【3月第5週】アービトラムのDAO運営 いきなり危機的状況に 財団への7億5000万ARB送付めぐり DAOレポート Vol.11
イントロ
Arbitrum(アービトラム)が、DAOのガバナンスでいきなり危機に直面している。
イーサリアムのレイヤー2ソリューションであるアービトラムは、先月、既存ユーザーに対して独自トークンARBエアドロップ実行。同時にDAOへの移行を発表し、ARBの関係各所への割り当て計画を発表した。
ARB発行量の42.78%にあたる42億7800万ARBが、アービトラムのDAOのTreasury(トレジャリー)に割り当てられる計画であることが分かる。トレジャリーとは、DAOが管理する資金を指す。
DAOのトレジャリーの使い道を決めるのは、DAOでの投票だ。アービトラムのDAOも、トレジャリーの使い道はガバナンス投票で決めると述べていた。しかし、アービトラムからガバナンス投票の存在を蔑ろにするような行為があり、多くの批判にさらされている
問題となっているのは、Arbitrum Foundation (アービトラム財団)が出した記念すべき第1回目の提案(AIP-1)。この中で、7億5000万ARBをアービトラム財団が作ったウォレットに送付し、「特別なグラント(助成金)」や初期費用、外注費用、経営管理費用に使うと述べた。これは全体の7.5%に相当する額で、執筆時点では1250億円だ。
この提案に対してアービトラムのDAOは、執筆時点で78%ほどが反対票を投じている。理由は、7億5000万ARBの使われ方が不透明であることやアービトラム財団の構成人数が不明であること、ウォレット管理のセキュリティ上の懸念だ。デリゲートのBlockworks Researchなどが反対の声をあげている。投票は明日終わる予定だ。
普通であれば、アービトラム財団の提案はDAOに否決されたことになり、7億5000万ARBの送付はされないことになる。しかし、実はアービトラム財団がすでに7億5000万ARBを自分達のウォレットに送ってしまっていたことが判明。さらに、下記のアドレス表から分かるように、そのうちの5000万ARBを既に使ってしまっていたことが明らかになった。
反対多数で投票がまだ終わっていないにも関わらず、アービトラム財団が提案内容を実行してしまったというわけだ。一体「投票」とは何なのかと疑問に思う人は多いだろう。
アービトラム財団は、その後釈明し「提案はリクエストではなく批准目的」と述べ、コミュニケーションの不備を認めた。その上で「鶏と卵の問題」とし、最初から全ての決定をDAO主導で行うことは非現実的であり、最初はアービトラム財団の裁量が特に必要になる点を強調した。
これはコミュニケーションだけの問題なのだろうか?エアドロップ以外のトークンはロックされていると考えるユーザーが多い中、実際7億5000万ドルのARBはアンロックされており、しかもその一部は使われていた。ARBの価格に与える影響を心配するユーザーがいても当然だろう。また、「批准目的」であるとしても、実際に反対票が多い。この反対票はどう扱うのか?そもそも、なぜスナップショットを使って投票にかけたのだろうか?
