[10月第3週] DAOレポート Vol.41 | dYdXとUniswap 運命の分かれ道? 手数料の徴収が「DAOへの裏切り」と批判される理由
先週、Uniswapの開発企業であるUniswap Labsが、一部のトークンスワップについて手数料0.15%を徴収すると発表した。この手数料が課せられるのはUniswap Labsが運営するサイト(uniswap.org)における取引に対してだ。株価の価値を上げることが最大の目標であるUniswap Labsが、今後の収益源の確保を目指しビジネスモデルを示すことは、一見、自然なことのように見える。しかし、この発表は賛否両論であり、中には「DAOへの裏切り」という声が出ている。
ちなみに、手数料を導入してから最初の24時間で稼いだ手数料は8万8000ドル。年換算すると3200万ドル(約48億円)だ。弱気相場におけるこの数字は、間違いなく素晴らしいだろう。
では、冒頭のdYdX創業者のアントニオの投稿の意図は何だろうか?
実は、現在のdYdXは完全に分散化していないハイブリッド型だ。メタマスクなどウォレットを使ってユーザーが自分自身で資産を管理できるという点では分散型だが、dYdXの要である取引板の管理はdYdX Trading社(UniswapのUniswap Labsに相当)という開発企業が担っており、取引手数料を売上として受け取っている。「dYdXが中央集権的な状況から始まっている」というのは、上記が理由だ。
しかし、まもなくローンチ予定のdYdXチェーン(v4)からdYdXは、完全な分散化への道を歩む。取引板は、dYdX Tradingではなく世界中に散らばるバリデーターによって管理される。そして、v4の手数料は、バリデーターとステーカーに分配される仕組みになる見込みだ。
そもそもdYdXトレーディングは、dYdXチェーンローンチ後、取引サイトの運営をしない。では、手数料収入がなくなってdYdXトレーディングはどうやって存続できるのか?以前にアントニオがツイートしたように、dYdXトレーディング社には5年ほどの貯金がある。
さらに、上記の動きを支える上で、dYdX Trading社は、法人格をパブリック・ベネフィット・コーポレーション(PBC)に変更すると発表。これにより、「dYdXトレーディングは、株主だけでなく、dYdXトレーディングのプロダクト・サービスに影響を受けるステークホルダーやWeb3コミュニティの関係者など、多くの利害関係者の利益をバランスさせること」ができるようになる。
対照的に、もともと手数料収入を受け取っていなかったUniswap Labsが、ここにきて手数料収入を受け取り持続的なビジネスモデルを構築する方向に舵を切ったというわけだ。
Uniswapは誰のもの? 株主 vs トークン保有者の構図に
先述の通り、Uniswap Labsが手数料を徴収するのは、自社サイト経由での取引に対してだけだ。ユーザーは、他のサイトやアグリゲーター等を通じた別の方法でUniswapを利用できる。ここで問題になるのが、Uniswapのガバナンストークン「UNI」保有者による投票で導入が検討されている「プロトコル手数料スイッチ」の存在だ。UNI保有者に対して手数料が分配されるこちらの仕組みは、まだ導入されていない。以前のDAOにおける投票では、僅差で導入反対派が勝利していた。
注目すべきは、企業(Uniswap Labs)とプロトコル(DAO)が別々に手数料を徴収しようとする構図ができてしまったことだ。株主とトークン保有者に対して、それぞれ、どのように価値を還元すれば良いのだろうか?ここが議論の対象になっている。
DeFi Pulseの創業者であるScott Lewisは、「Uniswap Labsの株主を利することによってUNI保有者から利益を強奪している」と批判。DragonflyのHaseebは、有名ポッドキャスト番組「UnChained」の中で、「ゼロサムゲームの状況を作り出しUniswapLabsに手数料が流れることで、Uniswapコミュニティの人々は裏切られたと考えるだろう」とし「そもそも株とトークンで別々で資金調達すること自体、アイデアとして間違っている。」という見解を述べた。
2022年10月、Uniswap Labsはポリチェーンなどから1億6500万ドルの資金調達を実施。Haseebによると、当時の投資家はUniswap Labs社にステークはあるが、UNIトークンには純粋な意味ではステークはないと述べている。
Uniswap.orgは、みんなが知っているUniswapのサイトだ。だが、ここからの手数料収入はUNIトークン保有者には分配されないのだ。何らかのインセンティブで他のサイトにいくのだろうか?100%断定できないが、0.15%という安い手数料にリテールユーザー(Uniswapのユーザー層の大半はリテール)が拒否感を示すと考えるのは、難しいだろう。取引量は引き続きUniswap LabsのサイトであるUniswap.orgに流れると考えられる。問題は、この場合、Uniswapコミュニティが手数料収入を「奪われた」と感じてしまうことだろう。
読者の方には、UniswapとdYdXの方向性に大きな違いが出始めことを理解いただけたと思う。この方向性の違いは、DAO運営や規制対策の面にも大きな影響を与えることになるだろう。創業者が所属する開発企業が、ビジネスモデルや法人格の面で段階的な分散化(Progressive Decentralization)を目指すのか。それとも、手数料収入に基づく持続的なビジネスモデルを構築してエコシステムに事実上の中心として居座り続けるのか。どちらが正解だったかは、時が教えてくれるだろう。
話題のTweet
先週は、コインテレグラフのETF承認の誤報が話題となりました。
トレジャリーデータ
DeepDAOによると、10月23日時点でDAOトレジャリーの総額は165億ドルと前週比で4.43%増加した。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が145億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が23億ドルだった。
ガバナンストークン保有者は800万人で、アクティブDAOユーザーは280万人だった。