【ディラ研/ザバ研】27枚組聞き倒しマラソン その22:Disc 19
このディスクは、31日の2回目、つまり2日間で計3回行われたマディソン・スクエア・ガーデンの最終公演が収録されています。
しかし、これまたミステリアスなディスクで、まるで筆者への挑戦状のようです(自意識過剰)。
昔、『Beatleg』という月刊誌がありましたが、今でも存続していたら筆者がマラソンする必要もないのですが。。。
ま、誰に頼まれたわけでもなし、あくまで自分の意志で勝手に走り出したので、ボヤくのは止めて「孤独なランナー」を続けます。
さて、今回のセットリストはこちら。
上表を見て「え?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、先に結論を書いてしまうと、筆者の聞く限り、本盤の大半はサウンドボード録音で、最後の2曲(赤文字タイトル)だけがマルチトラック録音だと判定します。
ここから先は、どうやって録音したかに関する推理や専門用語の話になりますが、飛ばし読みされてきた方は「サウンドボード」や「マルチトラック」なんて言葉をご存じないかもしれません。
ド素人な説明ですが、録音方法に関する詳細を下記に載せていますので、もし興味のある方は参照ください。
さて、本盤の大半がサウンドボード録音だと判断した根拠は以下のとおり。
●冒頭から「シーッ」というヒスノイズが鳴る
●例によってシンバル類などの高音がうるさい
●Disc 17、18に比べて楽器の音量・音質・定位のバランスが悪い(特にドラムスのスネアが中央ではなく右に寄っている)
●演奏中は歓声が聞こえず、聞こえる箇所でも臨場感がない(歓声はヴォーカル用などのマイクが拾っただけだと思われるので)
●一部の曲に片側だけ一瞬音の欠けがある
繰り返しますが、最後の2曲だけはDisc 17、18と同等の音質で、上記の特徴に当てはまらないのです。これはどうしたことだろう?
各種のディラン本や『流れ者のブルース ザ・バンド』(バーニー・ホスキンズ:著、大栄出版)などでは、マディソン・スクエア・ガーデンの3公演はマルチトラックで録音されている、と記されているのですが、3公演の全曲を録音したわけではないのは、ほぼ間違いのないところだと思います。
加えて、これまでにも書いたとおり、
●録音したけど失敗した(音が割れた、機材の調子が悪かった、ディランがギターをちゃんとマイクの方に向けて弾いていなかった、など)
●長年の保管状態が悪くて、テープが損傷していた
などといった理由でマルチトラック録音が使えず、やむなくサウンドボード録音に差し替えたという可能性も考えられます。
サウンドボード録音の定位ですが、バランスを考慮していると思えないので、丁寧に録音するつもりがなかったのだと思います。詳細はだいたい以下のとおりです。
● ディランのヴォーカル、ハーモニカ、アコギ、エレキ:全部真ん中
● ザ・バンドのバック・コーラス:真ん中
● リックのベース:真ん中
● リヴォンのドラムス:バラバラ(スネアは右)
● リチャードのドラムス:真ん中に近い左
● ロビーのエレキ:左
● リチャードのアコピ:ほぼ真ん中
● リチャードのエレピ:右
● ガースのオルガンとシンセ・ストリングス:右
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Most Likely You Go Your Way (And I'll Go Mine)
ディランのエレキは基本的に真ん中から聞こえるのですが、イントロのジャカジャカの途中で右へ流れていきます(これ、前もあったような)。
おっと、気負いすぎたか出だしの「You」の音を外してしまいました。これも前からちょくちょくあったような気がしますが、やはり大会場で爆音をバックにすると、自分の声を把握するのもかなり難しいのでしょうか。歌の最中に外れることは滅多にないので(ディランの場合、何をもって音を外したというのか、議論の余地があるかもしれませんが)、その点はさすがだな、と。
Lay, Lady, Lay
イントロでディランがギターをジャカジャカさせながら「Great to be back in New York, and... it's a rare privilege to be here.(ニューヨークに戻れて最高で...ここに立つってのは滅多にない特権だよ。)」と話しています。
ガースのシンセ・ストリングスが目立つミックスになっています。
ディランは声を張り上げてはいるのですが、どこかしらお疲れ気味に感じます。
Just Like Tom Thumb Blues
2:20あたり、4番の
♪ Up on Housing Project Hill
のところで、右側だけちょっぴり音が欠けています。これはブートレッグCDで聞かれたのと同じ現象なので、コピーしたテープではなく元々の録音テープ自体に問題があるということになります。(逐一指摘しませんが、「Ballad Of Hollis Brown」などでも同様の現象があります。接続ケーブルに異常があったのでしょうか?)
Rainy Day Women # 12 & 35
平常運転です。
It Ain't Me, Babe
ギターのジャカジャカなしで、いきなり歌い出します。それ以外は平常運転です。
Ballad Of A Thin Man
ドラムスを変な定位にしてあるのでややこしいのですが、出だしのタムタムによるフィル(0:08~0:09)と続くライド・シンバルは真ん中から聞こえてきますが、リヴォンが叩いていると思います。キモとなる右から聞こえるスネアもリヴォンです。
左寄りの目立たないスネアがリチャードだと思われるのですが、この曲は結構息が合っています。きっと3連モノに強いんでしょう。
対してディランのアコピがえらいラフです。ディラン以外の人がMSGのステージでこんなピアノ弾いたら怒られると思う。。。
All Along The Watchtower
1番の途中から始まります。テープ交換に失敗したんでしょうか。
演奏自体は平常運転かと。
Ballad Of Hollis Brown
気になるツイン・ドラムスですが、この曲ではリチャードのスネアが左から聞こえるので、2人のスネア打ちが分かりやすいです。「Ballad Of A Thin Man」もこんな風に振り分けてくれたらよかったのに。
Knockin' On Heaven's Door
リチャードのエレピが聞こえないミックスでした。
「Thank You. We'll be right back.(「ありがとう。すぐ戻るから」)」というMCは定番になりました。
The Times They Are A-Changin'
平常運転です。
Don't Think Twice, It's All Right
平常運転です。
Gates Of Eden
ディラン、初心に返る!