アービトラム財団が言うように、確かにDAOにおける「鶏と卵の問題」は存在するだろう。だからこそ、最初から全てが分散型で進むのではなく「Progressive Decentralization(段階的な分散化)」を提唱する人は多い。そこに異を唱える人は多くないだろう。
問題はガバナンス投票が実際に行われ、提案の目的が何であったとしても、DAOの意志が無視された形になっていることだろう。
今週のDAOニュース
【3月25日】Eulerのハッカー、盗み出した2億ドルの内9,000万ドルを返却
DeFiプロトコルEulerから資産を盗み出したハッカーは、51,000 ETHとなる9000万ドル(約11.7億円)を返却したことが明らかになった。
3月13日にDeFiプロトコルEulerは、2億ドル(260億円)を盗まれるハッキング被害に遭い、同プロトコルはハッカーへ盗んだ資産の90%の返却を求めていた。
ハッカーがイーサスキャンを通して、「自分の取り分以外の資産をもらう意図はない」とコメント。残りの資産の返却に応じる姿勢を見せている。
【3月25日】bZxの集団訴訟、DAOのガバナンストークン保有者への責任を認める判決
DeFiプロトコルbZxのハッキングにより被害を受けたユーザーが、集団で訴訟を起こしている。
bZxはDAOによって運営されており、争点となるのは、DAOのガバナンストークンを保有者に課される責任問題である。
裁判所が下した判決によると、DAOを「一般的なパートナーシップ」として分類し、DAOのガバナンストークン保有者はプロトコル投資家に対して「注意義務」を負っているという原告の立場に同意した。
【3月28日】Lido、ステーキング解除のプロセスにNFTの活用を計画
ステーキングサービスを提供するLidoが、ステーキングを解除するプロセスの一つとしてNFTを導入する計画を発表した。
ユーザーがステーキングするイーサリアムを出金する場合、まずはリクエストを送信する。その際、Lidoから転送不可のNFTが発行され、NFTを使用してイーサリアムを受け取ることになる。
このNFTによる出金は、イーサリアムの主要アップデートShanghai(上海)以降に利用可能となり、ステーキングからアンステーキングまでのプロセスをより透明かつ簡潔にすることが目的である。
【3月29日】MakerDAO、真の分散化を目指すエンドゲームの開幕
分散型ステーブルコインDAIを発行するMakerDAOは、同プロジェクトの分散化へのロードップ「エンドゲーム」の開始を発表した。
エンドゲームの基盤となるMaker憲法が先週の投票により可決され、エンドゲームのチャプター0の幕開けとなった。
MakerDAOは、エンドゲーム(最終地点)としてMakerプロトコルの独自のトークンシステムやステーブルコインDAIの真の分散化を目指している。
【3月30日】ユニセフ、所有する暗号資産の運用を管理のためDAO設立を検討
国連機関であるUNICEF(ユニセフ)は、DAOの設立を計画している。
ユニセフは、2019年10月にビットコインとイーサリアムで寄付を受け取るUNICEF CryptoFund を設立しており、今回のDAOの検討はその取り組みの一環である。
ユニセフのブロックチェーン担当者によると、現在既にオープンソースの投票ツールSnapshotなどの試していると述べた。
注目のプロポーザル
① アービトラム、DAOの構造と資金調達に関する提案- AIP-1: Arbitrum Improvement Proposal Framework
提案 / 投票(4月3日投票終了)
アービトラムのDAOが設立されてから初めての提案となる、DAOの構造と資金調達に関する投票がスタートした。
この提案は、ARB保有者で構成されるDAOの目的を説明。12 人のメンバーからなる「セキュリティ評議会」は、緊急時の対応を行う権利を持ち、「Arbitrum Foundation(財団)」は、コミュニティの希望を汲み取り助成金を管理する。
アービトラム財団が7億5000万ARBをトレジャリーから自信のウォレットに割り当てたことについて、批判が集まっている。
② Aave、エアドロップされたARBトークンの活用 - [TEMP CHECK] - Aave DAO’s $ARB Airdrop Allocation
提案/ 投票(4月3日投票終了)
分散型のレンディングプロトコルAaveがエアドロップで受け取った270万ドル(約3億5000万円)の相当のARBトークンの用途を議論する提案。
付与されたアービトラムのガバナンストークンARBの活用として以下の4つが挙げられている。
ARBトークンを保有し、アービトラムのガバナンスに参加する。
流動性マイニングプログラムにARBトークンを提供し、アービトラムのマーケットの成長をサポートする。
ステーブルコインまたはイーサリアムに交換し、AaveDAOのトレジャリーに追加する。
上記3つのオプションを全て実行する。
③ Aave V3、BNBチェーン展開を提案 - [TEMP CHECK] Aave V3 deployment on BNB Chain
