[8月第3週] DAOレポート Vol.32 |「最初から全面的な分散化を目指さなきゃ」という呪縛 政治の文献からも警告
*この記事は、TanéのTakeshi氏によるサポートのもと執筆されました。
イントロ
DAOの分散化とは、Binary(二者択一)ではなくSpectrum(分布)で見るべきと言われます。分散化とは0か1かの話ではなく、程度の問題という意味です。また、DAOには「段階的な分散化(Progressive Decentralization)」というコンセプトがあり、最初から「〇〇は分散化していないからダメ」と決めつけるべきではありません。むしろ、見せかけだけの分散化を拙速に進めることは、政治学の文献でも黄色信号だと指摘されています。
今回は、@RikaGoldberg によるTallyのMirrorへの寄稿記事「Dodging The Tyranny of Structurelessness in DAOs」を紹介していきたいと思います。
まず引用されている「The Tyranny of Structurelessness」(意訳: 「組織構成がないということの呪縛」)は、政治家学者であるJo Freemanによって1972年に書かれた、女性解放運動であるウーマン・リブについてのエッセイです。
DAOの分散化を無計画に進めた結果、本質的な仕事は何もしないのにただ声が大きいだけの個人によってDAOの運営が左右されてしまう・・・。そんな失敗をしているDAOは少なくありません。Jo Freemanは、structurelessness、つまり「組織構成が無い」という状態を成立させることはそもそも不可能であることを説きます。存在するのは、Formal(公式)な組織かInformal(非公式)な組織だけです。ここでは「DAOの分散化」を拙速な形で進めるDAOは、非公式な組織作りに終始してしまっていると捉えることができます。
非公式な組織では、誰でも参加を歓迎されます。しかし寛容になって参加者を受け入れすぎた結果、逆説的にうまくいかないことが世の中にはあるのです。非公式な組織で誕生するリーダーは、「本質的なこと」ができるからではなく「みんなから好かれるから」だとJo Freemanは分析します。また非公式な組織の対等によって、秘密裏にエリート集団が組織され、フォーラムでの議論が不健全(Toxic)になりがちといいます。
対照的にうまくいっているDAOは、ビジネスモデルやプロダクト、プロトコルを作り上げた後で、コミュニティを育てることに焦点を当てます。筆者は、トレジャリーをしっかり持っている上位のDAOは「公式でゆるい中央集権性」を持っている、とし、うまくいっている例としてArbitrum、Optimism、Uniswapを紹介します。公式組織は説明責任があり従業員は競争を勝ち抜いて面接で選ばれています。この点は、伝統的な企業の競争力の維持と同じ意味合いで、やはり重要なのです。
「呪縛」を解くための方法
筆者は、DAOのあるべき姿と多くの人が想像しているであろう「組織構成がないということの呪縛」について、それをどのように避けるかについて、(1) 公式な組織構成 (2) 戦略 (3) 能力主義と多様性のバランス、の3つの軸を持つことで解決するべきと主張します。
成功するDAOとは、中央集権と分散化のバランスを見つけられるDAOと言えるかもしれません。そして、現在はどこの部分が中央集権的なのか、分散化に向けてどのような計画が用意されているか、DAOの中で認識されていることが重要でしょう。その点に関するコミュニケーションを、Foundationやコアチームといった中央集権的な組織はしっかり行う必要があります。
現状において「DAO=完全な分散化」であり全ての人の意見が平等に尊重されるべきという考えは、表面的には聞こえが良いかもしれませんが、それはJo Freemanの言う呪縛です。それが実際には生産的ではないことが政治学の研究から分かっているということを肝に銘じましょう。
注目のDAOトピック
🗞️ Nouns DAO 「DAOフォーク提案」を直前でキャンセル
v3アップグレードの一環としてDAOフォーク機能の導入が物議を呼んでいたが、投票締め切りの直前になって提案者が提案を取り下げたました。
理由は、攻撃に対する脆弱性が見つかったことです。
具体的には、「①攻撃者が20%のトークンを取得し、この時点ではフォークをしない ②全ての提案を拒否しトークンを買い続ける ③40%以上を取得した時点でフォークし、残りの20%を使って提案を拒否する。④ ①から③を繰り返す」が脆弱性と見られています。