個人的には今日のソロ・コーナーのハイライト曲です。
数時間前のステージまでは、あれだけフリーなテンポとリズムで弾き語っていたのに、ここにきてかなりちゃんとした3拍子で演奏しています。
「ちょっとフリーダムすぎるんとちゃう?」と、フィル・ラモーンか誰かに指摘されたのでしょうか?
得意の「ブロホホホー」もなしで、ワルツのリズムに乗りながらも心なしかふてくされて歌っているように聞こえるのが可笑しいです。
Just Like A Woman
しかし、こっちは全然普通の4拍子になりません。ところどころ1拍抜いてしまうジミー・リード的な変拍子ソングのままです。
曲が終わったら、6弦を下げる音が聞こえるので、ソロのコーナーも基本的にはずっと同じギターで演奏しているようですね。
It's Alright Ma (I'm Only Bleeding)
平常運転です。エンディングはジャカジャカジャ!と短く切る方でした。
Forever Young
これも平常運転と言っていいように思います。
Highway 61 Revisited
せっかくなので、もう一つ検証しておきたい問題があります。2005年に発売されたボックスセット『ザ・バンド・ボックス ミュージカル・ヒストリー』のDisc 5に収録されていた同曲のクレジットについてです。そちらのブックレットでは下のように記載されていました。
録音日欄に「January 31」「evening show」とあることから、31日の2回目公演からの抜粋ということになります。つまり本盤と同一音源ということなんですが。。。
一方、27枚組の英文ブックレットを見ると、
おや、Afternoonつまり1回目の方が該当ヴァージョンである、と。
そうですか。食い違っているのなら、どっちが正解か自分の耳で確認してみることにしましょう。
久しぶりに参考資料を3つ用意します。いずれも1番の
♪ God say "No," Abe say "What?"
以降、30秒程度の抜き出しになります。興味のある方はどうぞ。
参考資料1は、『ザ・バンド・ボックス ミュージカル・ヒストリー』収録ヴァージョンです。
次の参考資料2は、31日のAfternoonつまり1回目(=Disc 18)から。
最後の参考資料3は、同日Eveningつまり2回目(=Disc 19)からです。
特に「Abe say "What?"」の「ワット?」の部分に注意してみてください。
参考資料1と3は「What?」の声が跳ねあがっていますが(まさに「えっ?」という感じ)、2だけ抑揚がありません。
以降の部分を聞き比べても分かるとおり、1と3がまったく同じに聞こえますので、『ザ・バンド・ボックス ~』と同じ音源は31日の2回目であると断定したく思います。
ということは、20年近く前に他社が出した『ザ・バンド・ボックス ~』のクレジットが正しく、自社が今年(2024年)出した27枚組の英文ブックレットが間違いという結論になりました。どういうこっちゃ???
ただし、『ザ・バンド・ボックス ~』のクレジットにも別の疑問点があって、リチャードはエレピとなっていますが、筆者はドラムスを叩いていると思います。27枚組をお持ちでない方は、参考資料1または3をよ~く聞いてみてください。左右からそれぞれ聞こえるドラムスに違いやズレがあることが分かりますでしょうか?
甚だついでながら、その20(Disc 17)で紹介したブートレッグ『Before And After The Flood』も前半こそ31日2回目ですが、後半は別音源にすり替えられていることが今回の検証で分かりました。面倒くせぇ~。
Like A Rolling Stone
4番つまり最後のコーラス部分に入る前、リックが「フゥ!」とマイケル・ジャクソンばりに奇声を上げます。ここんところずっと聞こえるのですが、筆者はこれを「このコーラス部分を歌い終わったらエンディングに行くからな」という合図だと見ます。プレイヤーによってはヴァース部分の歌詞を聞いてなくて、今何番だったか分からなくなる人も多い(以前、「It Ain't Me, Babe」でありました)ので、ハイライト曲でしくじらないようサインを出しているのではないでしょうか?
Most Likely You Go Your Way (And I'll Go Mine)
ここからマルチトラック録音に変わります。なぜラスト2曲だけなのか?は関係者が自発的に答えてくれない限り謎のままですので、これ以上追求しないことにします。
Blowin' In The Wind
リヴォンが小ワザを見せます。
30日(Disc 17)の初演(ディランのソロを除く)では均等なビートで叩いていたのですが、今回はスウィング・フィールというか少しハネたノリになっています。筆者も今ツアーでこの曲の伴奏をするならこちらの方が好みです。リヴォン、ナイス!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次なる公演地へ向かうため、数日間滞在したプラザ・ホテルをチェックアウトしたディランとザ・バンドでしたが、前述の『流れ者のブルース ザ・バンド』を読むと、ホテルで騒いだ時にやらかしたのか、リチャードが右手を負傷しています。最初は本人も捻挫と思い込んでいたらしいですが、2~3か月して鍼灸師に見てもらうと、骨折していた、と。(笑)
次のディスクは一気に2月9日まで飛んでしまうので、次のライヴでちゃんとプレイできたのかも非常に気になるところですが、とりあえずは「次のディスクではどうなのか」を聞いてみたいと思います。