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全日本選手権CP男子日本チャンピオン:佐々木淳二選手インタビュー
スタジアムに繰り返し響き渡る「10点!」のコールに、観客のどよめきが大きくなる。佐々木淳二選手は今もっとも期待のかかるコンパウンドアーチャーのひとりだ。彼の繰るコンパウンドボウの圧倒的な精度にその場の全員が釘付けになるなか、佐々木選手はその日2度目の日本タイ記録で2020年度の日本チャンピオンの座を射止めた。佐々木選手はDynasty Archeryのフィールドプレイヤーであるとともに、同社のアートディレクターとしてなくてはならない人物。我々は全日本ターゲット選手権前日の彼を直撃し、インタビューに成功していた。そこで語られたこれまでの歩みや、大会にかける思いについて、優勝後のコメントとともに紹介する。
準備はすべてしてきました
今日は選手取材ということで、なにとぞよろしくお願いします
佐々木選手(以下同):よろしくお願いします。とは言え、Dynastyメンバーとはしょっちゅうしゃべってるので、改まってインタビューされると違和感がありますね(笑)
それはそうなんですけど、実は私、淳二さんの射ってる姿をちゃんと見るの初めてなんですよ。サマーシュート(弊社や佐々木選手ほか有志による全国大会)でも持ち場が離れてたので1回も試合見てませんでしたし
あれね(笑) そうそうあんな状況で射つことないですからね。次やるときはちゃんと前の晩に寝れるように色々終わらせときましょう(笑)
ともあれ、新型コロナウィルス感染症の影響を随所に受けつつも、今年も全日本ターゲット選手権が開催されます。どのような気持ちで今回の大会を迎えましたか?
前回の全日本ターゲットから1年。今日までにできる準備はすべてしてきたという自負があります。
昨年の大会は3位決定戦で負けて4位で終わったんですが、それが物凄く悔しくて。その翌日からトレーニングの量を大幅に増やしました。これまでは実射(シューティング練習)中心で基礎トレーニングの比重はそれほど大きくはなかったんですが、今年はコロナの影響で(アーチェリー場の閉鎖や大会の中止等で)射てないのもあって、トレーニング重視。割合としては実射とトレーニングが3:7くらいですね。
トレーニングを増やした理由は?
まだまだブラッシュアップが必要な部分もありますが、フォームに関しては自分のなかで「こうすればあたる」というのがかなり掴めてきました。今はそのフォームを1日を通して続けられるように、シューティング精度や持久力の向上に重きをおいています。身体ができてきたことで、大きな崩れが減り、点数も安定してきました。折しも弓を射てない期間ができたことで、より集中してトレーニングに専念できたと思います。
トレーニングはどんなメニューを?
自重とバランストレーニングがメインです。基本的にはそれしかやりません。懸垂と、腹筋・背筋、あと片足立ちとか。器具を自宅に置いて、仕事が終わってから毎日取り組んでいます。それ以外では早朝出勤前に近所でウォーキングをしています。
トーナメントが好き過ぎて思わずニヤけちゃうんです
その結果としての大活躍は雑誌や大会速報などで頻繁に目にしていました。50mラウンド(50m離れた的に72本の矢を射ち、720点満点中の合計点で勝敗を決する試合形式)は本当に強いですよね
でも僕としてはトーナメント(2人の選手が3本の矢を5回に分けて射ち、150点満点中の合計点で勝敗を決する、勝ち上がりの対戦形式)のほうが好きなんですよ。もともと、50mラウンドで今ほど点数が出ていない時期からトーナメントが得意で、トーナメントキラーなんて言われていました。楽しくて試合中ちょっとニヤニヤしてしまうほどです。とくに追い込まれたときなんかは燃えますね。
佐々木選手は50mラウンドの安定感が飛びぬけて高い(佐々木選手は700点の高得点をこれまで何度も記録し、第一回リモート大会では世界各国の選手を抑えて優勝している)ので、トーナメントのほうが得意というのは少し意外でした。コンパウンドのトーナメント形式の試合って、全国大会など本当に限られた大会でしかおこなわれませんよね?