dYdX グラントプログラムの担当者であるアレクシオスが、自身が運営に関わっているCryptohondosプロジェクトとdYdX グラントとの取引承認に関わっていた可能性が指摘されています。
上記は利益相反に当たり契約違反であり、グラントプログラムの担当から外されるべきだという声が、一部のコミュニティメンバーから出ています。
アレクシオス本人は、Cryptohondosと関わりがあったのは自身がグラントを担当する前だと釈明しています。
⚡Compound グラント(助成金)プログラムのアップデート提案
Questbookは、Compound Grants Program(CGP)2.0を更新し、2四半期にわたり3つの領域に970,000ドル(17,436.7 COMP相当)という予算で実施することを提案しています。
過去の実績とフィードバックを基にした資金の領域の再編成が含まれており、特に「Dappsおよび新しいプロトコルアイディア」領域に大きな部分が割り当てられています。
提案には、提案、レビュー、育成を担当する委員会メンバーの報酬構造も概説されており、2四半期の終了時に未配分の資金がトレジャリーに返還されることが明記されています。
⚡Aave ステールブルコインGHOのペッグ能力強化に関して提案
AAVEステールブルコインGHOのERC-20にラップされたバージョンであるwGHOを、Aave V3 Ethereumプール内で担保専用の資産として導入することを提案しています。
wGHOをUSDC、USDT、DAI、LUSDなどのステーブルコインを借りるための担保として利用できるようになり、GHOの価格がペッグ価格より低い場合の裁定取引やレバレッジポジションを促します。
提案では、wGHOの貸出対価値(LTV)比率を77%、供給上限を1000万とするなど具体的なパラメーターが概説されています。
この提案は、マーケットの原理によってGHOのペッグを維持する能力を強化することを目的としており、ガバナンスによって承認されれば、ユーザーインターフェイスはwGHOとGHOの違いを明確にすることが求められます
⚡Aave グラント(助成金)DAOのさらなる分散化をめぐり提案
この提案は、AaveグラントDAO(AGD)の更なる分散化を目指し、Grants LeadとReviewersのためのコミュニティ選挙プロセスを導入することで、AGDのAaveコミュニティへの説明責任と透明性を高めることを目的としています。
提案には、詳細な選挙プロセス、委員会メンバーへの報酬プランが述べられており、グラントの配分プロセスの透明性を向上させるための分散型助成金統合ツールであるQuestbookの採用が提案されています。
Questbookは、Aaveコミュニティが資金配分を監視し、説明責任を高めるとともに、申請者の匿名性を維持することを可能にします。
⚡Cosmos Hub さらなる資金的なサポートの必要性を訴える Interchain Foundationに対して
Cosmos HubがInterchain Foundationのビジョンである"Cosmosエコシステムを資金提供、管理し、責任を持って推進する"を変更するべきと提案しています。
変更案は、Cosmosの技術的側面が成熟してきたことから、"Atom経済圏を資金面でサポートし、管理し、責任を持って推進する"という文言を追加することです。
著者は、Cosmos Hubが'経済圏'へと移行する過程で、新たに台頭してくるアプリケーションの時代に適応しなければ、他のハブや経済圏に取り残される可能性に懸念を示しています。
Interchain Foundationに対して、Cosmos Hubやそれに接続されたチェーンと相乗効果を持つプロダクトに取り組むチームやチェーンを金銭的にサポートするよう、より大きな役割を果たすよう呼びかけています。
話題のTweet
要はキャラが違いすぎるということですねw この意味が分かるあなたは、かなりのDAO通かも!
トレジャリーデータ
DeepDAOによると、8月21日時点でDAOトレジャリーの総額は227億ドルと前週比で9.46%減少した。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が199億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が28億ドルだった。
ガバナンストークン保有者は720万人で、アクティブDAOユーザーは280万人だった。
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