【ディラ研】これまでに出た日本版詩集の概要
2020年10月4日付で別のブログにアップしていたものを一部修正のうえ転載しました。
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今回はこれまで出た4種類の詩集についてまとめてみました。
初版:Words And Drawings
日本版は『ボブ・ディラン全詩集』として、1974年に晶文社から発売(販売期間が一番長い)
本の特徴としては、以下のとおりです。
●英語版と日本語版の2冊が箱に入って、分売不可の形で販売(この形式はソフトバンク・クリエイティブ刊『ボブ・ディラン全詩集 1962-2001』まで続く)
●ファースト・アルバムから『グレーテスト・ヒッツ第2集』収録の「川の流れを見つめて」「マスターピース」までの歌詞、およびディラン自身が正規に発表していなかった曲(他人がカヴァーしていたり、海賊盤で聞けたり、今まで誰も知らなかったり)の歌詞を、アルバムごとの章に分けて掲載(掲載されていない曲もあるので、本当は全詩集とは言えない)
●ディランによる挿絵(ペン画)と謝辞の日本語訳は日本語版のみに掲載(謝辞の原文は未掲載)
●日本語版の巻末に、主訳者である片桐ユズルによる素晴らしいあとがきを掲載
増補第2版:Lyrics, 1962-1985
日本版は『ボブ・ディラン全詩302篇』として、1993年に晶文社から発売
●上記初版に加え、『ビリー・ザ・キッド』から『エンパイヤ・バーレスク』収録曲およびそれらの時期に作られた曲までを追加掲載
●初版で漏れたと思しき詩を2点追加掲載
●ディランによるペン画は引き続き掲載されているが、謝辞は変更されて原文のまま日本語版のみに掲載
●ファーストとセカンドの章に割り振られていたオリジナルアルバム未収録曲の歌詞が、ほぼファーストの章へ移動
●地下室関連も数曲追加のうえ章ごと移動(以降の版でもウロウロするが、なぜか発売順となる『血の轍』と『欲望』の間には移動したことがない)
●『プラネット・ウェイヴズ』のジャケットノートは未掲載
●初版にあった「フォース・タイム・アラウンド」の痛恨の誤植は訂正(修正液のようなもので頑張って消した?)されるも、それ以外では間違ったままになっている箇所あり
●日本語版の巻末に、初版あとがきの転載と中山容による新たなあとがきを掲載
増補第3版:Lyrics 1962-2001
日本版は『ボブ・ディラン全詩集 1962-2001』として、2005年にソフトバンク・クリエイティブから発売
●増補第2版に加え、『ノックト・アウト・ローデッド』から『ラヴ・アンド・セフト』収録曲およびそれらの時期に作られた曲までを追加掲載
●増補第2版に掲載されていた、ヘレナ・スプリングスと共作した4曲は、なぜか削除
●「Lyrics」というタイトルに合わせるべく、第2版まであったペン画、詩、ジャケットノートも削除
●その代わり、各章(アルバム)扉に、直筆もしくはタイプされた歌詞原稿を掲載(ネタが少なかったのか、章の内容と一致していなかったり、別章と同じものを使いまわしたりしているページあり)
●フォント(活字)が変更された(おそらくこの版からDTPが導入され、歌詞がデジタルテキスト化された)
●「風に吹かれて」の2番と3番が入れ替わり、実際に歌われているとおりに変更
●増補第2版まで放置されていた(?)、「プア・ボーイ・ブルース」と「スパニッシュ・ハーレム・インシデント」の誤記がやっと修正
●増補第2版まで一部の歌詞にあった、各行末のカンマやピリオドをすべて削除
●日本語版の巻末に、新訳者(中川五郎)によるあとがきを掲載
増補第4版:Lyrics 1961-2012
日本版は『Lyrics 1961-1973』『Lyrics 1974-2012』の2分冊として、2020年に岩波書店から発売
●増補第3版に加え、『モダン・タイムズ』から『テンペスト』収録曲およびそれらの時期に作られた曲までを追加掲載
●本版では、日本語版と英語版に分けず、日英対訳形式となった
●上記理由により、原文歌詞のフォント(活字)は独自のものになっている
●1973年と1974年の間で分け、2冊別売りになった
●初のハードカバー本にして豪華な装丁、本のサイズはこれまでより小さくなって菊版(専門用語)に
●ディラン側の意向により、新訳者(佐藤良明)によるあとがきは本書未掲載(代わりとなる文章が岩波書店のサイトに掲載)
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その他、曲のタイトル変更、歌詞の手直し、曲順の変更、bobdylan.comとの統一問題、などいろいろあります。いろいろありすぎるので、その辺は機会があれば...
また、上記以外の歌詞集としては、2014年に『The Lyrics. (Since 1962)』という豪華本、2019年に『Bob Dylan Complete』という侮れないギターコード本も出ていまして、歌詞方面に熱心な方なら気になる本かと(どちらも洋書のみ)。
ただし、特に前者は超高額なので覚悟のほどを。また、類似書名が多いので(Amazon.co.jpでも試し読み機能で『Lyrics 1961-2012』が表示される時あり)、注文時などの事故に要注意です。
あとは、楽譜関係です。
昔の楽譜は歌詞のヴァリエーションが掲載されているものがいくつかあったのですが、最近はディラン側から「楽譜作成時も歌詞はオフィシャルどおり記載するように」というお達しが出ているらしく、2003年に出た『血の轍』の楽譜(洋書のみ)とかも、たとえば「彼女にあったらよろしくと」はアルバムに収録されたものではなく、2002年(つまり現行)リライト版の歌詞が掲載されています。
う~む、ここまで徹底するのもどうなんだろうと思いますが、まあ本人の意向なので仕方ない、という感じでしょうか。もしくは「『The Lyrics. (Since 1962)』を買え」とか。そんなぁ...