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屋上の端のベンチ


母さんの煮込みの香りが漂っている。

あ〜。朝飯。いいね。朝飯がこれだったら。いいと思う。

完璧に母さんになりきれたね。

アサミも喜ぶだろう。

机に煮込みを、用意して

学校へいく準備をする。

ってか、今日絶対寒いよなぁ。でもタイツ買ってないしなぁ。

カーディガンでも羽織ってくか…。雪ももうないし。


秋風が冷たい。

雪解けで、土の香りがする。

「ひゃあ〜〜〜〜もう、ダメだ。これは」

家に戻って、ジャケットを着てマフラーをした。

マフラークリーニングだしてないな。これは。

家のタンスのにおいがする。

小さい頃を思い出した。

いつも誕生日は、誰かが祝ってくれていた。

友達、アサミ、学校で…とか。

誕生日が好きだった。

はじめてだ。誕生日に何もなかったのは。

子供みたいなこというけど…。

これから、生きて行くと

誕生日だってクリスマスだって、お正月だって

あんまり特別じゃなくなってしまうんだろう。

秋になったって、冬になったって、

季節の変化も、特別ではなくなってしまうんだろう。


もう、屋上は寒いよなぁ。

屋上にあるベンチに、ブランケットをかけてすわる。

隣の学校のチャイムが鳴った。

これは、2時間目のチャイム。多分。

アタシはいつも屋上で、本を読んだりゲームをしたりしている。

うちの学校は、決まりがない。

なにをしてもいい。というか、学校なのかもわからない。

ただ、屋上だけには入っては行けない。と

張り紙と鍵がされている。

アタシは、入学してそうそうそれが気になって気になって仕方がなく

どうやってでも、ここに行きたいと思って

試行錯誤し続け、ようやっと1年たって最近

ドアをあけることができる鍵を作ることに成功した。

2年になってから、入ってきた後輩の

さわたんが、いつも昼飯の競争率の高いパンを

頼んでもいないのに買ってきてくれるもんだから

愛着がわいて、この子だけ屋上にいれてあげている。


そんな中、屋上生活3日目の昨日

つい下を見たら、あんなことになった。

裏庭にでるのは2回目。

屋上からではなく、1階の音楽室からでることができることを

1年のときに知ってでてみたことがある。

そのときに、隣の高校と繋がっていることをしった。

あっちの高校のやつらは、こっちに近寄らないけど

うちの連中は、裏庭ブームが起きて

しょっちゅう、隣の高校に遊びにいっていたんだけど

ある事件がおきてからは、誰も寄り付かなくなった。


アタシは、一回一度だけ隣の高校に遊びに行った事がある。

校舎に近づくと、非常階段よりに小さな窓があった。

その窓が空いていて、人の影が見えた。

窓の大きさ的には、人が入れそうなサイズではない。

室内は広いけど、窓が小さいだけ?

窓が小さいってどんな需要があるんだ?

そもそも、地面に面した小さい窓って、地下なのか?

だんだん、興味がわいてそこに行きたいと思うようになっていたが

窓が小さすぎるので、入ることを諦めた。


いつも、気にかけてはいたが

昨日の裏庭にいためがねちゃんのことを思い出すたび

あの小さな窓が気になった。


アタシは、非常階段をおりて裏庭にでた。

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