【ディラ研/ザバ研】27枚組聞き倒しマラソン その0:スタート編の補足
各ディスクの感想をまとめていると、スタート編で書いておけばよかったと思ったことがいくつか出てきました。本編に入る前に補足事項としてまとめておきます。
ただし、後半の録音方法についての話は相当にディープな世界なので、本当に興味がある人だけどうぞ。興味のない方は、★★★の段落区切り以降はスルーしてください。
もし27枚組の最初の方のディスクを聞いて「なんでこんなに音が悪いんだ?」と思った方がいれば、ひょっとしたら後半を一読する価値があるかもしれません。
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ディランの曲を演奏する際の各担当楽器は以下のとおりです。
また、以降はフルで書くのを避けたいので、略語を使用します。
ボブ・ディラン(以降の表記「ディラン」):
●ザ・バンドと一緒の時はエレクトリック・ギター(以降「エレキ」)
●弾き語りの時はアコースティック・ギター(以降「アコギ」)
●ハーモニカ
●「Ballad Of Thin Man」のみアコースティック・ピアノ(以降「アコピ」)
リック・ダンコ(以降「リック」):
●エレクトリック・ベース(以降「ベース」)
リヴォン・ヘルム(以降「リヴォン」):
●ドラムス
ガース・ハドソン(以降「ガース」):
●キーボード全般(リチャードのパート以外)
リチャード・マニュエル(以降「リチャード」):
●エレクトリック・ピアノ(以降「エレピ」)
●アコースティック・ピアノ(以降「アコピ」)
●ドラムス
ロビー・ロバートソン(以降「ロビー」):
●エレクトリック・ギター(以降「エレキ」)
ザ・バンドの曲を演る時はもっと楽器を持ち替えているのですが、ディラン曲についてはこれでほぼ網羅できているのではないかと思います。
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ここから先は興味のある方だけどうぞ。
27枚組の録音方法についても、ここで書いておきましょう。
(筆者はプロではなく現場体験もないので、以降の説明には推測なども含まれています。一部、事実誤認があるかもしれません。ややこしい箇所は注番号を入れ、最後にまとめました。)
この時期のライヴ録音といえば、主に
●オーディエンス(による)録音
●マルチトラック録音
●サウンドボード録音
などがあります。
27枚組にはオーディエンス録音は含まれていない、とブックレットに記載がありますので、これについては割愛します。したがって、各ディスクの音はマルチトラックかサウンドボードのどちらかの方法で録音されており、それはライブの日付によって異なるということになります。(注1)
マルチトラック録音というのは、27枚組でいえば16トラックの専用テープレコーダーに録音することを言います。(注2)
各音の音量や音質の調整は録音トラックごとに可能です。したがって、16種類の音を各トラックに分離して録音すれば、後から16種個別で調整したり、削除したり、差し替えたりできます。もちろん、節約して無音トラックを残しておけば、後で音を追加(オーヴァーダビング)することもできます。
1974年ツアーの場合、
●歌う人はガースを除いた5人なので、ヴォーカルマイクは最低5本
●ピアノに最低1本、ドラムス2台に各3本、ディランのアコギに1本
●ディランとロビーのエレキ用アンプに各1本
●リチャードのエレピ用アンプに1本
●ガースのキーボード用アンプに最低1本
と想定すると、少なく見積もっても計17本のマイクを使用します。(注3)
それぞれのマイクが拾った音をミキサーという機材に通して音量やバランスなどを調整するわけですが、混ぜて1種類に集約した音(=モノラル)をテープレコーダーに録音すると、後から調整できるのは混ぜた音全体の音量と音質だけになります。単体の補正はできません。(注4)
一方、16トラックもあるレコーダーを使用すると、歌や楽器を分離して録音できるので、個別の調整ができるようになるわけです。しかし、専用のテープや機材のコストがかかるので、ライヴアルバムを制作するという企画がある場合のみ録音します。(注5)
一方、サウンドボード録音は普通ミキサーから会場のスピーカーに流す音声と同じものを録音したものになると思われます。
録音機材の仕様を考慮すると、当時のオーディエンス録音より楽器などもよく聞こえるのですが、なにせ会場に流す音量バランスや音質になっているので、会場によって「歓声がほとんど聞こえない」とか「全体的に音質がキンキンしてる」みたいな録音状態になりがちです。ブックレットにも言い訳が書かれていますが、サウンドボード録音の目的の多くは演者のチェック用なので、これで十分だったのでしょう。
ここまで文章にしていて筆者自身がピンとこないので、想像図を描いてみました。
う~む、どう見てもマスターピースとは呼べない絵で恐縮です。今後はAI作成も検討しますのでお許しを。
エレキものなどアンプから出てる音をマイクで拾う場合だと、アンプからの直接音とミキサー経由でスピーカーから出る音が足されることになるので、ヴォーカルよりデカい音になるのは当然です。
サウンドボード録音では、たいていヴォーカルやアンプなしの生楽器類の音が大きめになっていることが多いのですが、それはミキサー側でそれらのツマミを上げているのがそのまま反映されるからだと思われます。(しまった、上の絵では適当に描いちゃってますが。)
ただ気になるのは、27枚組にも含まれているのですが、楽器ごとに左右が割り振られているステレオ・サウンドボード録音です。ライヴ会場のどこに座っても、なるべく同じように聞こえる必要があるため、少なくとも当時はミックスした音声をモノラルで出力してたと思うのですが、当時から既に会場もステレオ音声で出力してたということなんでしょうか? あるいは上記説明は間違っている(もしくは何かが抜けている)のか? いや待てよ、映画の音響効果でセンサラウンド方式など色々出てきたのもこの頃だよなあ。。。
こんな調子で書いていると、いつまでたっても本編に入れませんね。後はPAの専門家におまかせして、筆者はこれくらいにします。
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(注1)
マルチトラックとサウンドボードの両方で録音されたライヴもありそうですが、その場合はもちろんマルチトラック録音の方が採用されていると思います。
例外はマルチトラック録音が失敗している曲です。1966年ツアーを収録したCDで、ところどころ録音失敗箇所をツギハギしています。
(注2)
トラックのことをチャンネルという人もいます。「16トラック」、「16チャンネル」、それを略した「16チャン」、どれも同義語と考えて問題ないと思います。
本投稿ではトラックで統一します。
(注3)
もちろん録音トラックよりマイクの数の方が多い場合は、ミキサーで集約する必要があります。
たとえば16トラックレコーダーで録音するのに使用マイクが17本なら、そのうち2本を混ぜて計16種類の出力にしてからレコーダーに送ります。
(注4)
以前はそうだったのですが、現在はテクノロジーの進化で無理やりなトラック分離や単体補正もかなりのレベルまでできるようになりました。こうした発掘ものでどこまで元音をいじるかは、予算との兼ね合いになってきます。
(注5)
例外として、アーティスト側が自腹で録音してもらうというケースや、たまたま機材チェックのためテスト録音するといったケースなどがあります。