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[5月第3週] DAOレポート Vol.19

イントロ

「Decentralization(分散化)とは『Direction(方向性)』の話であって『Destination(目的地)』の話ではない」

4月に開催されたDAO Tokyoのとあるパネルディスカッションで印象に残った言葉だ。どこかに分散化という最終形態が存在するのではなく、常に分散化というベクトルで物事を進めていくことが求められている。完璧な分散化の状態は現時点では存在せず、未来永劫存在しないかもしれないが、その方向性は見失っては行けない。

先週、Trustless(トラストレス, 信頼しなくて良い状態)の文脈で上記の議論を思い出す出来事があった。ハードウェアウォレットのLedgerの騒動だ。

Ledgerを購入れば、自分が秘密鍵を管理して自分の資産を自分のみが管理できる。その過程で誰も信頼(トラスト)しなくて良い。Ledger社でさえ自分の秘密鍵に手出しはできない。上記のように信じていたLedgerユーザーは多かったのだろう。

先週Ledgerは、Recoverという秘密鍵を暗号化された3つのシャードに分解して3つの異なる外部組織に預かってもらうという新たなプロダクトを導入した。Recoverはオプショナルであり、使いたくない人は使わなくてもいい。

しかし多くの人々が不安視したのは、ファームウェアのアップデート時にRecoverのオプションを追加することで、Recover の利用者じゃなくても秘密鍵が(たとえ暗号化されているとは言え)外部に送られてしまう余地を作ったのではないかというセキュリティ面での懸念だろう。そして議論は今、そもそもLedgerは、仮に悪意を持てば、利用者の秘密鍵を外に出せるようにファームウェアをアップデートできるのか?という展開になり、Ledgerの答えは、今も昔も変わらずという前置きで「Yes」だった。

クリプトのモットーは、「Don't Trust, Verify」だ。中央集権的な組織に左右されず、他の誰も信頼しなくて済むことはクリプト民にとって最上級の是だ。Ledgerはそんな原理原則の最大の味方だったはずだ・・・。多くのクリプトユーザーが裏切られたと感じても不思議ではない。

LedgerのCTOであるCharles Guillemetは、「Ledgerのことを少しは信頼する必要がある」釈明。また、Ledger共同創業者で元CEOのÉric Larchevêqueは、Ledgerのコミュニケーションで大きな問題があったとした上で、以下のように述べた

「人々はLedgerがトラストレスな解決策だと思っていたようだが、それは真実ではない。いくぶんかの信頼はLedgerに置かれなければならない。Ledgerを信頼しない、つまり悪意あるハードウェア製造者と認識するのであれば、Ledgerは使うべきではない」

たとえLedgerであろうと完璧なトラストレスを実現するのは不可能であり、何かしらのトラストが必要になるということだ。

次の5億人への普及に向けて

出典:Blockware「ビットコイン供給量(黄)と世界人口に占めるビットコイン利用者の割合(緑)」

2030年には世界の人口の10%にビットコインが普及するという予測がある。これは現時点で約8億人にあたる。現在のビットコイン普及率は3億2000人と試算されていることから、2030年までに新たに5億人が暗号資産を使うことになる。

新たな利用者たちは、ハードウェアウォレット使用時に推奨されるように、秘密鍵(シードフレーズ)を紙やスチールにメモして個人で厳重に保管するようになっているのだろうか?かなりハードルが高いだろう。この点では、Ledger社が、おそらくめんどくさがりであろう次の5億人のために、Recover導入に踏み切った背景は理解できる。

今回のLedger騒動で判明したことは、人々の期待値をコントロールすることの大切さだ。いきなり「分散化」や「トラストレス」が実現するわけではないことを明確に示さないとダメだろう。『方向性』としては分散化やトラストレスな社会ではあるのは間違いないが、現状では何ができて何ができないのか、中央集権的なポイントはどこか、トラストポイントは何か、正直にコミュニケーションを取ることが大切だろう。

Ledgerの元CEOは今回は技術の問題ではなくコミュニケーションの問題という見解を示した。それに賛同する声は多いファッション路線での新たなユーザー層獲得も良いが、地道な教育活動が大事であることが問われているだろう。

本日は12回目の「ビットコイン・ピザ・デー」だ。分散化やトラストレスの開拓者であるビットコインの功績に思いを馳せ、原点に戻ることが今の業界には求められているかもしれない。

今週のプロポーザル

Weekly DAO Reportでは、Maker、Uniswap、Aave、Arbitrum、Optimism、dYdXのDAOに絞ってプロポーザルをまとめている。

  • UniswapをPolkadotのMoonbeamに実装 | Deploy Uniswap v3 on Moonbeam (2023)

  • Arbitrum DAOの収益をARB保有者に分配 Distribution of DAO Revenue to ARB Token Holders

    • Arbitrumの手数料収益などをARB保有者に分配することがフォーラムで提案されている。

    • これまでArbitrumのDAOは手数料収入など最大3,352ETHを獲得した。

    • ARB保有者のArbitrumガバナンスへの忠誠心を持続的に高めることが目的とされている。

    • ただ、とりわけ米国ではARBが証券とみなされるようになってしまうと懸念する声も上がっている。

      ✅ 投票開始: 未定
      ⏰ 投票終了: 未定
      ⚡ 投票: 未定
      💬 議論:https://forum.arbitrum.foundation/t/distribution-of-dao-revenue-to-arb-token-holders/14412
      ✍ 提案者: PSY

  • dYdXの分散化の未来を考える 必要なSubDAOとは何か?Crafting dYdX’s Decentralised Future: Essential subDAOs for Consideration

    • イーサリアムからコスモスへ移行する大型アップグレードv4以降、どのようなSubDAOが必要か提案している。

    • SubDAOは、DAOを専門別にさらに細分化した組織を指す。現在dYdXにはGrant Sub DAOとOperation Sub DAOがある。

    • 創業者アントニオからのコメントもあり、提案者は現時点でRisk Management subDAO、Treasury Management subDAO、
      そしてMarket Maker or Validator Business Development subDAOの3つの創設を提案した

      ✅ 投票開始: 未定
      ⏰ 投票終了: 未定
      ⚡ 投票: 未定
      💬 議論:https://dydx.forum/t/refining-our-path-forward-initial-subdaos-proposal-for-dydx-community/262
      ✍ 提案者: foxlabs

話題のTweet

DAOの全盛期はこんな感じ?

データ振り返り

DeepDAOによると、5月20日時点でDAOトレジャリーの総額は215億ドルと前週比で1.42%増加した。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が180億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が30億ドルだった。 アクティブDAOユーザー数は690万人ガバナンストークン、保有者数は220万人。共にほぼ横ばいだった。


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