提案 / 投票(4月1日投票終了)
分散型のレンディングプロトコルAaveのDAOは、BNBチェーンへのデプロイ(展開)を提案している。
提案者によると、PancakeSwapなど複数の著名な分散型プロトコルがBNBチェーン展開をしていることを例に挙げ、AaveとBNBチェーンのコミュニティ間の成長とコラボレーションの機会につながると説明。
この提案は、拘束力を持たない投票であるテンパーチャーチェックの段階である。
④ dYdX、ガバナンスポータルをCommonwealthからDiscourseに変更する提案 - Should the dYdX Community Transition from Commonwealth to Discourse? 提案 / 投票(4月3日投票終了)
暗号資産のトレーディングを提供する分散型取引所のdYdXは、DAOの提案やディスカッションを行うガバナンスポータルとして、「Commonwealth」を採用しているが、今回「Discourse」へ変更することが提案されている。
この理由として、Commonwealthのユーザーインターフェイスに発生するバグや、スレッドの構造における実用性が欠如していることが挙げられている。
一方のDiscourseは、翻訳機能をはじめとする多数のプラグイン機能があり、より良いフォーラムを提供することが可能となると説明し、ガバナンス参加者の増加につながると期待している。
⑤ SafeDAO、未請求のエアドロップトークンの対処 - [SEP #5] Redistributing Unredeemed Tokens From User Airdrop Allocation 提案 / 投票(3月29日投票終了)
SafeDAOは、エアドロップ受け取りの権利を持つユーザーが未だに請求していない3200万のSAFEトークンの対応について、コミュニティの意見を求めている。
以下の2つが選択肢として挙げられている。
すでにエアドロップされたSAFEを請求したアドレスへ、4年間にわたり再分配する。
請求期間の延長など、他の選択肢を模索する。
話題のTweet
多くのDAOのトレジャリー管理方法=資金の流出を防ぐのは「マルチシグ」。
データ振り返り
トレジャリー総額
DeepDAOによると、今週のトレジャリー総額256億ドルの内訳は、流動性のある資産は221億ドル(Liquid)、権利が確定していない資産は35億ドル(Vesting)だ。前週比で、47.9 %増加した。 アクティブDAOユーザー数は、670万人、ガバナンストークン保有者数は、180万人だった。
オススメの読み物
①「DAOドロップというトレンド」”The Emerging DAODrop Trend” written by Mike Zajko
エアドロップの次に来るトレンドはDAOドロップ?先日話題となったイーサリアムのレイヤー2であるアービトラムのエアドロップは、実はDAOドロップの要素もある。DAOドロップは、プロジェクトがプロジェクトに対して行うエアドロップ。自分のプロトコル上にアプリを作ってくれたチームに対してエアドロップを実行する。DAOドロップを過去に行った例としてアービトラムとコラボランドの2つがあげられている。
② 「ブラーのエアドロップ効果を分析」 The Blur blitzkrieg written by Antonio García Martínez
NFTマーケットプレイスの王者オープンシーから、独自トークンのエアドロップで一気にシェアを奪ったブラー。エアドロップを受け取ったユーザーが取引量全体に占める割合は多く、マーケティング策として成功したように見える。ユーザーの継続利用の割合を示すリテンション率も、エアドロップを受けていないユーザーと比べて高い。しかし、ほとんどのエアドロップがエアドロップによる報酬獲得を狙うファーマーである可能性が高い。彼らは複数のウォレットを作ってそれぞれでエアドロップの資格を獲得し、エアドロップを受けたら全てのトークンを一つのウォレットに移動し、売却する。
③「あなたの推しのDAOは本当にDAOと言えるのか?」”Is your favorite DAO really a DAO?” written by Tally
あなたの推しのDAOは本当にDAOと言えるのか?DAOの定義は無数に存在し、何が成功なのか結論づけられていない。「DAO」という言葉をマーケティングのために乱発するような風潮もある。そんな中、DAOガバナンス事業を手掛けるStable Labが、DAOの成熟度を測るための「DAOmeter」を開発・発表した。DAOが持続的かつ効率的にオペレーションできるのか、その成熟度を測ることが目的だ。コミュニティ、トレジャリー、投票、提案、セキュリティ、ドキュメンテーションという6つのカテゴリーで評価する。現在のところ、MakerやAave、Uniswap、Sushiswapなど21のDAOが評価されている。
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