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【ディラ研/ザバ研】27枚組聞き倒しマラソン その0:スタート編
さて、問題の27枚組、遅かれ早かれ全部聞くとは思いますが、どこまで投稿できるかは不明です。自信はまったくありません。
ともかく、やれるだけやってみようと思います。
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本題に入る前にお断りをいくつか。
今回の27枚組CDボックスの発売にあたって、ソニーはこちらにも『偉大なる復活』の名前を入れちゃったのですが、本記事内でタイトルを引用する際に長くなるだけでなく、元々あった2枚組との区別がしにくいです。
本記事では「27枚組(の方)」「2枚組(の方)」という書き方にしようと思います。
27枚組を買う人は、
・ディラン/ザ・バンドのアルバムはほぼ聞いている
・彼らの映画(『ラスト・ワルツ』など)を見たことがある
・ブートレッグ(シリーズではなく、本物のブート)にも多少手を出している
と思われますので、それ前提で書きます。
まさかとは思いますが、これまでディランやザ・バンドをあんまり聞いたことがないような人が、いきなり27枚組に手を出すと危険です。まずは2枚組を聞きこみましょう。
また、「カラオケで高得点を出す人が歌のうまい人」とか「テンポ、チューニング、演奏技術は正確であるべき」のように考える方々にも向かないかもしれません。
この27枚組を別ジャンルの音楽リスナーの耳で聞くと、今時の高校生の軽音部員よりヘタ?と思えるような演奏も出てきます。万一違和感しか感じられない場合、それでも頑張って聞き続けるのも結構かと思いますが、「今の自分には合っていないのかも」と思って、当面は無理せず好みのものを探す(そして何かの機会に聞き直す)のもまた一案です。くれぐれも「伝説の」とか「オーラが」みたいな言葉に引きずられて、自分自身の感性を欺かないでほしいです。
27枚組に収録されている演奏は、それくらいギリギリの世界だと思います。しかし、本当に本当に様々な意味で「アメリカの1974年の始めという時期をハリボテや化粧抜きで表現している録音」だとも感じます。
ディラン自身は1966年ツアーの騒動で大なり小なりトラウマを抱えていたため、初日のシカゴで観客がライターの火を灯しているのを見て、会場に火をつける気ではと考えたそうですが、おそらく彼はアメリカンジョークを披露したわけではないでしょう。
以上、余計なおせっかいと余談でした。
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雑誌などに載るレビューは、どうしても1974年当時の彼ら自身やロックシーンの状況などを主軸にしたものが多くなると思います。そういった文章を読みたい方はそちらを参照いただくとして、筆者は「リチャード・マニュエルを探せ!」をメインにして、パフォーマンス自体に焦点を当てるべくCDを聞き倒したいと思います。
せっかく大枚はたいて買ったんだから、元はとらなきゃね。(大阪人的な発想)
ポール・ウィリアムズが生きていたら、きっと『真実の轍』の全面改訂・増補版を考えただろうと思いますので、筆者は何もせず読者側にまわればよかったはずですが、つくづく残念です。
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さて、上記の「リチャード・マニュエルを探せ!」とはどういう意味なのか?
彼はザ・バンドのピアノ弾きですが、1966年のディランとのツアーで「Ballad Of A Thin Man」を演る時はディラン本人がピアノを弾くので、この曲だけ舞台からはけてました。
しかし、1974年ツアーではもう少し選択肢が広がったようなので、リチャードの動きを知るには、まず彼が弾いていた楽器を把握しておく必要がありそうです。
27枚組に掲載されている写真は全部バリー・ファインスタインによるものですが、彼は舞台の上手(客席から向かって右側)から撮影したものが多く、下手にいるリチャードがあまり写っていないのが残念!
まず、リチャードがメインで弾いていたピアノであるスタインウェイ製のベイビー・グランドについては、リトル・フィートのビル・ペイン(今はドゥービー・ブラザーズと掛け持ちしてるのかな?)が「どこで買ったか」から「今どこにあるのか」まで綿密に調査してアップしています。
英語ですが、下記にリンクを張っておきます。
https://billpaynecreative.com/writing/richard-manuel/
次に映画『ラスト・ワルツ』の「The Shape I'm In」をご覧になった方は、リチャードが客席の方を向いて小さい電子ピアノを弾きながらリード・ヴォーカルをとるシーンを記憶されているかと思います。
1974年ツアーでも同様のセッティングだったようで、下の写真は27枚組の英文ブックレットからです。弾いているのがピアノで、後ろに見えているのが電子ピアノです。
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もう1枚、「Ballad Of Thin Man」でピアノを弾くディランの写真がDisc 7のCD入れに使われています。
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多くの写真にメーカーロゴが写っているため、ブルースハープでお馴染みホーナー製のエレピで間違いないですが、さらに調べたところ、どうやらピアネットというモデルのようです。
ビートルズの映画『ヘルプ!』の「ザ・ナイト・ビフォア」でジョン・レノンが弾いていたのと同じです。
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ただ、ザ・バンドのキーボード弾きといえばやはりガース・ハドソンなわけで、リチャードのエレピ音を聞き分ける自信はまったくありません。。。
ちなみにガースは、有名なピッチベンドを付けたロウリー製オルガン、クラヴィネット、新たに導入したシンセサイザー(1974年だとRMIもローランドもヤマハもまだ使ってないと思うので、ムーグ製?)などを弾いていたと思われます。
話をリチャードに戻して、ライヴで弾いていた鍵盤はおそらくこの2種類だけで、あとはドラムスでしょうか。
映画『ラスト・ワルツ』の「Mystery Train」でリヴォンとツイン・ドラムスを披露しています。
ザ・バンドの曲でリヴォンがマンドリンやギターを弾く時に、代わってリチャードがドラムスを叩くのですが、1974年ツアーでは上記のツイン・ドラムス編成を結構やってたようなのです。前年のリハで練習したのかもしれません。
整理すると、
1.生ピアノ
2.エレピ
3.ドラムス
4.何もせずじっとしている、あるいは舞台からはける
のいずれかになりそうです。
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最後にもう1点、27枚組のライナーをエリザベス・ネルソンという人が書いているのですが、正直、PPMの「Blowin' In The Wind」を「イージー・リスニング・カバー」と評しているのは、「ちょっと待ちねぇ、ムーンドッグ・マチネー」((c) 忌野清志郎)と言いたいです。
PPM版「Blowin' In The Wind」についての筆者の意見は、オトガタ名義で下記に書きました。
しかし、74年のサウンドシステムについて言及している点は大いに賛同できるので、「イージー・リスニング・カバー」の件については許してあげましょう。(笑)
ディランはともかく、ザ・バンドの3人しかり、ジョージ・ハリスンしかり、CSN&Yしかり、74年にツアーに出たロックシンガーがことごとく喉をつぶしているのは偶然なのか?
(レッド・ツェッペリンのロバート・プラントは1972年頃からの症状なので、上記に当てはまらないかも)
もちろん、ロックスター然としたライフスタイル(飲みすぎ、吸いすぎ、打ちすぎ)とか、ライヴの長時間化や1日2回公演の増加による影響も大きいのでしょうが、74年に大会場に対応したサウンドシステムも多いに関係しているのでは?という可能性を考えてしまうわけです。
アンプやスピーカーの発達で、楽器の音量大幅アップは可能になりましたが、ヴォーカルおよびモニター側の発達がそれに追いついていなかったのではないか、と推測します。
単に筆者が調査不足なだけかもしれませんが、1974年の欧米のPA事情について書いた文献などがあれば、是非読んでみたいところです。
では、そろそろスタートです。