そうですね。でもどちらかと言えば、50mラウンドで点数を出すことのほうが長いあいだの課題だったんですよ。50mラウンドで点数が安定してきたのはトレーニングを増やしたことと、メンタルコントロールが上達してきたことが結果に表れてきたのかなと思います。
試合はいつも緊張で震えが止まりませんでした
勝負で緊張はしないタイプですか?
いえ、緊張はします。以前だと、試合中は競技開始から3エンドくらいずっと緊張で手が震えてるような感じで、ひたすらじっと耐え忍んで落ち着くのを待っているような状態でした。緊張をコントロールできるようになってきたのは最近です。
その方法は?
緊張している自分を俯瞰で見るようにしています。メタ認知とか、スポーツ心理学の範疇になるかと思いますが、緊張している自分を客観的に認識することによって、感情をコントロールしています。適度な緊張はむしろ必要なものなので、自分が緊張しているのを感じたら「おっ、いい波がきたな」というふうに、緊張を肯定的に捉えてあげるのも大事です。
それに加えて、「本番で結果を出すにはやはり試合に出なければダメだ」という結論になって、昨年のある時期に10週連続で、計15試合くらいでしょうか、とにかく片っ端から各地の大会に申し込んで出場しました。それがかなり良い訓練になって、試合でも実力を発揮できることが増えてきたなと感じます。昨年は年間で少なくとも30試合以上出てましたね。関東は探しさえすれば、毎週どこかしらで大会をやっていますから。
休むくらいなら練習していたい
オフの日は何をして過ごすことが多いですか?
基本的にオフの日はないですね。仕事か練習か試合か、といった感じです。一時期趣味でサバイバルゲームをやっていたこともあるんですが、今年は全く行けていないですね。あまりに毎日忙しすぎて手が回らなくて………。
それは確実に私たちにも原因の一端がありますね……(佐々木選手は9月におこなわれた全国大会「サマーシュート」実行委員会の中心メンバー。波乱に満ちた舞台裏についてはこちら)
それは……まあそうですね(笑) でもヒマがあるのであれば練習の時間にあてたいです。
たくさん練習しないと不安ですか?
以前はそうでした。今はトレーニング中心になって、自分の射ち方もわかってきたので、それほどではないですね。
ずっとコンパウンドだけ。リカーブはほとんど射ったことないです
アーチェリーを始めたのは社会人になってからだと聞きました。きっかけは何だったのでしょうか?
YouTubeを開いたら偶然海外のコンパウンドの試合映像が流れきて、「これはカッコいい!」と。すぐ地元のアーチェリー協会に行って、「コンパウンドってやつやらせてください!」と言って始めました。今は6年目くらいですね。
アーチェリーは最初からコンパウンドなんですね。初心者教室の数も多いリカーブボウと違ってコンパウンドボウはレンタルの弓もなさそうですけど、弓は入門と同時に購入したんですか?
基本的には最初からコンパウンドだけで、リカーブは射ったことがないです。リカーブは初心者教室で数回射ちましたが、競技としてはずっとコンパウンドメインです。(地元の)札幌協会の指導員の方がコンパウンドボウを複数もっていらっしゃって、そのなかから一台お借りして練習していました。射ちかたや弓の扱いかたについても、その指導員の方から教わりました。
その後の上達は順調でしたか?
おおむねそうですね。札幌は練習の環境が(現在住んでいる)東京よりも良くて24時間射てる射場があったので、そこで毎日練習していました。
24時間開放されているアーチェリー場は珍しいですね
畑のなかに脚と畳が置いてあるだけ、みたいなとこですけど(笑) 北海道に住んでいたころは、朝5時に起きてそこで練習してから会社へ行く生活を3年ほど続けていました。アーチェリーを始めてから1年経ったくらいの全日本室内で初めて全国大会に出て、その年の全日本ターゲットも出場しました。それからは、仕事の都合がつかない場合を除いて全日本クラスの大会にはすべて出場しています。インドアや社会人大会は出場しなかった年もありますが、全日本ターゲットに関しては毎年必ず出場しています。
憧れや目標としている選手はいますか?
