赤ワイン
2つ年上の彼女は赤ワインが好きだった。
一人でボトルを開けてしまうほどに。
僕は口の中に残る渋みが嫌でワイン自体が苦手だった。
少しでも大人に見られたくて、
彼女が好きなものも自分の好きなものにしたくて
一人で赤ワインを飲み練習していた。
けれど、彼女とグラスを交わす機会は数回しかなく僕は別れを告げられた。
別れる前、彼女はワインセラーを手に入れた。
彼女はよく赤ワインを調べていた。
一本5〜6万程度のものだ。
収集癖がある彼女はお金がなくても買ってしまうんだろうとその様子を黙って眺めていた。
別れてから
「ワインより僕との思い出を増やしてほしかったな」と
どこにもやり場のない惨めな思いを押し殺した。
カベルネ・ソーヴィニヨン。アメリカ:ナパバレー。
今でも君が好きだった品種や産地、
赤ワインを飲むたび彼女を思い出し口の中に渋みが残る。