【4月第1週】DAOレポート Vol.13
イントロ
Arbitrum(アービトラム)のガバナンスドタバタ劇はまだ終わらなそうだ。
先週お伝えした通り、アービトラム財団がDAOの承認を経ず「勝手に」DAO のトレジャリー資金を移動し一部を使っていたことから、DAOメンバーから批判が相次いだ。アービトラムほど期待を集めるプロジェクトのDAO化が失敗するとなれば、DAOという概念自体に対する不信感にもつながりかねないため、この問題は業界全体の問題として捉えられている。
アービトラムは、コミュニケーションの不備を認め、現在保持する7億ARBについてDAOの許可なく動かさないと宣言。同時に資金の使い道について透明性を高めると述べた。しかし、アービトラムDAOの一部メンバーは納得していない。4月7日、アービトラムDAOのメンバーが、アービトラム財団に対して7億ARBをDAOに返金することを提案。執筆時点で、返金に賛成が51.5%、反対が46.25%と賛成が上回っている。
DAOは単なる飾りに過ぎないのか?DAOについて「Governance Theater(ガバナンス劇場)」と揶揄する声も少なくない。DAOとは劇場であり、DAOのメンバーには台本通りに行動やセリフがあらかじめ割り当てられている。台本を書いているのは、中央のコアチームだ。DAOのメンバーは、重要な事項について決定権があると信じているが、実際のところは台本通りに演技をしているだけ、というわけだ。
今回のアービトラムDAOの騒動は、「ガバナンス劇場」感が露呈されてしまったとも言えるだろう。返金の提案者は、は7億ARBの返金について、「Symbolic Gesture (象徴的意思表示)」と認めている。アービトラム財団がオペレーション等に資金が必要な理由は分かるし反対しないが、結果は同じであってもまずは順序を正すために資金を返すべきだというわけだ。
しかし、筆者個人的には、アービトラム財団に悪意はなかったように思える。アービトラム財団に割り当てられた資金は他の財団に比べて少ない。コミュニティからの猛批判の後、信頼回復に努めていることも評価できる。どちらかといえば、ガバナンスに慣れていないアービトラム財団チームの純粋なミスと解釈できそうだ。また、新たな財団の修正案により7億ドルはDAOの承認が降りるまでロックされる状態であるとし、「返金は実質的に意味をなさず時間の無駄」とみるDAOメンバーも少なくない。
今回の教訓の一つにあげられることは、コミュニケーションの重要性もさることながら、「DAOは一日にしてならず」ということをコミュニティ全体に理解させることだろう。中央のコアチームが「最初は」影響力を持ってしまうことは、スピードや効率性の観点から避けられないことだ。ましてや、アービトラムには多くの競合チェーンがある。いきなりDAO化が難しいことを周知することが重要になるだろう。「Progressive Decentralization(段階的な分散化)」への理解が求められる。一方、コアチームは、現時点で「どの部分が中央集権的なままなのか」を明確に正直にコミュニティに伝えることが重要だろう。
DAOガバナンスに成功したプロジェクトはまだいない。DAOは、正解のない世界だ。アービトラムのDAOの結束がより強固になり復活することを願う。
今週のDAOニュース
【4月1日】Element Financeがリブランド 「DELV 」に名称変更
DeFiプロトコルのElement Financeが、DELVに名称変更した。
Element Protocolが分散化により、コミュニティ主導になってきていることが背景にある。
DELVは、「DeFiの工場」になると宣言し、Element Protocolを含むさまざまなサービスやプロダクトを提供すると述べた。
【4月4日】Euler、ハッキング被害額をすべて回収したと発表
DeFiプロトコルのEuler Labsは、交渉の結果、3月13日のハッキングで流出した資金をすべて回収したと発表した。
3月13日のハッキングでEulerは、2億ドル相当を流出していた。
今後、被害を受けたユーザーに対してどのように返金するのかについて、詳細を発表するとしている。
【4月7日】アービトラムDAO、アービトラム財団に対して7億ARBの返金を要請
アービトラムDAOの一部メンバーが、アービトラム財団に対して7億ARBをDAOに返金する提案を出した。投票終了日は4月14日で現在のところ返金に賛成が51.5%、反対が46.25%と拮抗している。
アービトラム財団は、DAOの承認を経ずに7億5000万ARBをオペレーション費用などの名目で移動し一部を既に使っていたことから、DAOメンバーから批判が相次いでいた。
DAOメンバーからは「DAOによって承認されていないすべての資金は返金されるべきであり、今後の割り当てはDAOによってのみ承認されるべきだ」と述べた。
【4月9日】Sushi Swapにハッキング攻撃 少なくとも4億円流出か
Sushi Swapがハッキングされ、少なくとも一人のユーザーから330万ドル(約4億円)が流出した。
