松田図書館 第四回
今回も独断と偏見で僕のお勧めの音源をご紹介していく松田図書館、
今回ご紹介したいのは兄弟ロックンロールデュオ、
The Paine BrothersのHonky Tonk Hell。
The Paine Brothersは実の兄弟であるBobby PaineとLarson Paineによるデュオ。
もしBrian Setzerファン、もしくはStray Catsファンの方でThe Paine Brothersの名前にピンと来た方はかなり鋭い人だと思う。
彼等は1988年に発表されたBrian Setzerの2ndソロアルバム「Live Nude Guitars」の全12曲中5曲のソングライティングに関わっており、
その後1984年に一旦解散していたStray Catsが1989年に再結成して発表した復活作の5thアルバム「Blast Off」に「Gina」という今でもライブでお馴染みの曲を提供、もう一曲「Rockabilly Rules」はStray Catsと共作、
そのまま1992年の7thアルバム「Choo Choo Hot Fish 」まで
80年代後半から90年代初頭の再結成Stray Cats全てのアルバムに関わった。
「Blast Off」以降に参加した内容は
6thアルバム「Let's Go Faster!」(1990)の1曲目「Cross of Love」にLarson Paineが参加、
7thアルバム「Choo Choo Hot Fish 」(1992)には前出の「Cross of Love」が再録、その他「Beautiful Blues」という曲をBrian Setzerと共作、
といった感じ。
ここまで読んでくれた人でStray Catsが好きな方はこの時点で彼等にちょっと興味が出てきた人もいるのではないだろうか。
僕自身、彼等を聞くきっかけはStray Catsに毎回楽曲提供をしている兄弟ソングライターの作品はどんなものなのだろうというところからだった。
ちなみにStray Catsは「Choo Choo Hot Fish」の後に「Original Cool 」(1993)というカバーアルバムを発表しているが、ここにはThe Paine Brothersは参加していない。
「じゃあ再結成Stray Catsの全てのアルバムに参加じゃないじゃないか!」
と言われてしまいそうだが、このアルバムは全曲カバーなのでオリジナルアルバムとは言い難い。
それなので再結成後のオリジナルアルバム全てに参加したと言っても語弊がないことはご了承頂きたい。
さて、では今回ご紹介する彼等のアルバム「Honky Tonk Hell」だが、
一言で言えばイナたいロックンロール満載のアルバムと言えるだろう。
Stray Catsとの関わりを意識してネオロカビリーを期待すると肩透かしを喰らうかもしれない。
実は僕もこのアルバムを購入した当時は正にそんな感じで、Larson Paineが作曲に参加しているStray Catsの「Cross of Love」のクールでシリアスな雰囲気が大好きだったからそんな感じの音を期待して聞いたら、全然違う泥臭いサウンドでいまいちハマれなかった。
その頃僕はまだ20代半ばだったし、今ほど色んな音楽を聞いていなかったので理解出来なかったのだろう、Stray Catsと比べると地味に感じでしまったのだ。
正直このアルバムは長い間、実家の僕の部屋のCD棚に眠っていた状態だったが何故かふと思い出し聞き直してみたら、いい具合のイナたさ満載の素晴らしいアルバムだということが分かった。
この「いい具合のイナたさ」を長い間理解出来ずに、ただ泥臭い、地味だと感じてしまったのだろう。
彼等の作る楽曲はStray Catsが得意とする独特の跳ねたネオロカビリー的リズムの曲は少なく、ノリのいい曲は跳ねていないリズムが多い。
跳ねている曲がないという訳ではないがブルース的なシャッフルのリズムを使っている印象だ。
アルバムを通してブルースとカントリーの要素が絶妙にブレンドされているが、ややブルースの要素の方が多いように個人的には感じる。
逆にBrian Setzerはブルース的な曲をやってもあまりブルージーな雰囲気は出ない気がするので彼の2nd「Live Nude Guitars」を作る時にその要素が欲しかったのかなとか想像してみると面白い。
その「Live Nude Guitars」にはこの「Honky Tonk Hell」にも収録されている
「She Think's I'm Trash」、「So Young, So Bad…So What?」、「Rebelene」の3曲が提供されている。
どちらのヴァージョンもそれぞれの良さがあり甲乙つけ難い出来だが、
この3曲の内「So Young, So Bad…So What?」では明確に違いが出ているのでちょっと聞き比べて頂きたい。
どっちも違った魅力があると思うが、この2つのヴァージョンを聞き比べると前述の「Stray Catsをイメージすると肩透かしを喰らう」といった意味が分かって頂けると思う。
逆にThe Paine Brothersのこういったイナたさを最初から求めていたら一発で気に入ってもらえるだろう。
The Paine Brothersの作品はDiscogsで調べてみると、今回ご紹介している
このアルバムと同名で最後に!マークが付いた「Honky Tonk Hell!」というアルバムが1989年に発表されている。
これは3曲違うだけであとは収録曲が一緒なので多分ヴァージョン違いなのだろうと思う。なぜ1992年版の方にその3曲を収録しなかったのかは分からないが・・・。
何にせよ彼等はアルバムを1枚しか出していない。
せっかく優れた作曲能力を持っているのにこれしかアルバムがないのは非常に残念だ。
2019年にStray Catsが再々結成を果たしたので、またThe Paine Brothers
が楽曲提供するなんていうのも熱い展開だと思うが、
個人的にはBrian Setzerとだけの方が相性がいいような気がするので、
The Paine Brothersと共同作業した楽曲でのソロアルバムなんかを作ってくれたら嬉しいのだが、かなり難しいだろうなぁ・・・。