【出島小宇宙戦争】 実力派 鳳月杏のセンタースポットに思う。
名脇役って一番凄い。
主役ひとりのスター性で持っている作品より、わき役の個性が引き立つ作品のほうがはるかに締まるものだ。
それを言うと、鳳月杏ほど今の宝塚の舞台を締める名脇役はいないのではないかと思う。
鳳月杏は“THE トップスター”と言うには正直華に欠け、癖が強すぎるのだが、どの組に行っても唯一無二の存在感で作品を支えている。いぶし銀のような理性的な冷たさと渋み、そして内に秘めたる情熱が共存しており、その情熱が鋭い眼差しからほとばしる色気となる。そんな彼女の唯一無二の魅力は、三島由紀夫原作の『春の雪』の治典王殿下や、『金色の砂漠』のジャーハンギールなど、葛藤を抱えながら正しく生きようともがく名脇役として結実してきた。
月組、花組と経験して再び月組に返り咲いた彼女だが、これまで明確な番手がついたことはなく、主役級の作品はトップ不在で番手が組みかわる外部公演に限られてきた。
彼女の全作品を見てきたわけではないが、私が知る限り、彼女に劇中の番手がついていてかつ、最も輝いていた作品は2番手を演じた『月雲の皇子』だと思っている。
大和朝廷のトップに君臨しながら、王としての理性ゆえに孤独に追い込まれていくキャラクター。人情より秩序を重んじる理想的な国のリーダーでありながら、最後の最後に非合理的な言葉を残す姿は、社会のルールの範疇で高みを目指す現代社会人すべてに共通する心の葛藤を映している。
しかし、残念ながら私が鳳月杏の魅力に気づいたのは『金色の砂漠』以降で、2008年の『春の雪』も2013年の『月雲の皇子』もまだお小遣いが雀の涙ほどしかなった中高生時代・・・。
画面越しに『月雲の皇子』で鳳月演じる穴穂皇子にどんだけ心を持って行かれても、後の祭だった訳である。
そんな鳳月杏が数年ぶりにセンターを張るというので、これは何としても観ねばならぬとチケットをもぎ取った。
お、お、お、そうきたか!!
あくまで私の個人的な感想であって、めちゃめちゃデジマワールドが好きな人には申し訳ないんだけど、私が見たかった鳳月杏はこれじゃなかったな。というのが正直な感想だった。
鳳月杏の魅力って渋さとか言葉にしなくても漂う色気とか胸の痛みとかであって、何かこう、もっとオールドトラディショナルな役が似合うんだよな、と。
「デジタルマジカルミュージカル」の副題の時点で察しましょう(笑)という指摘にはぐうの音も出ないし、覚悟はして行ったんだけど、幕末・天文方・文明開化・外国人居留地というめちゃめちゃ好みの時代設定だったので余計に・・・。
演出は谷貴也先生。
『アイラブアインシュタイン』も『義経妖狐夢幻桜』も見れていなかったので初観劇ではあったものの、東大卒の経歴がよく目立っていたので以前から存じ上げていた。
在学中、劇団を旗揚げし、まあまあな人気を誇っていたものの、宝塚座付演出家を選択し今に至る。大劇場デビュー目前といったところか。
野田秀樹かよ!という感じの経歴だし、作品も品行方正な宝塚ワールドの中では、若干野田よりという位置づけかな、と思った。
野田秀樹の作品も谷貴也の作品も振れ幅は違えど、中性的でぶっ壊れていて人間離れした登場人物を通して人間のなんたるかを描こうとしている気がする。
だけど、宝塚にそれって合っているだろうか?
女子ばかりで構成された宝塚という世界では、性差が誇張して表現される。
男役はより男らしく、娘役はより女らしく。
正直、フェミニストにいつ糾弾されてもおかしくないような作品を現在進行形で制作している劇団だと思うけれど、誤解を恐れずにいえば、私は宝塚のひと昔古いジェンダー感が好きだ。
失われていくものへの懐古趣味にすぎないのかもしれないけれど、どんなに男女平等が進もうが私たちの性差は本質的になくならない。
性差が存在する以上、それを描かないのは不自然だし、どうせ描くなら物語世界でくらい多少誇張してそのしがらみを美しく昇華させて欲しいとも思う。
話を元に戻すと、デジマワールドの住民は全員が性別のない宇宙人に見えた。見かけの男女差はあるけれど、彼らに本質的な性差はないのではないかと。
鳳月杏はそんな宇宙人ワールドの中でも異彩を放っていた。
谷貴也もチャランポランな世界観と見せかけてめちゃくちゃ時代考証をした上であえて外すというオシャレなシナリオ手法をつかていた。けれども・・・
私はオールドトラディショナルで渋みがある男の中の男、鳳月杏が見たかった。
それだけだ。
一方、芝居の後のショー、中でも月光の黒燕尾はTHE OLD TRADITHONAL という感じで、ここにきてやっと、私の見たかった鳳月杏はこれだ!!と感涙した。
ただもう、めちゃめちゃかっこいいし、ダンスが売りの暁千星の隣で踊ってこの存在感ということに改めて鳳月杏のずば抜けた才能とオーラを感じ圧倒された。
今日は全然文章がまとまらない。
寝不足が祟っているせいかもしれないしい、デジマの消化不良のせいかもしれない。
ごめん、ちなつさん。初めてあなたについて書くのに、こんなとっちらかった文章になってしまって悲しい。
早いところ、『春の雪』『月雲の皇子』『金色の砂漠』について文章化しよう・・・。
本当に好きな作品にじっくり時間をかけて向き合うことが、いまの自分には必要な気がする。
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