レオ・ワイルド選手(コンパウンドアーチェリー界のレジェンドで、現在も米国代表として活躍するトップ選手。これまで数多の世界記録を打ち立てた)ですね。僕とはあんまり射型は似てないんですけど(笑) 彼の力強くて勢いのある射ちかたが好きです。淡々と機械的に矢を射る選手が多いコンパウンドアーチャーのなかにあって、レオ・ワイルドの情熱的に攻めていくスタイルは見る人を魅了しますし、僕の目標でもあります。
国内では何と言っても山本悠太さん(渋谷アーチェリー所属。もともとリカーブのトップ選手だったが同社入社後コンパウンドに転向。多数の日本記録をもつ)ですね。彼は日本のコンパウンドアーチェリーの歴史上、最強の選手です。身体づくりから技術から、すごくストイックな方。選手としてだけでなく人間的にも本当に尊敬しています。
Dynasty Archeryのプロダクトについて
佐々木選手はDynasty Archeryのフィールドプレイヤーであると同時に、弊社から製品のテストやアドバイスをお願いするなど、日頃より弊社の活動にご協力をいただいています。今ご使用いただいているDynasty製品のなかでお気に入りはありますか?
今はS Noir WeightとBUMP KNOBのSyurikenモデルを使用しています。S Noir Weightはとにかく渋い黒に光る見た目が良いですよね。見るたびにテンションが上がります。BUMP KNOBは様々なバリエーションがあるなかでもSyurikenが僕のベスト。なだらかな側面の形状と、これまでの製品にはなかった独自のラバー加工のおかげで、ノブが指に吸い付くような感覚でホールディングできるのが完璧ですね。コンパウンド向けのDynastyプロダクトはまだまだ少ないのですが、近くDynasty初のコンパウンドスタビライザー、QUANTUMが発売予定ですので、そちらも皆さんとともに楽しみに待ちたいと思います。こうして刺激的なプロダクトに関わることができるのは、いち競技者としても光栄ですし、わくわくします。
大会に向けて
最後になりますが、今回の全日本ターゲット選手権大会の目標を教えてください
今回は優勝しか見てないので。優勝して帰ります。
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先述のインタビューから2日後、宣言通りに日本一を勝ち取り全日本チャンピオンに輝いた佐々木選手に今の気持ちを聞いた。
今は「ホッとした」というのが率直な気持ち
優勝おめでとうございます。本当に感動しました
佐々木(以下同):ありがとうございます。でも、あまり現実感がないです。もちろん嬉しいのですが、「本当に勝ったのかな?」という気持ちです。ストレスから解放されたので、ホッとしている気持ちのほうが強いのかもしれません。
ご自身としては何が勝因になったと思いますか?
ひとつは入念な準備をしてきたことです。もちろん完璧ではありませんが、技術・体力・メンタル・機材、全てにおいて、1年かけてじっくり詰めて準備してきました。
もうひとつは、本番で緊張を味方に付けることができたからだと思います。ほどよい緊張感を保ちながら集中して試合に臨めました。自分の感情を俯瞰的に見ることができていたと思います。実は予選中にリリーサーが故障するトラブルがあったのですが、動揺することなく冷静に試合を続行することができました。
日本一となりましたが、今後の目標については
日本代表となって国際大会で戦いたいです!
ファンや応援してくれた皆さんへ一言
色々な方に応援していただいて本当にパワーをもらいました。ありがとうございました。
全日本選手権を通して、佐々木淳二選手のインタビューを行わせていただきました。優しい笑顔の中に強い精神力、ブレない気持ちを持って戦っているとわかる、非常に貴重な機会をいただきました。世界を目標に見据え戦っていく佐々木淳二選手を、今後ともDynastyArcheryは応援していけたらと思います。