RouterProcessor2 コントラクトにおける承認関連の部分でバグがあったという。悪意のあるコントラクトを承認することで、ユーザーは知らずに自身の資金を攻撃者に送ることを許可してしまう。
Sushi Swapの「ヘッドシェフ」であるジェレッド・グレイ氏は、すべてのチェーンを「Revoke(接続解除)」するように呼びかけた。
【4月9日】メタマスク、今年8月にコスモスをサポートか
メタマスク共同創業者のダン・フィンレイ氏が、今年8月にメタマスクがコスモスをサポートする見通しであるとTwitterで発言した。
コスモス系のJunoやEvmosなどのインフラを作るSkip Protocolのプロダクトトップであるサム・ハート氏が、「いつコスモスをサポートするのか?」とダン・フィンレイ氏にTwitterで聞いていた。
注目のプロポーザル
Lidoがトレジャリー管理における原理原則を作ること提案 | Proposal to approve Lido DAO Treasury Management Principles and authorize the formation of a Treasury Management Committee
提案/投票
イーサリアムステーキングサービス提供のLidoのDAOが、プロトコルの健全性やstETHの質を守るために、原理原則に基づくトレジャリー管理の必要性を主張。
提案には、トレジャリー管理の原理原則、トレジャリー管理委員会設立、トレジャリー管理戦略、トレジャリー管理行動規定の策定も含まれている。
背景には、先月のUSDCのデペッグを受けたステーブルコイン依存への懸念もある。 センティブ付きのデリゲートプログラム(3ヵ月お試し)[TEMP CHECK] Incentivized Delegate Campaign (3-month)
Aave インセンティブ付きのデリゲートプログラム(3ヵ月お試し)[TEMP CHECK] Incentivized Delegate Campaign (3-month)
提案/投票
DAOガバナンス専門のButterが、Aave DAOで3ヶ月のインセンティブ付きデリゲートプログラムを実施することを提案した。
選ばれたデリゲートは1万5000ドル相当のAAVEを受け取る。
エントリーしたデリゲートは13名。選ばれたデリゲートのパフォーマンスチェックはButterがDAOの信任を受けて実施する。
dYdX フォーラムをCommonwealthからDiscourseへ移行| Transitioning to 'Discourse'
Bankless DAOが、ガバナンス部門の設立を承認 | [V2] Establish and fund a Governance Department
HOPのDAO選挙における投票方法についてコメント募集 | RFC: Voting System Choice for Hop DAO Elections
提案/投票
イーサリアムとEVM互換のあるチェーンのブリッジであるHopのDAOが、今後の投票においてどのような投票システムを採用するのが良いか複数の選択肢の中から選択することを提案。Weightedが、96.24%の支持を獲得した。
投票システムの選択肢は、Single -Choice、Weighted、Approval、Quadratic、Ranked-choiceがあげられている。
提案者であるStableLabは、Weighted(加重平均)を推薦。例えば4人の候補者に25%ずつ投票を分配するというように、複数の候補者に対する自分の支持を定量化できることを理由にあげた。
話題のTweet
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データ振り返り
トレジャリー総額
DeepDAOによると、4月7日時点でDAOトレジャリーの総額は24億4000万ドル。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が212億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が35億ドルだった。 アクティブDAOユーザー数は、680万人、ガバナンストークン保有者数は、190万人だった。
オススメの読み物
「ガバナンス劇場 : アービトラムのAIP-1の教訓」Governance Theater: Lessons from AIP-1 by Stable Lab
アービトラム財団が、資金の使い道に関してDAOに提案を出す一方で、承認される前に既に自身のウォレットに資金を移して使っていたことが批判にさらされている。DAOの参加者は、重要な決定事項に大きな力を持つことができず、結局のところ中央組織によって書かれた台本に沿って演技をしなければならないのだろうか?Stable Labgが、アービトラムのAIP-1で学ぶべき教訓3つについて書いた。
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