会計型」です。
居酒屋・バル、レストラン・ファミレスなどの業態がこれに分類されます。
モバイルオーダー&ペイは、前者の業態の方が導入しやすく、相性が良いと考えられます。
【CASE 1】カフェ・ファストフード
「前会計型」が多いカフェやファストフードなどでモバイルオーダー&ペイを導入すると、その顧客体験は上図のように変わります。
一見すると難しい高度な仕組みのようにも思えますが、次のように解釈すると、実は従来からある仕組みと本質的には差がないことが分かります。
・EC上でのショッピング体験のオフライン化
・自分で直接受け取るバージョンのUber Eats
・券売機が自分のスマホ端末に変わった
このタイプの業態ではカフェタイムやランチタイムに混雑することが多く、導入による改善効果は大きいでしょう。
基本的に一度きりの操作で完了するため、「行列に並ぶくらいならスマホでやった方が楽」となりやすく、今後さらに広がりを見せると思われます。
【CASE 2】居酒屋・レストラン
次に「後会計型」の居酒屋・レストラン業態で導入するケースを考えてみます。
このタイプの飲食店では複数回に分けて複数の商品を注文するため、その度に毎回決済をすると、むしろ煩雑になってしまいます。
そのため、注文だけはお客様のスマホからしてもらって、あとは従来通り、最後にまとめて対面で決済するのが一般的です。
タブレット端末によるセルフオーダー(TTO)をスマホ端末に置き換えるようなイメージですね。
注文を取りに行くのに手間がかかる大規模店舗や個室店舗では、モバイルオーダーは有効な手段のひとつかもしれません。
一方で、食事中・会話中に何度もスマホを操作させるのは、果たして良い顧客体験といえるでしょうか?
居酒屋でお酒に酔ったお客様が、間違えたり迷ったりすることなく、小さなスマホの画面を何度も操作してくれるでしょうか?
スマホよりも画面が大きいタブレット端末の方がより多くの商品を表示でき、操作も容易で、複数人で一緒に見やすいという利点があります。
効率化は重要ですが、モバイルオーダーがベストな選択肢かどうかは、導入前によく検討する必要がありそうです。
リリースされているプロダクトと導入事例
では、導入事例をいくつかピックアップしてみましょう。
米国などで先行展開されていた「スターバックス」のモバイルオーダー&ペイが、昨年6月に日本でも導入開始されました。
店内外でアプリから注文し、登録済みのスターバックスカードで決済を完了させ、商品ができたらカウンターで受け取ります。
利用頻度が高い人にとっては、一度登録してしまえば非常に便利なサービスですね。
2019年4月から導入開始された「マクドナルド」のモバイルオーダー&ペイは、カウンターでの受け取りだけでなく、テーブル番号を指定して座席まで商品を運んでもらうことも可能です。
そのほか類似の業態では、サンドイッチチェーンの「サブウェイ」や日本橋のカスタムコーヒーショップ「TOUCH-AND-GO COFFEE」、六本木のカスタムピザ専門店「R PIZZA」などの事例があります。
上記の5ブランドでは、いずれもオーダーのオプションやカスタムが可能で、注文時のやり取りで時間がかかりやすいという課題があります。
しかし「抹茶クリームフラペチーノをホワイトモカシロップに変更、エクストラホイップ」のような複雑な注文でも、モバイルオーダーを利用すればスムーズになります。
さらに複数回利用してもらえれば、「Aを頼んだ人は次にBを頼む」といった購買情報も得られるため、従来ではできなかったデータの活用も期待できます。
「PICKS」や「O:der」は、テイクアウトに特化したモバイルオーダー&ペイのアプリケーションです。
「Uber Eats」のように、アプリから様々な飲食店の注文・決済をすることができます。
特に、小規模な飲食店が自社専用のアプリを作るのは難しいため、こうしたプラットフォームサービスを利用するのは有効だといえます。
居酒屋・レストラン業態で利用されるモバイルオーダーでは、「ユビレジ QRオーダー」や 「SelfU」、「Okage Go」、「スマセル」といった製品がリリースされています。
このタイプのサービスは、各テーブルに固有のQRコードを読み取って、その遷移先のWebアプリから注文する形が主流です。
同じQRコードから注文すれば、誰のスマホから注文しても同じテーブル番号に注文を紐付けられます。
モバイルオーダー&ペイの今後
今後は、カフェ・ファストフード系業態やテイクアウト業態の飲食店を中心に、モバイルオーダー&ペイの導入はさらに加速するでしょう。
UI/UXデザインの改善やシステムの安定性向上など、まだいくつかの課題を抱えてはいますが、ECでの購買体験に慣れている消費者には、それほど抵抗なく受け入れられるのではないでしょうか。
一方で、導入を検討する飲食店は、本当にそれがベストなソリューションかどうかをしっかり見極める必要があります。
操作性が良く、POSレジや売上管理システムとの連携もできるサービスを選ばなければ、むしろ導入前より手間が増えてしまいます。
また、モバイルオーダーによってスタッフが楽になるとしても、お客様の体験価値が低下するようであれば、店の都合をお客様に押し付けるだけになってしまいます。
既存のオペレーションを無理やりシステムに置き換えるのではなく、改めて「本来あるべき消費者体験」を再定義して、それを実現するためにテクノロジーを上手く活用していくことが重要なのではないでしょうか。